これから投資や資産形成を頑張りたいと考えている皆さん、老後の資金について「なんとなく不安」を感じていませんか?
「退職金ってどれくらい貰えるんだろう?」
「一気にもらうのと、年金みたいに少しずつもらうの、どっちが得なの?」
そんな疑問を持つ方は非常に多いです。実は、退職金の受け取り方一つで、手元に残るお金(手取り)に数十万円、場合によっては数百万円もの差が出ることがあるのをご存知でしょうか。
今回は、東証マネ部!に掲載された記事をもとに、退職金の仕組みと、一番お得な受け取り方について、投資初心者の方にも分かりやすく徹底解説していきます。

1. 老後の不安を「見える化」して安心へ。ファイナンシャル・ウェルビーイングとは?
まずはじめに、今回のテーマの元となった東証マネ部!の記事についてご紹介します。
多くの人が抱える「老後資金への不安」。その大きな要因は、「実態がよく分からないこと」にあります。退職金があるのかないのか、いくら貰えるのか、税金はいくら引かれるのか……ここが曖昧だと、不安は募るばかりです。
そこで注目されているのが「ファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being)」という考え方です。
ファイナンシャル・ウェルビーイングとは?
「経済的な面で不安がなく、良好な状態」のこと。具体的には、日々の支払いに困らず、将来のお金に安心感があり、人生を楽しむためのお金の選択肢持てている状態を指します。
この状態に近づくための第一歩が、将来のお金の「見える化」です。特に、老後資金の柱となる「退職金」について詳しく把握することは、心の安定に直結します。
記事では、退職金制度の有無や金額を把握し、自分にとって最適な受け取り方(一時金か年金か)を知ることが、このファイナンシャル・ウェルビーイングへの近道であると説いています。
「まだ先のことだから」と後回しにせず、今から仕組みを知っておくことが、豊かな老後へのパスポートになります。では、具体的に中身を見ていきましょう。
2. あなたの会社にはある? 退職給付制度の基本と確認方法
「そもそも、うちの会社に退職金ってあるのかな?」
意外とここを知らない方が多いのが実情です。厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付制度がある企業は全体の約75%です。逆に言えば、4社に1社は退職金制度がありません。
退職金制度の種類を知ろう
退職金と一口に言っても、実はいくつかのパターンがあります。
- 退職一時金制度: 退職時にまとめてドカンと支払われる、いわゆる「退職金」。
- 退職年金制度: 退職後、一定期間にわたって年金のように分割して支払われる制度。
- 併用型: 一時金と年金の両方がある制度。
データによると、一時金のみの企業が約69%、年金のみが約9.6%、両方ある企業が約21.4%となっています。大企業ほど年金制度や併用型が整備されている傾向にあります。
また、会社の制度以外にも以下のような積立制度が利用されている場合があります。
- 確定給付企業年金 (DB): 会社が運用責任を持ち、将来もらえる額が決まっている年金。
- 確定拠出年金 (DC/iDeCo): 自分で運用商品を選び、運用の成果によって受け取り額が変わる年金。
- 中小企業退職金共済 (中退共): 中小企業が加入できる国の退職金制度。
まずやるべき「確認アクション」
投資初心者の方がまずやるべきは、ご自身の会社の「就業規則」や「給与規定(退職金規定)」を確認することです。
総務や人事の担当者に聞くのが一番早いですが、聞きにくい場合は社内イントラネットや入社時にもらった「福利厚生のしおり」などをチェックしてみましょう。「勤続何年以上で支給」といった条件や、「基本給 × 勤続年数 × 係数」といった計算式が書かれているはずです。これを知るだけで、将来の設計図がぐっと描きやすくなります。
3. 【一時金派のメリット】「退職所得控除」という最強の節税効果
ここからが本題です。「一括で受け取る(一時金)」のと「分割で受け取る(年金)」、どちらが得なのでしょうか?
まずは「一時金」で受け取る場合の税金の仕組みを見てみましょう。結論から言うと、一時金受け取りは税制面でめちゃくちゃ優遇されています。
税金が安くなる魔法の計算式
一時金として受け取るお金は「退職所得」という扱いになります。この税金計算には、会社員人生へのご褒美とも言える「退職所得控除(たいしょくしょとくこうじょ)」という大きな非課税枠が用意されています。
▼ 退職所得の計算式
退職所得の金額 = (収入金額 – 退職所得控除額) × 1/2
この式のポイントは2つです。
- 退職所得控除額が大きい: 勤続年数が長いほど、税金がかからない枠(控除額)が増えます。
- さらに半分になる: 控除額を引いた残りの金額に、さらに 1/2を掛けてくれます。つまり、課税対象が半分になるのです。
▼ 退職所得控除額の計算方法
- 勤続20年以下: 40万円 × 勤続年数
- 勤続20年超: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)
具体的な数字でシミュレーション
例えば、勤続38年で退職金が2,200万円だったとします。
- 控除額の計算:800万円 + 70万円 × (38年 – 20年) = 2,060万円 なんと、2,060万円までは税金がかかりません!
