前回は、景気の動向を知るための重要な手がかりとして、GDP、CPI、米国の雇用統計といった「経済指標」の見方について解説しました。経済の大きな流れを把握することが、投資における安心感につながるのでしたね。
さて、経済指標と並んで、日々のニュースで必ずと言っていいほど報じられるのが「為替レート」の動きです。特に、「1ドル〇〇円」といった円相場のニュースは、私たちの生活にも深く関わっています。最近の円安傾向で、「海外旅行が高くつくなぁ」「輸入品の値段が上がったな」と感じている方も多いのではないでしょうか。
実はこの為替の動き、海外の資産に投資している私たちインデックス投資家にとっても、自身の資産評価額を直接左右する、非常に重要な要素なのです。今回は、この「円安」「円高」が、私たちのインデックス投資にどのような影響を与えるのか、そしてその変動とどう付き合っていけば良いのかを、基本から分かりやすく解説していきます。
そもそも「円安」「円高」ってどういうこと?基本のキ
まず、言葉の意味を正確に理解しておきましょう。「円安」「円高」と聞くと、少しややこしく感じるかもしれませんが、ポイントは「円の価値が、外国の通貨に対して相対的にどう変わったか」です。
- 円安とは 円の価値が、他の通貨(例えば米ドル)に対して相対的に「安くなる」ことです。具体的には、1ドルと交換するために、以前よりも「より多くの円」が必要になる状態を指します。 例:1ドル=130円だったのが、1ドル=150円になった場合。 これは「円の価値が下がった」=「円安」です。
- 円高とは 円の価値が、他の通貨に対して相対的に「高くなる」ことです。具体的には、1ドルと交換するために、以前よりも「より少ない円」で済む状態を指します。 例:1ドル=130円だったのが、1ドル=110円になった場合。 これは「円の価値が上がった」=「円高」です。
では、なぜ為替レートは変動するのでしょうか?その背景には、二国間の「金利差」(一般的に、金利が高い国の通貨が買われやすい)、経済の成長期待や景況感の違い、輸出入のバランス(貿易収支)、あるいは国際的な紛争といった地政学的なリスクなど、様々な要因が複雑に絡み合っています。このため、為替レートは常に変動しているのです。
円安・円高が「インデックス投資」に与える影響のメカニズム
さて、ここからが本題です。S&P500や全世界株式(オルカン)など、海外の株式や債券に連動するインデックスファンドに投資している場合、この為替レートの変動は、私たちの「円建て」での資産評価額にどのように影響するのでしょうか?
そのメカニズムを、具体例で見てみましょう。 仮に、あなたが保有している米国株ファンドの評価額が「1万ドル」だったとします。
- 円安になった場合(例えば、1ドル=130円 → 1ドル=150円) 海外の資産の価値、つまり1万ドルというドル建ての価値が全く変わらなくても、それを日本円に換算した時の金額が増えます。
- 1ドル=130円の時:1万ドル × 130円/ドル = 130万円
- 1ドル=150円の時:1万ドル × 150円/ドル = 150万円 このように、円安が進むと、私たちの円建ての資産評価額は増加する要因となります。
- 円高になった場合(例えば、1ドル=130円 → 1ドル=110円) 逆に、円高が進むと、ドル建ての資産価値は同じでも、それを円に換算した時の金額が減ってしまいます。
- 1ドル=130円の時:1万ドル × 130円/ドル = 130万円
- 1ドル=110円の時:1万ドル × 110円/ドル = 110万円 このように、円高が進むと、私たちの円建ての資産評価額は減少する要因となります。
このことから分かるように、海外の資産に投資するインデックス投資には、「投資対象の価格(株価など)自体の変動リスク」に加えて、この「為替レートの変動リスク」も存在しているのです。
「為替ヘッジあり/なし」って何?ファンド選びの重要ポイント
投資信託のラインナップを見ていると、同じような名前のファンドでも、後ろに「(為替ヘッジあり)」や「(為替ヘッジなし)」と書かれているものがあります。これは、前述の為替変動リスクにどう対応するか、というファンドの方針を示しています。
- 為替ヘッジなし(通常はこちらが基本です) これは、為替レートの変動の影響を直接受けるタイプのファンドです。つまり、これまで説明してきた通り、円安になれば資産評価額が上がるプラスの恩恵を受けられ、円高になれば資産評価額が下がるマイナスの影響を受けます。
