2026年2月27日、日本の金融・フィンテック業界に大きなニュースが飛び込んできました。SBIホールディングスと、ブロックチェーン技術企業のスターテイルグループ(Startale Group)が、共同開発を進めていた日本円ステーブルコインの名称を「JPYSC」に決定したと発表したのです。あわせて公式ロゴも公開されました。

「ステーブルコイン」「信託型」「3号電子決済手段」……と、聞き慣れない言葉が並んで「なんだか難しそう」と感じた方も多いのではないでしょうか。でも、安心してください。この記事ではJPYSCとは何か、なぜ注目されているのか、そして私たち一般投資家にとってどんな意味があるのかを、できるだけわかりやすく解説していきます。
ポイントをひとことでまとめると、「日本の大手金融グループが、法律に完全に準拠した形で、ブロックチェーン上に作る新しいデジタル円」です。正式なローンチは2026年度の第1四半期(4〜6月)を目指しており、日本のデジタル金融の歴史に新たな1ページが刻まれようとしています。
そもそも「ステーブルコイン」って何?基礎からおさらい
投資を始めたばかりの方にとって、「仮想通貨は知ってるけど、ステーブルコインはよくわからない」という方も多いと思います。まずはここから丁寧に確認していきましょう。
ビットコインとの大きな違い
ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨は、その価格が日々大きく変動します。1日で価格が10〜20%動くことも珍しくなく、「値上がりを狙える投資資産」である一方、「決済手段として使いにくい」という弱点がありました。「今日100円のラーメンを買おうとしたら、明日には50円になっているかもしれない」という状況では、なかなか日常的には使えませんよね。
そこで登場したのがステーブルコインです。ステーブル(Stable)は英語で「安定した」という意味。つまり、価格が安定するように設計された暗号資産・デジタル通貨です。
多くのステーブルコインは、米ドルや日本円など既存の法定通貨と1対1の価値を維持するように設計されています。たとえば世界で最も広く使われているUSDC(米ドル連動)は、1USDCが常に1米ドルと交換できるように設計されています。
日本で注目される「円建てステーブルコイン」
JPYSC(ジェイピーワイエスシー)は、この仕組みを日本円で実現しようというものです。1JPYSC=1円の価値を持つデジタルトークンが、ブロックチェーン上で流通します。
「それって、電子マネーやPayPayと何が違うの?」という疑問が浮かぶかもしれません。最大の違いは、ブロックチェーン技術を使っていることです。これにより、24時間365日・国境を越えたリアルタイム送金、プログラムによる自動決済(スマートコントラクト)、そして誰でも取引履歴を確認できる透明性といったことが可能になります。PayPayやSuicaなどの電子マネーは、あくまで特定の企業のシステム内で完結しますが、ステーブルコインはより開かれたオープンな基盤の上で動く点が大きく異なります。
JPYSCの最大の特徴「信託型(3号電子決済手段)」って何がすごいの?
JPYSCの発表で特に注目されているのが、「日本初の信託型」というキーワードです。これが何を意味するのか、しっかり理解すると、このプロジェクトがいかに革新的かがわかります。
日本のステーブルコインの分類
日本では2023年6月に改正資金決済法が施行され、ステーブルコインが「電子決済手段」として法律上に定義されました。その中で、以下のように分類されています。
1号電子決済手段:資金移動業者が発行するタイプ。昨年(2025年)10月に国内初として登場した「JPYC」がこれにあたります。1回あたりの送金に100万円の上限があるなど、一定の制限があります。
3号電子決済手段(特定信託受益権):信託会社・信託銀行が発行するタイプ。JPYSCはこちらに分類されます。こちらは100万円の送金制限がなく、より大規模な取引にも対応できます。
JPYSCは、新生信託銀行(SBI新生銀行の子会社)が発行体となる、3号電子決済手段です。これが「日本初」と呼ばれる所以です。
「信託」が持つ安心感とは?