- 課税対象額の計算:(2,200万円 – 2,060万円) × 1/2 = 70万円 2,200万円もらっても、税金の計算対象になるのはたったの70万円です。
- 税金の計算:この70万円に対して所得税(約5%)と住民税(10%)がかかります。70万円 × 約15% = 約10.5万円
手元に2,200万円入るのに、税金はたったの約10万円。実質的な税率は約0.48%です。これが一時金受け取りの圧倒的なパワーです。
さらに重要なのが、この退職所得は「分離課税」であるという点です。給与所得や不動産所得など、他の収入とは切り離して計算されるため、その年の税率が跳ね上がることがありません。また、社会保険料(国民健康保険料など)の計算対象外であることも大きなメリットです。
4. 【年金派の注意点】年金形式は「雑所得」? 社会保険料への影響
次に、退職金を分割して「年金形式」で受け取る場合を見てみましょう。
「毎月定期的にお金が入ってくる方が、給料みたいで安心」
そう考える方も多いですが、税金や社会保険料の面では注意が必要です。
年金形式は「雑所得」になる
退職金を年金として受け取る場合、それは「退職所得」ではなく「雑所得」になります。公的年金(老齢基礎年金・厚生年金)と合算して計算されます。
▼ 雑所得の計算式
雑所得 = 年金収入金額合計 – 公的年金等控除額
この「公的年金等控除額」は、年齢や収入によって変わりますが、退職金の一時金受け取り時のような「 × 1/2 」という強力なおまけはありません。
最大のデメリットは「社会保険料」
年金受け取りの最大の落とし穴は、「総合課税」であり、かつ「社会保険料の計算対象になる」ことです。
- 税金が高くなりやすい:雑所得は、他の所得(もし再雇用で働いていれば給与所得など)と合算されます。日本の税金は稼ぐほど税率が高くなる「累進課税」なので、合算されることで税率が上がってしまう可能性があります。
- 国民健康保険料・介護保険料が上がる:ここが見落としがちです! リタイア後に国民健康保険に加入する場合、保険料は「前年の所得」をもとに計算されます。一時金で受け取れば所得とみなされませんが、年金で受け取ると「所得」としてカウントされるため、毎年の健康保険料や介護保険料が高くなるのです。また、医療費の窓口負担割合(1割〜3割)の判定にも影響する可能性があります。
つまり、額面では年金形式の方が多く受け取れるように見えても(利息がつく場合など)、税金と社会保険料を引いた「手取り」で見ると、一時金の方が多かった……というケースが少なくないのです。
5. 結論と戦略:あなたはどっち派? タイプ別おすすめ受け取り方診断
ここまで、一時金と年金、それぞれの税制面の特徴を見てきました。
「じゃあ、結局どっちを選べばいいの?」という疑問に対し、一般的なガイドラインと「考え方」をまとめました。
これは人生の大きな選択です。単純な損得だけでなく、ご自身のライフスタイルや性格に合わせて選ぶ必要があります。
A. 「一時金受け取り」が向いている人
多くの人にとって、税制面で有利なのはこちらです。
- 勤続年数が長い人: 退職所得控除の枠をフル活用できるため、税金をほぼゼロにできる可能性があります。
- 自分で資産運用ができる人: まとまったお金を元手に、新NISAなどを活用して年利3〜4%程度で堅実に運用できるなら、自分で増やした方が自由度が高いです。
- 税金や社会保険料を最小化したい人: 手取り額重視ならこちら。
- 住宅ローンを一括返済したい人: 借金をなくして身軽になりたい場合。
B. 「年金受け取り」が向いている人
税金や保険料の負担が増えても、管理のしやすさを優先する場合です。
- 自分で資産運用するのが怖い・できない人: 「大金を持つと使ってしまいそう」「投資で失敗するのが怖い」という方は、会社に管理してもらい、毎月定額をもらう方が安心です。
- 長生きリスクが心配な人: 終身年金(死ぬまでもらえるタイプ)を選択できる場合、長生きすればするほど受取総額が増えるため、長生きへの保険になります。
- 公的年金が少ない人: 国からの年金だけでは生活費が足りない場合、それを補う役割として活用できます。
初心者へのおすすめ戦略:ハイブリッドとプロへの相談
どちらか一つに絞る必要がない場合もあります。制度によっては「一部を一時金、残りを年金」と併用できるケースもあります。
【おすすめのステップ】
- 控除枠ギリギリまで一時金: まず、税金がかからない「退職所得控除額」の範囲内までは一時金で受け取ります。これで無税の現金を確保します。
- 残りを検討: 控除枠を超える分については、年金形式で受け取るか、税金を払ってでも一時金でもらうかシミュレーションします。
【最後のアドバイス】
退職金の受け取り方は、一度決めたら変更できないことがほとんどです。
「なんとなく」で決めるのではなく、必ず会社の退職金規定を確認し、概算額を出してみてください。そして、ファイナンシャルプランナー(FP)や税理士などの専門家に相談し、「手取り額」で比較シミュレーションを行うことを強くおすすめします。
大切なのは、あなた自身が「これなら安心」と思える選択をすること。それが、あなたのファイナンシャル・ウェルビーイングにつながります。
まとめ
今回の記事のポイントをおさらいしましょう。
- 現状把握: まずは就業規則で、自分の会社の退職金制度(一時金・年金・DCなど)を確認しましょう。
- 一時金の強み: 「退職所得控除」と「1/2課税」で税金が圧倒的に安く、社会保険料もかかりません。
- 年金の注意点: 雑所得となり、税金だけでなく国民健康保険料などの負担増につながるリスクがあります。
- 選択の基準: 運用が得意な人や節税重視なら「一時金」、管理をお任せしたい人や毎月の安定重視なら「年金」が基本です。