- 為替ヘッジあり こちらは、為替レートの変動による資産価値のブレをできるだけ抑えるための仕組み(通貨の先物予約取引など)を利用するタイプのファンドです。円高による資産の目減りを防ぐことができますが、その反面、円安によるプラスの恩恵も受けられなくなります。 また、重要な点として、為替ヘッジを行うためには一定の「ヘッジコスト」がかかります。このコストは、主に二国間の金利差などが影響し、長期間にわたってファンドのリターンを押し下げる要因となります。
では、どちらを選べば良いのでしょうか? 長期的な視点での国際分散投資においては、一般的に「為替ヘッジなし」のファンドが主流と考えられています。その理由としては、数十年にわたる長期投資の中では、為替の変動リスクはある程度平準化されるという考え方があることや、ヘッジコストが長期間かかり続けることのデメリットが大きいことなどが挙げられます。
為替変動とどう付き合う?インデックス投資家としての心構え
では、為替変動リスクを受け入れつつ、日々の為替の動きに一喜一憂せずに、長期的な視点でインデックス投資を継続していくためには、どのような心構えが必要なのでしょうか。
- 為替の短期的な動きは「予測しない、できない」と心得る 為替レートの将来の動きを正確に予測することは、プロのアナリストでも非常に困難です。ましてや、私たち個人投資家が、その予測に基づいて短期的な売買を試みるのは、多くの場合、失敗につながりやすいと言えます。タイミング投資は避けましょう。
- 為替リスクも「国際分散投資の一部」と捉える 世界経済の成長の恩恵を受けようと国際分散投資を行う以上、為替の変動は避けて通れない要素です。円高で資産評価額が下がってしまった時は、落ち込むのではなく、むしろ「海外の優良な資産を、円建てで普段よりも安く買えるチャンスだ」と前向きに捉え、毎月の積立投資を淡々と継続することが重要です。
- ポートフォリオ全体でリスクをコントロールする もし、為替リスクが気になるのであれば、海外資産だけでなく、ポートフォリオに日本の資産(日本株や日本債券のインデックスファンドなど)も組み入れておきましょう。そうすることで、円高局面での海外資産の目減りを、国内資産の値動きである程度緩和する効果が期待できます。
- 「長期的な視点」を忘れない 数十年単位の長期投資の中では、為替レートも円高になったり円安になったりを繰り返すのが自然です。短期的な為替の動きを見て、「今すぐ売った方がいいのでは…」「今が買い時かも…」などと慌てて投資方針を変えない、という強い意志が大切です。
為替の変動は、円高という「リスク」であると同時に、円安局面では私たちの資産を大きく押し上げてくれる「リターン要因」にもなり得ます。その両方の側面を冷静に理解し、受け入れることが求められます。
まとめ:為替はコントロール不能。だからこそ「やるべきこと」に集中しよう
今回は、インデックス投資家にとって重要な「円安・円高」といった為替レートの変動について、その基本的な意味から、私たちの資産に与える影響、そして賢い付き合い方までを解説しました。
- 円安・円高とは:円の価値が外国通貨に対して相対的に安くなるか(円安)、高くなるか(円高)ということ。
- インデックス投資への影響:海外資産に投資する場合、円安は円建て資産評価額にプラス、円高はマイナスに作用する。
- 為替ヘッジ:為替変動リスクを抑える仕組みだが、コストがかかり、円安の恩恵も受けられない。長期投資では「ヘッジなし」が主流。
- 投資家の心構え:短期予測はせず、為替リスクも分散投資の一部と捉え、長期的な視点で積立を継続する。
為替レートの変動は、私たちの力ではコントロールできません。したがって、私たちインデックス投資家にとって最も重要なのは、コントロールできない為替の動きに振り回されるのではなく、自分がコントロールできる「長期的な視点で、国際的に分散されたポートフォリオに、低コストで、コツコツと積立を続ける」という、投資の基本原則を淡々と守り続けることです。
為替変動リスクも、世界経済の成長に投資するためのパッケージの一部と捉え、冷静に、そしてどっしりと構えていきましょう。
さて、投資を続けていくと、資産配分が当初の計画からずれてくることがあります。次回は、そのズレを修正する「リバランス」という重要な作業について、詳しく見ていきたいと思います。
次回の第43回は、「【年に一度でOK】インデックス投資のリバランス、正しいやり方と必要性のすべて」と題して、多くの投資家が疑問に思うリバランスについて、その目的から具体的な手順までを網羅的に解説します。お楽しみに!