前回は、アセットアロケーションの核心である「株式」と「債券」の割合を、リスク許容度や年齢(投資期間)を考慮して、自分にとって心地よいバランスを見つけることの重要性についてお話ししました。
さて、アセットアロケーションの「どの資産にどれくらいの割合で投資するか」が決まったら、次に考えるのは「具体的にどの地域の資産に投資するか」です。
今回のテーマは、特定の国や地域、あるいは特定のテーマに投資を集中させるのではなく、インデックス投資の大きな特徴でもある、広く「世界全体」の経済成長に投資することの意義についてです。
投資の舞台は「世界」、その理由は?
「投資するなら、やっぱり身近な日本の企業や、自分がよく知っている国の資産が良いのでは?」 「わざわざよく知らない海外にまで投資する必要があるの?」
そう考える方もいるかもしれません。確かに、自分がよく理解しているものに投資するのは、一つの考え方です。
しかし、長期的な視点で資産形成を考えた場合、投資の舞台を日本国内だけに限定せず、広く「世界」に目を向けることには、非常に大きなメリットがあるのです。
なぜ、世界に投資することが合理的と言えるのでしょうか?その理由を探っていきましょう。
「カントリーリスク」を避ける賢い選択
まず考えたいのが、「カントリーリスク」です。これは、投資対象国特有の事情によって、投資した資産の価値が変動するリスクのことです。
具体的には、
- その国の経済状況が悪化する(景気後退、金融危機など)
- 政治的な混乱や社会情勢の不安定化が起こる
- 法律や税制が不利な方向に変わる
- 大きな自然災害が発生する
といったことが挙げられます。
もし、あなたの投資が特定の国、例えば日本だけに集中していた場合、日本経済が長期的に停滞したり、予期せぬ出来事が起こったりすると、あなたの資産全体が大きな打撃を受けてしまう可能性があります。現在の日本が抱える少子高齢化や人口減少、それに伴う潜在的な成長率の低下といった課題を考えると、日本だけに投資を集中させることのリスクも無視できません。
しかし、投資対象を世界中の国々に分散させていればどうでしょうか? ある国が不調だったとしても、他の国々の経済成長がそれをカバーしてくれる可能性があります。つまり、特定の国のカントリーリスクに過度に左右されることなく、ポートフォリオ全体の値動きを安定させる効果が期待できるのです。世界に分散投資することは、いわば「リスクの置き場所を一つにしない」という、賢明なリスク管理の方法と言えます。
世界経済は成長し続ける?長期的な視点
そもそも、なぜ世界に投資するのでしょうか?それは、長期的に見れば「世界経済全体は成長していく可能性が高い」という期待があるからです。
過去の歴史を振り返ってみても、
- 世界全体の人口は増加傾向にある
- 技術革新は絶えず進歩している
- グローバル化によって、モノやサービス、お金の移動が活発になっている
といった要因を背景に、世界全体の経済規模(GDP)は、短期的な浮き沈みはありながらも、長期的に見れば右肩上がりに成長を続けてきました。
もちろん、未来が過去と同じように進む保証はありません。しかし、人類がより豊かになりたい、より便利な生活を送りたいと願う限り、世界経済が長期的に成長していくと考えることには、一定の合理性があるのではないでしょうか。
世界全体に投資するということは、この「世界経済全体の長期的な成長」という、非常に大きな潮流に乗ることを目指す戦略なのです。特定の国の成長に賭けるよりも、より確実性の高いリターンを追求する方法と言えるかもしれません。
「どこが伸びるか」を予測する難しさ
「でも、どうせ投資するなら、これから一番成長しそうな国や地域に集中投資した方が、もっと儲かるんじゃないの?」
確かに、もし将来最も成長する国をピンポイントで予測できれば、その国の資産に集中投資することで、大きなリターンを得られる可能性はあります。
しかし、考えてみてください。数十年後、どの国が世界経済の中心になっているか、どの地域が最も輝いているか、それを今の時点で正確に予測することは可能でしょうか?
- 数十年前、世界中が日本の高度経済成長に注目しましたが、その後の長期停滞を予測できた人は少なかったでしょう。
- 2000年代以降、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などの新興国の成長が注目されましたが、近年はその成長ペースに鈍化が見られる国もあります。
- 今、注目されている国や技術が、10年後、20年後も同じように成長し続けているとは限りません。
このように、未来の「勝ち組」を予測することは、専門家であっても非常に困難です。過去の成長率が高かったからといって、未来も同じとは限らないのです。
特定の国や地域に集中投資するということは、「自分の予測が当たる」ということに賭ける、ある意味ギャンブル的な要素を含んでいます。もし予測が外れた場合、大きな損失を被るリスクも高まります。
それならば、最初から「どこが伸びるか」を予測しようとするのではなく、広く世界全体に網をかけておく方が、予測が外れるリスクを回避でき、より堅実なアプローチと言えるのではないでしょうか。
世界まるごと投資=より確実なリターンを目指す道
特定の国や地域、あるいは特定のテーマ(例えば、AI関連、環境関連など)に集中投資することは、うまくいけば大きなリターン、いわば「ホームラン」を打てる可能性があります。しかし、その反面、予測が外れたり、そのテーマが廃れたりした場合には、「三振」してしまうリスクも常に隣り合わせです。
一方で、世界経済全体に広く分散投資することは、特定のホームランを狙う戦略ではありません。どちらかというと、世界経済の平均的な成長率という「ヒット」を、長期的に着実に積み重ねていくことを目指す戦略です。
大きなリターンは期待しにくいかもしれませんが、特定の国やテーマへの依存度が低いため、大きな失敗をするリスクも相対的に低くなります。予測困難な未来に対して、よりどっしりと構え、長期的な視点で資産形成を進めていく上では、非常に合理的で、多くの人にとって受け入れやすい投資スタイルと言えるでしょう。
インデックス投資、特に全世界の株式市場に連動するようなインデックスファンドを活用すれば、この「世界まるごと投資」を手軽に、そして低コストで実践することが可能です。
まとめ:なぜ「世界まるごと投資」が合理的なのか?
第10回の今回は、特定の国や地域に偏らず、「世界経済全体」に投資することの意義について解説しました。
- カントリーリスクの分散:特定の国の経済不振や政治不安などの影響を和らげることができる。
- 世界経済の成長を取り込む:長期的に成長が期待される世界経済全体の恩恵を受けることを目指せる。
- 予測不要の合理性:「どこが伸びるか」を予測する難しさを回避し、より堅実なリターンを目指せる。
特定の国への集中投資はハイリスク・ハイリターンな側面がありますが、世界全体への分散投資は、リスクを抑えながら、世界経済の平均的な成長を着実に捉えていくことを目指す、非常に合理的なアプローチです。
インデックス投資を通じて、あなたも「世界まるごと投資」を始めてみませんか?
さて、世界全体に投資する意義が分かったところで、次回はそれを具体的にどう実践するのかを見ていきましょう。
次回の第11回は、「グローバルインデックスファンドの魅力:手軽に国際分散投資」と題して、世界全体への投資を簡単に実現できる「グローバルインデックスファンド」について、そのメリットや選び方のポイントなどを解説します。お楽しみに!