「投資を始めたけれど、毎日株価が気になってスマホばかり見てしまう……」
「上がったらすぐ売りたくなり、下がったら怖くなって損切りしてしまう……」
投資を始めたばかりの頃、こんな悩みを抱えることはありませんか? 実はそれ、あなただけではありません。多くの投資家が陥る「心理的な罠」なのです。
今日は、2025年12月にトウシルに掲載された非常に興味深い記事をもとに、「なぜ投資はガチャガチャ動かさない方が儲かるのか」について、投資初心者の方にも分かりやすく解説していきたいと思います。

結論から言うと、「口座を開設して積立設定をしたら、あとは投資のことを忘れてしまう」。これが、資産形成における最強の戦略の一つかもしれません。
1. 【ニュース解説】衝撃の事実!投資成績が良いのは「男性」より「女性」だった?
まずは、今回注目する記事をご紹介します。日本取引所グループ(JPX)から発表されたワーキングペーパー(研究報告書)の内容が、投資家の間で大きな話題となっています。
男性のほうが投資に詳しいはずなのに……?
一般的に、投資や経済の情報収集に熱心なのは男性が多いというイメージがあるかもしれません。しかし、実際の「投資成績」を見てみると、意外な結果が出ているのです。
ニュースの要点
- 日本取引所グループの調査によると、女性の投資家の方が男性よりも投資成績が良い傾向にある。
- 収益機会においては、女性の方が男性より6.3%も高い。
- 実際の収益率(リターン)でも、女性が男性を3.7%上回っている。
これは海外の研究でもよく言われていることなのですが、日本国内のデータでも同様の結果が証明された形になります。「詳しい知識があるから勝てる」というわけではないのが、投資の面白いところであり、恐ろしいところでもあります。
勝敗を分けたのは「売買頻度」
では、なぜこのような差が生まれるのでしょうか?
レポートや専門家の分析によると、最大の要因は「売買頻度の差」にあるとされています。
- 男性の傾向:頻繁に売買を繰り返す(トレード回数が多い)。
- 女性の傾向:一度買ったら長く保有する(トレード回数が少ない)。
つまり、「あれこれいじらず、どっしりと構えていた人の方が、結果的にお金を増やしていた」ということです。
私自身の投資経験を振り返ってみても、これには深く納得します。頻繁に売り買いして利益を出そうとした時よりも、忙しくて口座を放置していた時期の方が、気づけば資産が増えていた……なんてことはよくある話です。
2. 【深掘り解説】なぜ「売買」を繰り返すと損をするのか?(行動ファイナンス入門)
「安く買って高く売れば儲かるんだから、たくさん売買した方がチャンスが増えるんじゃないの?」
そう思う方もいるかもしれません。しかし、ここには「行動ファイナンス(行動経済学)」と呼ばれる、人間の心理が大きく関わってきます。
ここでは、投資初心者が知っておくべき2つの重要な専門用語を、噛み砕いて解説します。
① オーバーコンフィデンス(自信過剰)の罠
これは、特に男性に多いとされる心理傾向です。「自分は市場の動きを予測できる」「自分は平均的な投資家よりも上手くやれる」と、自分の能力を過信してしまう状態を指します。
自信過剰になると、次のような行動をとってしまいます。
- 「今が天井だ!」と決めつけて、早すぎるタイミングで利益確定(売却)をしてしまう。
- 「もっと下がるはずだ」と予測して、買い場を逃してしまう。
- 自分の予測が外れた時に、素直に間違いを認められず、損切りが遅れる。
結果として、無駄な売買が増え、高値づかみや安値売りを繰り返してしまうのです。
② 近視眼的損失回避
少し難しい言葉ですが、簡単に言うと「目の前の小さな損を、極端に恐れてしまう心理」のことです。
人間は、利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛の方を2倍以上大きく感じる(プロスペクト理論で知られています)と言われています。
長期で見れば右肩上がりの相場であっても、日々のニュースや株価ボードを見ていると、「今日は1万円下がった!」「暴落が来るかもしれない!」と、短期的なマイナスばかりが目に入ってしまいます。
これを「近視眼的(近くしか見えていない状態)」と言います。この心理状態に陥ると、長期投資なら本来持ち続けるべき場面で、「これ以上損をしたくない!」という恐怖に負けて売ってしまい、将来得られたはずの大きな利益を手放すことになります。
手数料無料でも「見えないコスト」は消えない
最近は、ネット証券を中心に「日本株の売買手数料無料」が当たり前になりつつあります。「手数料がかからないなら、何度売買しても損はないのでは?」と思うかもしれません。
しかし、ニュース記事の解説にもある通り、問題は手数料そのものよりも「判断のミス」にあります。
- 早すぎる利益確定による「機会損失」(もっと持っていれば2倍になったのに!)
- 焦って売ったことによる「損失の確定」(売らなければ戻ったのに!)
これらは手数料が無料でも発生する「見えないコスト」です。頻繁に売買すればするほど、この「判断ミス」をする回数も増えていく。これが、売買頻度が高い人のパフォーマンスが悪くなる根本的な理由なのです。
3. 【心理的ハードル】「待つ」ことの難しさと、動きたくなる心理
ここまで「売買頻度を減らす=ほったらかし」が正解だと頭では分かっていても、実際にそれを行うのは非常に難しいものです。
なぜ私たちは「待てない」のか?
