【インデックス投資の教科書㊶】景気動向を知る手がかり!投資家が見るべき最重要「経済指標」トップ3

インデックス投資の教科書

前回は、経済の重要な「体温計」とも言える「金利」について、その変動が経済全体や私たちのインデックス投資にどのような影響を及ぼすのかを解説しました。金利の動きを理解することが、市場を読み解く上で重要でしたね。

さて、景気や物価、そして金利の動向を、私たちはどのようにして客観的に知ることができるのでしょうか?そのための重要な道具が、国や中央銀行などが発表する「経済指標」です。

経済ニュースを見ていると、「GDPがプラス成長に」「CPIの伸び率が市場予想を上回り…」といった言葉と共に、様々な数字が報じられています。これらの数字の意味を理解できるようになると、世界で今何が起きているのかをより深く把握でき、ご自身の投資に対する安心感や納得感にも繋がります。

今回は、数ある経済指標の中でも、特に重要で、ニュースでも頻繁に登場し、市場に大きな影響を与える「トップ3」の経済指標を取り上げ、その意味と見方を分かりやすく解説していきます。

最重要指標①:「GDP(国内総生産)」- 経済全体の大きさと成長率を測る

まず、最も基本的で最も重要な経済指標が「GDP(ジーディーピー)」です。GDPは「Gross Domestic Product」の略で、日本語では「国内総生産」と言います。

GDPとは、一定の期間内(通常は1年間または四半期)に、その国内で新たに生み出されたモノやサービスの「付加価値」の合計額のことです。非常に簡単に言えば、その国全体が稼いだ「儲け」の合計であり、その国の経済規模の大きさを示す最も代表的な指標です。

GDPから何が分かるのでしょうか?

  1. GDPの「大きさ」そのもの GDPの金額を見ることで、その国の経済力の大きさが分かります。例えば、米国のGDPは世界最大であり、次いで中国、そして日本やドイツが続く、といったように、国ごとの経済規模を比較する際にも使われます。
  2. GDPの「成長率(経済成長率)」 より頻繁に注目されるのが、GDPが前の時期と比べてどれだけ増えたか(減ったか)を示す「成長率」です。この成長率がプラスであれば、経済が順調に成長している「景気拡大」の局面、逆にマイナスが続けば、経済が縮小している「景気後退(リセッション)」の局面にあると判断されます。

では、なぜGDPが投資家にとって重要なのでしょうか? それは、経済全体の成長が、企業の業績向上に直結し、長期的には株価が上昇していくための根本的な原動力となるからです。特に、世界経済の約4分の1を占めると言われる米国のGDPは、世界中の投資家が最も注目する指標の一つです。

日本では、内閣府が四半期(3ヶ月)ごとに、速報値、改定値、確報値と、3回にわたって発表しています。

最重要指標②:「CPI(消費者物価指数)」- インフレ・デフレの公式な体温計

次に重要なのが、「CPI(シーピーアイ)」です。CPIは「Consumer Price Index」の略で、日本語では「消費者物価指数」と言います。

CPIとは、私たち消費者が日常的に購入する様々な商品(食料品、衣料品、ガソリンなど)や、利用するサービス(家賃、交通費、通信費など)の価格の変動を、総合的に捉えて指数化したものです。つまり、世の中の「物価」が上がっているのか下がっているのか、その度合いを測るための公式な「体温計」のような役割を果たします。

CPIから何が分かるのでしょうか?

特に注目されるのが、前年の同じ月と比べた「上昇率(%)」です。この数値が、インフレの勢いを示します。 例えば、CPIの上昇率がプラス2%であれば、「去年に比べて、身の回りのモノやサービスの値段が平均して2%上がった」ということを意味します。

このCPIの上昇率が、日本銀行やアメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が金融政策(利上げや利下げなど)を決定する上で、最も重視する指標の一つとなっています。中央銀行は、このCPIの上昇率が、目標とする物価上昇率(例えば年率2%など)を安定的かつ持続的に上回っているか、あるいは下回っているかを見て、金利をどう操作するかを判断するのです。

ニュースでは、天候によって価格が大きく変動しやすい生鮮食品や、価格変動の激しいエネルギーを除いた「コアCPI」あるいは「コアコアCPI」といった指標もよく報じられます。これは、物価のより基調的な(本質的な)動きを見るために使われます。

