【インデックス投資の教科書⑨】株式と債券の最適比率は?リスクとリターンのバランス術

インデックス投資の教科書

前回は、アセットアロケーションを構成する主要な「材料(資産クラス)」として、株式(攻め・成長担当)、債券(守り・安定担当)、そしてREITやコモディティなどの特徴について学びましたね。

今回は、いよいよアセットアロケーションの最も基本的かつ重要な部分、「株式」と「債券」の割合をどう決めるか?というテーマに踏み込みます。

アセットアロケーションの「肝」、株式と債券のバランス

前回お話しした通り、株式と債券は、それぞれリスクとリターンの特性が大きく異なります。この二つの資産の配合比率をどうするかで、あなたのポートフォリオ全体の性格、つまり「どれくらいのリターンが期待できて、どれくらいのリスク(値動きの大きさ)があるのか」が、大きく左右されることになるのです。

まさに、アセットアロケーションの「肝(きも)」と言える部分ですね。どうすれば自分にとって最適なバランスを見つけられるのか、その考え方を探っていきましょう。

なぜ混ぜるの?株式と債券の「違う動き」がミソ

そもそも、なぜリスク・リターンの特性が違う株式と債券をわざわざ混ぜ合わせるのでしょうか?どちらか一方だけではダメなのでしょうか?

その答えは、株式と債券が、多くの場合、異なる値動きをする傾向があるからです。

一般的に、

  • 景気が良く、企業業績が伸びている局面(好景気):
    • 企業の株価は上昇しやすい(株式↑)
    • 一方、金利が上昇する傾向があり、債券価格は下落しやすい(債券↓傾向)
  • 景気が悪く、企業業績が悪化している局面(不景気):
    • 企業の株価は下落しやすい(株式↓)
    • 一方、安全資産とされる国債などが買われやすく、また金利が低下する傾向から、債券価格は上昇しやすい(債券↑傾向)

このように、一方が上がるときにはもう一方が下がる(あるいは上がらない)、といった逆の動き(逆相関)や、異なる動きをする傾向が見られることがあります。(ただし、注意点として、これはあくまで一般的な傾向であり、常にきれいに逆相関するわけではありません。経済危機時など、株式も債券も同時に下落するような局面も存在します。)

この異なる値動きをする二つの資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体の値動きをマイルドにする効果、すなわち「分散効果」が期待できるのです。

例えば、株式だけを持っていると市場全体が下がった時に大きく資産が減ってしまいますが、債券も持っていれば、債券価格の上昇(または下落幅の小ささ)が株式の下落を一部相殺してくれるかもしれません。これが、株式と債券を組み合わせる大きな理由の一つです。

守りの要!債券が果たす「クッション効果」とは?

株式と債券を組み合わせるメリットの中でも、特に重要なのが債券の「クッション効果」です。これは、ポートフォリオの「守り」の部分を担う債券が、衝撃(市場の急落)を和らげてくれるイメージですね。

投資をしていると、○○ショックと呼ばれるような、株式市場全体が大きく下落する場面に遭遇することがあります。もし、あなたのポートフォリオが株式100%だったら、市場の下落をもろに受けてしまい、資産価値が急激に減少する可能性があります。これは精神的にかなりキツイですよね…。

しかし、ポートフォリオの中に、株式とは値動きが異なる(あるいは値動きが小さい)債券が一定割合含まれていれば、株式が大きく値下がりしたとしても、債券部分がその下落を和らげてくれるのです。つまり、ポートフォリオ全体の価値の下落幅を、株式100%の場合よりも小さく抑える効果が期待できます。これが、債券の「クッション効果」です。

このクッション効果は、単に資産価値の減少を抑えるだけでなく、私たち投資家の精神的な安定にも大きく貢献します。

下落幅がマイルドであれば、「これくらいなら想定内だ」「まだ大丈夫だ」と冷静さを保ちやすくなり、恐怖心から投げ売りしてしまう「パニック売り(狼狽売り)」を防ぐことにつながります。結果として、長期的な視点で投資を継続しやすくなるのです。

特に、値動きに慣れていない投資初心者の方や、リスク許容度がそれほど高くない方にとって、債券のクッション効果は、安心して投資を続けるための心強い味方となってくれるでしょう。

あなたの最適比率は?「リスク許容度」と「年齢」から考えよう

では、具体的に株式と債券の割合をどのように決めていけば良いのでしょうか?その鍵となるのが、これまでにも触れてきた「リスク許容度」と「年齢(投資期間)」です。

  • リスク許容度(第5回):
    • 自己診断の結果、リスクに対する耐性が高いと判断された方は、株式の比率を高めにして、より大きなリターンを狙うことができます。
    • 逆に、リスクに対する耐性が低いと判断された方は、債券の比率を高めにして、安定性を重視するのが良いでしょう。
  • 年齢・投資期間(第3回、第6回):
    • 若い(投資期間が長い)方は、長期的な視点でリスクを取ることができるため、株式の比率を高めにし、複利効果を活かして資産成長を目指すことができます。
    • 年齢を重ねて退職が近い(投資期間が短い)方は、資産を取り崩していく時期が近づいているため、リスクを抑える必要性が高まり、債券の比率を高めにして安定運用を図るのが一般的です。