人間には「何か行動を起こすことで、事態をコントロールしたい」という本能があります。これを「アクション・バイアス」と言います。
例えば、サッカーのPK戦でキーパーが真ん中に立っている確率は低いですよね。データ上は真ん中に立っていた方が止められる確率は高い場合でも、キーパーは左右に飛びたがります。「何もしないで点を入れられる」よりも「行動して点を入れられる」方が、心理的に納得しやすいからです。
投資も同じです。市場が暴落している時、「ただじっと耐える」というのは、非常に強い精神力を必要とします。「何か手を打たなければ!」と焦って売買ボタンを押してしまうのは、人間の本能として自然なことなのです。
ほったらかしが難しい人へ
「じっとしているのが苦手」「ついついスマホでチェックしてしまう」
そう自覚している人は、自分の意志力に頼ってはいけません。
ダイエット中に目の前にケーキがあれば食べてしまうのと同じで、いつでも売買できる環境があれば、売買してしまうのです。だからこそ、「仕組み」で解決する必要があります。
4. 【解決策】NISAとiDeCoは「強制力」が魅力!ほったらかし投資の仕組み
そこで登場するのが、皆さんもよく耳にする「NISA」と「iDeCo」です。
これらは単なる「税金がお得になる制度」ではありません。実は、「余計な売買をさせないための拘束具」としての機能が非常に優秀なのです。
今回のニュース記事でも、これらの制度活用が推奨されています。具体的にどういうことか、見ていきましょう。
NISA(特につみたて投資枠)の「売るともったいない」効果
新NISAの「つみたて投資枠」は、長期・積立・分散投資を前提とした制度です。
- 自動積立の威力:一度クレジットカードや銀行口座からの引き落とし設定をすれば、毎月勝手に買い付けが行われます。「今月は高いから買うのをやめようかな」といった余計な主観(ノイズ)が入る隙がありません。これを「ドル・コスト平均法」といい、高値づかみを防ぐ基本テクニックです。
- 売却のデメリット:NISA口座で商品を売却すると、その分の非課税枠(年間投資枠)は翌年まで復活しません(簿価ベースでの枠の再利用は翌年以降)。また、非課税メリットは長く保有して利益が大きくなるほど効果を発揮します。「今売ると非課税の恩恵が薄くなる」「枠を消費してしまう」という意識が、安易な売却へのブレーキになります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の最強の「ロック機能」
「どうしてもいじってしまう」という人にとって、iDeCoは最強の矯正ギプスです。
- 60歳まで引き出し不可:これが最大のデメリットであり、同時に最大のメリットです。どんなに株価が暴落して怖くなっても、現金として引き出して逃げることが物理的にできません。強制的に市場に留まることになります。過去の歴史を見ると、暴落の後には回復局面が来ることがほとんどです。iDeCoなら、狼狽売り(パニック売り)をして市場から退場することを、制度が防いでくれるのです。
- スイッチングの面倒くささが冷静さを生む:iDeCoの中で持っている商品を別の商品に変えることを「スイッチング」と言います。しかし、これには数日間のタイムラグが発生します。「今すぐ売りたい!」と思って注文を出しても、実際に約定するのは数日後。「デイトレード」のような素早い売買は不可能です。「注文を出しても数日かかるなら、まあいいか」という、ある種の「諦め」が、結果として不要な売買を抑制し、長期的なパフォーマンス向上に寄与します。
5. 【まとめ&実践】口座を開いたらパスワードを忘れるくらいが丁度いい
今回の記事と解説をまとめます。
- データが証明:頻繁に売買する人(男性傾向)より、どっしり構えている人(女性傾向)の方が投資成績は良い。
- 原因は心理:「自信過剰」や「短期的な恐怖」が、余計な売買を引き起こし、リターンを押し下げる。
- 対策は仕組み化:NISAやiDeCoによる「自動積立」と「売りにくい仕組み」を活用することで、誰でも「勝てる投資家の行動」を再現できる。
最後に:投資初心者の方へのアドバイス
投資の世界では、「稲妻が輝く瞬間に市場に居合わせなければならない」という格言があります。
株価が大きく上昇するのは、ほんの数日の出来事であることが多いです。頻繁に売買をして市場から出たり入ったりしていると、この「稲妻(急騰)」の恩恵を取りこぼしてしまいます。
私たち個人投資家ができる最善の策は、以下の通りです。
- ネット証券でNISAやiDeCoの口座を開く。
- 全世界株式(オール・カントリー)などの広く分散されたインデックスファンドを選ぶ。
- 無理のない金額で、毎月の自動積立設定をする。
- あとは、投資のことは忘れて、仕事や趣味、家族との時間を楽しむ。
極端な話、「証券会社のログインパスワードを忘れてしまった」という人の方が、数十年後に見たら一番儲かっていた、なんてことは往々にしてあり得ます(もちろん、本当に忘れてはいけませんが、それくらいの距離感がベストということです)。
毎日のニュースに一喜一憂するのは、プロのディーラーだけで十分です。
あなたは、あなたの人生を楽しみましょう。それが結果として、資産形成の成功にも繋がるのですから。