では、なぜCPIが投資家にとって重要なのでしょうか? それは、前回学んだように、CPIの上昇率が中央銀行の利上げ・利下げといった金融政策の判断に直結し、その金融政策が市場金利や株価に大きな影響を与えるからです。CPIの発表内容は、市場の金利観測を大きく左右し、株価の変動要因となります。

日本では、総務省が毎月発表しています。

最重要指標③:「米国の雇用統計」- 世界が固唾をのむ、景気の”今”を映す鏡

三つ目に挙げるのが、「米国の雇用統計」です。これは特定の指標の名前ではなく、米国の労働市場の状況を示す複数の指標の総称ですが、その中でも特に、「非農業部門雇用者数」と「失業率」の2つの数字が市場で最も注目されます。

雇用統計から何が分かるのでしょうか?

  1. 非農業部門雇用者数 これは、農業以外の産業で働いている人の数が、前の月と比べてどれだけ増えたか(減ったか)を示す数字です。景気が良ければ企業は人を雇い、景気が悪ければ雇い止めやリストラが増えるため、この数字は景気の良し悪しを非常に敏感に映し出す「景気の鏡」とされています。市場の事前予想と比べて多いか少ないかで、景気の強さが判断されます。
  2. 失業率 これは、仕事を探しているけれど職に就けていない人の割合を示します。この数値が低いほど、多くの人が職に就けているということであり、景気が良いと判断されます。
  3. 平均時給 従業員の平均的な時給がどれだけ上がったかを示す数字です。これが高すぎると、賃金の上昇が物価の上昇(インフレ)を引き起こす圧力になると見なされ、金融政策を判断する上で注目されます。

では、なぜ「米国の」雇用統計が、日本の投資家にとってもこれほど重要なのでしょうか? それは、世界最大の経済大国である米国の景気動向が、世界経済全体に大きな影響を与えるからです。そして何より、米国の金融政策を決定するFRBが、物価の安定と並んで「雇用の最大化」をその使命として掲げているため、この雇用統計の結果が、米国の利上げ・利下げ判断に絶大な影響力を持つからです。

米国の雇用統計は、原則として、毎月第1金曜日の夜(日本時間)に発表されます。その発表の瞬間は、世界中の金融市場が固唾をのんで見守り、結果次第で株価や為替が大きく動くことも珍しくない、非常に注目度の高いイベントとなっています。

まとめ:経済指標を「点」ではなく「線」で捉え、投資の羅針盤にしよう

今回は、インデックス投資家が知っておくべき最重要の経済指標として、「GDP(国内総生産)」「CPI(消費者物価指数)」「米国の雇用統計」の3つを取り上げ、その意味と見方を解説しました。

  • GDP:経済の「規模と成長」を測る。
  • CPI:物価の動き、「インフレ・デフレ」を測る。
  • 米国雇用統計:米国の「景況感と雇用」を測る。

これらの指標は、それぞれ経済の異なる側面から、現在の全体像を把握するための重要な手がかりとなります。

インデックス投資家として大切なのは、これらの指標の一回きりの結果(点)を見て、「良かったから買う」「悪かったから売る」といった短期的な売買をすることでは決してありません。

むしろ、複数の指標を組み合わせ、数ヶ月、数年といった時間的な推移(線)で見ていくことで、「経済は今、回復基調にあるな」「インフレの懸念が少し高まってきたな」といった、経済の大きなトレンドや変化の兆しを読み解くことができます。

そして、市場が大きく動いた際に、「今回の株価下落は、CPIが予想以上に強くて、利上げ懸念が高まったからだな」といったように、その背景を自分なりに理解することで、狼狽売りなどの感情的な行動を避け、冷静に、そして安心して長期投資を続けていくための大きな助けになるのです。

経済への理解を深めることは、まるで暗闇の航海で羅針盤を手に入れるようなものです。ぜひ、日々のニュースでこれらの指標に触れた際には、少し立ち止まってその意味を考え、ご自身の投資の羅ひとつのして活用してみてください。

さて、経済の大きな動きを捉える指標として、為替の動きも非常に重要です。次回は、この「為替」が私たちのインデックス投資にどのような影響を与えるのかについて、詳しく見ていきたいと思います。

次回の第42回は、「円安・円高はチャンス?インデックス投資への影響と付き合い方」と題して、国民的な関心事である為替レートの変動が、海外資産に投資するインデックスファンドの評価額にどう影響するのか、そのメカニズムと賢い向き合い方を解説します。お楽しみに!

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