これらの要素を踏まえて、具体的な比率の目安としてよく使われる簡易的なルールがあります。それは、

「100 - 年齢 = 株式比率 (%)」

というものです。例えば、30歳なら株式70%(債券30%)、60歳なら株式40%(債券60%)といった具合です。年齢が上がるにつれて、自動的に債券比率が高まり、リスクを抑える配分になります。

ただし、これはあくまで非常にシンプルな目安であり、すべての人に当てはまるわけではありません。先ほど説明したリスク許容度(性格や資産状況など)や、具体的な投資目標によって、最適な比率は変わってきます。このルールは、考え始める際の「たたき台」くらいに捉えておくのが良いでしょう。

リスク許容度別の比率例としては、前回(第6回)でも挙げたように、

  • リスク許容度 高め → 株式 70~80% : 債券 20~30%
  • リスク許容度 中程度 → 株式 50~60% : 債券 40~50%
  • リスク許容度 低め → 株式 20~30% : 債券 70~80%

といったバランスも考えられます。これらの目安を参考に、ご自身の状況に合わせて調整していくことが大切です。

「正解」探しより「納得解」を!心地よいバランスが一番

ここまで、株式と債券の比率を決めるための考え方や目安についてお話ししてきました。

「じゃあ、計算上、一番リターンが高くなる比率とか、リスクが低くなる比率とか、そういう『正解』はないの?」

投資理論の世界では、過去のデータなどを用いて、特定のリスク水準で最も高いリターンが期待できるポートフォリオ(効率的フロンティアと言います)などを計算することも可能です。

しかし、忘れてはいけないのは、投資は理論だけで行うものではないということです。特に長期にわたって投資を続けていく上では、あなた自身の「感情」や「心理」が非常に大きな影響を与えます。

どんなに理論的に優れたポートフォリオであっても、その値動きにあなたが耐えられず、不安で夜も眠れなくなってしまったり、結局途中で売ってしまったりしては、意味がありませんよね。

ですから、「唯一の正解」や「計算上の最適解」を探し求めること以上に大切なのは、あなた自身が「このバランスなら、市場が変動しても精神的に落ち着いていられる」「これなら長期的に投資を続けられそうだ」と心から納得できる比率(=納得解)を見つけることです。

それは、もしかしたら一般的な目安よりも少し保守的(債券比率が高め)な配分かもしれませんし、逆に積極的(株式比率が高め)な配分かもしれません。それで良いのです。

大切なのは、他人や理論に合わせるのではなく、自分自身の心と向き合い、心地よいと感じるバランスを見つけること。

そして、一度決めた比率も、年齢やライフプランの変化、投資経験の蓄積などによって、心地よいバランスが変わってくる可能性があります。ですから、定期的に(例えば年に1回など)そのバランスを見直し、必要であれば調整していく「リバランス」という作業も、長期投資においては重要になってきます。(リバランスについては、また詳しく解説しますね!)

焦らず、じっくりと、あなただけの「納得できる」株式と債券のバランスを探してみてください。

まとめ:自分だけの「納得できる」バランスを見つけよう

第9回の今回は、アセットアロケーションの核心である「株式と債券の割合」について、その決め方の考え方やバランスの重要性を解説しました。

  • なぜ組み合わせる? → 株式と債券は異なる値動きをする傾向があるため、組み合わせることでポートフォリオ全体の変動を抑える「分散効果」が期待できるから。
  • 債券の「クッション効果」 → 特に株価下落時に、債券がポートフォリオ全体の下げ幅を和らげ、精神的な安定をもたらし長期投資を助ける。
  • 比率の決め方 → 「リスク許容度」と「年齢(投資期間)」が重要な判断基準。リスクを取れる/期間が長いほど株式比率を高めに、逆の場合は債券比率を高めに。
  • 目安は目安 → 「100-年齢=株式比率」などのルールはあくまで参考。自分の状況に合わせて調整が必要。
  • 「納得解」が重要 → 理論上の最適解よりも、自分が安心して長期的に続けられると感じる「納得できるバランス」を見つけることが最も大切。

株式と債券の割合は、あなたの投資のリスクとリターンをコントロールするための、最も基本的な「調整レバー」です。今回の内容を参考に、ぜひご自身にとって最適なバランスを考えてみてください。

さて、株式と債券の基本的な考え方が分かったところで、次はもう少し視野を広げてみましょう。

次回の第10回は、「特定の企業・テーマ・地域ではなく世界経済全体の成長に投資する意義」について解説します。インデックス投資の大きな特徴でもある「広く分散する」という考え方、特に「世界全体に投資する」ことのメリットや意味合いについて、深掘りしていきます。お楽しみに!

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