「信託」という言葉が難しく感じるかもしれませんが、かんたんに言えば「財産を別の機関に預けて、厳重に管理・保護してもらう仕組み」です。
JPYSCの場合、ユーザーが円を預けると、その資産は信託財産として新生信託銀行が厳格に分別管理します。そして、その裏付けとしてブロックチェーン上にJPYSCが発行される、という流れです。
この仕組みの最大のメリットは万が一の倒産時にも資産が守られることです。仮に発行に関わる会社が破綻した場合でも、信託財産は一般の債権者(お金を借りている相手)から法的に切り離されて保護されます。銀行預金の預金保険(ペイオフ)とは仕組みが異なりますが、信託法という法律に基づく強固な安全性が担保されているのです。
これは「規制の外にある怪しいコイン」とは根本的に異なる、信頼性の高い設計です。
JPYSCはどんな場面で使われるの?活用シーンをわかりやすく解説
JPYSCは単なる「デジタルなお金」にとどまらず、さまざまな分野での活用が期待されています。発表資料によると、主に以下の用途が想定されています。
1. クロスボーダー決済(国際送金)
現在、海外への送金は手数料が高く、着金まで数日かかることが多いです。中継銀行を複数経由するため、どこかのタイミングでお金が「どこにあるかわからなくなる」ことも。ブロックチェーン上のJPYSCを使えば、ほぼリアルタイムかつ低コストで国際送金が可能になる可能性があります。日本企業が海外取引先に支払いをする際や、外国人旅行者が日本で決済する際などへの活用も期待されています。
2. 機関投資家の大規模取引・トークン化資産の決済
JPYSCは100万円の制限がない3号電子決済手段のため、大企業や機関投資家が何億・何十億円という大規模な取引を行う際にも活用できます。さらに「トークン化資産」の決済にも対応するとされています。
トークン化資産とは、不動産や株式などの現実世界の資産をブロックチェーン上のトークン(デジタルデータ)として表現したものです。たとえば「1億円のビル」を1万トークンに分割して、1トークン1万円から誰でも投資できるようにする、というような未来が考えられています。実際に、野村HD・大和証券グループと3メガバンクが「ステーブルコインを使ったブロックチェーン上での株式決済の実証実験」を進めており、金融庁もこれを支援していることが2025年2月に発表されています。
3. AIエージェントによる自動取引への活用
SBIの北尾会長が基調講演で強調したのが、AIと金融の融合です。AIが自律的に取引判断を行う「AIエージェント」が普及すると、秒単位で大量のマイクロ取引が発生します。こうした自動化された取引の決済手段として、プログラム可能なJPYSCが重要な役割を果たすと見込まれています。
「個人投資家がAIエージェントを通じて機関投資家と同じ市場に直接アクセスできる世界」が来るかもしれない、と北尾氏は述べました。つまり、これまでは大手金融機関しかアクセスできなかった市場に、一般の私たちも参加できる可能性が広がるということです。
背景にある日本のルール変化と規制の話
JPYSCが登場する背景には、日本の金融規制・税制の大きな変化があります。投資初心者の方にとっては「法律の話は難しい…」と感じるかもしれませんが、ここを知ることで「なぜ今なのか」が見えてきます。
国内の暗号資産市場は急成長中
SBI北尾会長の基調講演によると、日本国内の暗号資産(仮想通貨)口座数はすでに1,400万口座に達しています。これはNISA口座数(少額投資非課税制度)の約半分という規模です。預託金残高の合計は5兆円を突破しており、「すでに資産クラスとしての地位を十分確立している」と言える水準です。
税制改正への期待:分離課税への移行
現在、暗号資産で得た利益は「雑所得」として総合課税の対象となり、最大55%という高い税率が課される場合があります。これが「日本における暗号資産投資の最大の障壁のひとつ」と言われてきました。
しかし、2026年税制改正大綱に、申告分離課税への移行が盛り込まれました。申告分離課税とは、株式投資などで採用されている課税方式で、税率が一律20.315%になります。これが実現すれば、暗号資産の税負担が大幅に軽減され、より多くの人が参入しやすくなります。
米国の動向も追い風に
米国では2025年7月にジーニアス法(GENIUS Act)というステーブルコイン規制の連邦法が成立しました。これにより、米国内でのステーブルコインの法的な位置づけが明確化され、機関投資家が安心して参入できる環境が整いつつあります。
世界最大の金融市場である米国で規制が整備されることは、グローバルにステーブルコインを展開しようとするJPYSCにとっても大きな追い風となります。
また、米国の株式取引アプリ「ロビンフッド」がトークン化株式サービスを開始し、半年で取扱銘柄を10倍以上に増やしたという事例も紹介されました。「投資家は新しいものに敏感。日本も置いてかれないようにする必要がある」という北尾氏の言葉には、強い危機感が込められています。
SBIグループのさらなる野望と、投資初心者が知っておくべきこと
JPYSCの発表は、SBIグループの壮大な金融戦略のほんの一部に過ぎません。今回の基調講演では、さらに興味深い計画が明らかになりました。
USDCレンディングの開始
SBIの子会社であるSBI VCトレードは、世界最大の規模を誇る米ドル建てステーブルコイン「USDC」を発行するCircle社とジョイントベンチャーを設立し、USDCのレンディング(貸し出し)サービスを展開する計画も発表されました。
レンディングとは、保有している暗号資産を取引所や事業者に貸し出し、利息を受け取る仕組みです。貯金に近い感覚で暗号資産を運用できるため、初心者にも比較的わかりやすいサービスです。ただし、元本保証はなく、貸し出し先の倒産リスクなども考慮する必要があります。
ブロックチェーンの進化:レイヤー2技術
JPYSCはブロックチェーン上で発行されますが、ブロックチェーン技術自体も急速に進化しています。北尾氏は基調講演で「レイヤー2(L2)技術」について説明しました。
かんたんに言うと、ブロックチェーン(レイヤー1)はたくさんの取引が集中すると処理が遅くなり、手数料(ガス代)が高騰してしまいます。レイヤー2はその上に作られた「高速道路の追加レーン」のようなもので、大量の取引をまとめて高速処理し、最終結果だけをレイヤー1に記録することで、速度と低コストを実現します。
JPYSCがこのレイヤー2技術の上で動くことで、大量の決済をスムーズかつ安価に処理できるようになります。スターテイルグループはすでに、ソニーグループと共同開発するブロックチェーン「ソニューム(Soneium)」上で米ドル建てステーブルコイン「USDSC」を展開しており、その技術的な知見がJPYSCにも活かされると見られています。
投資初心者が今できることは?
JPYSCはまだ正式ローンチ前(2026年4〜6月目標)のため、今すぐ購入したり使ったりすることはできません。ただ、以下のことを意識しておくと、今後の動きについていきやすいでしょう。
まず、SBI VCトレードに口座を開いておくことが一つの選択肢です。JPYSCの主要な販売パートナーはSBI VCトレードとされているため、正式ローンチ後にいち早くアクセスできる可能性があります。
次に、ステーブルコイン全般の基礎知識を身につけることです。JPYSCのほかにも、JPYCやUSDCなど様々なステーブルコインが存在します。それぞれの仕組みやリスクを比べて理解することで、将来的な活用に役立ちます。
そして何より重要なのは、分散投資の考え方を忘れないことです。ステーブルコインは価格が安定している分、大きな値上がり益は期待しにくいですが、決済手段や資産の一部として保有する役割があります。仮想通貨全般への投資は価格変動リスクがあるため、余裕資金の範囲内で少しずつ学びながら関わることが大切です。
まとめ:JPYSCが変える、日本の金融の未来
今回ご紹介したJPYSCについて、重要なポイントをおさらいしましょう。
SBIホールディングスとスターテイルグループが共同開発する「JPYSC」は、新生信託銀行が発行する日本初の信託型円建てステーブルコインです。2026年度第1四半期(4〜6月)のローンチを目指しており、日本の改正資金決済法に基づく「3号電子決済手段」として設計されています。
最大の特徴は、信託法による強固な資産保全の仕組みと、100万円という送金上限制限がない点です。これにより、個人の日常決済だけでなく、企業間の大規模決済、クロスボーダー送金、さらには機関投資家のトークン化資産取引まで、幅広い用途での活用が期待されています。
また、背景には日本の暗号資産市場の急成長(口座数1,400万、預託金5兆円超)、税制改正(申告分離課税への移行)、米国での規制整備(ジーニアス法成立)という追い風があります。
「お金がブロックチェーン上を自由に行き交う世界」は、もはやSF映画の話ではありません。JPYSCはその実現に向けた、日本からの具体的な第一歩です。投資初心者の皆さんもこの流れを意識して、少しずつデジタルファイナンスの世界に慣れ親しんでいくことをおすすめします。
引き続き、最新情報をチェックしながら、変わりゆく金融の世界を一緒に楽しんでいきましょう!
