【インデックス投資の教科書㊱】個人年金保険、本当に必要?インデックス投資と比較検討

インデックス投資の教科書

前回は、私たちの老後の生活を支える公的年金について、その受け取り開始時期を早める「繰上げ受給」と遅らせる「繰下げ受給」の仕組み、それぞれのメリット・デメリット、そして判断のポイントを解説しました。

公的年金は老後収入の大きな柱ですが、「それだけでは少し不安だな…」「もっとゆとりある生活を送りたいな」と考える方も少なくないでしょう。そこで今回は、公的年金に上乗せする形で自分自身で老後資金を準備する方法の一つとして、昔からよく検討される「個人年金保険」という金融商品を取り上げます。

この個人年金保険とは一体どのようなもので、どんな特徴があるのでしょうか?そして、この連載で学んできた「インデックス投資(投資信託)」と比較した場合、どちらが老後資金準備に適しているのでしょうか?そのメリット・デメリットを比較しながら考えていきましょう。

「個人年金保険」とは?基本的な仕組みと主な種類を知ろう

個人年金保険とは、生命保険会社などが販売している貯蓄型の保険商品の一種です。契約者が保険会社に対して定期的に保険料を払い込み、契約時に定めた年齢(例えば60歳、65歳、70歳など)に達すると、そこから一定期間、あるいは一生涯にわたって、年金形式でお金を受け取ることができる、という仕組みになっています。

その名前の通り「保険」の一種ではありますが、万が一の死亡保障といった保障機能よりも、「老後のための資金を計画的に積み立てて、将来年金として受け取る」という貯蓄機能に重きが置かれている商品が多いのが特徴です。

個人年金保険には、いくつかの種類があります。主なものを簡単に見てみましょう。

年金の受取期間による分類:

  • 確定年金:契約時に定めた一定期間(例えば5年間、10年間など)、被保険者(年金を受け取る人)の生死にかかわらず、必ず年金が受け取れます。もし期間の途中で被保険者が亡くなった場合は、残りの期間分の年金(または一時金)を遺族が受け取れます。
  • 有期年金:被保険者が生存している限り、契約時に定めた一定期間(例えば10年間、15年間など)、年金が受け取れます。期間の途中で被保険者が亡くなった場合、そこで年金の支払いが終了するタイプと、保証期間が設定されていてその期間内であれば遺族が受け取れるタイプがあります。
  • 終身年金:被保険者が生存している限り、文字通り「一生涯」にわたって年金が受け取れます。長生きすればするほど多くの年金を受け取れるため、長生きリスクに最も備えられるタイプと言えます。

運用方法による分類:

  • 定額個人年金:契約した時点で、将来受け取れる年金額(または運用に使われる予定利率)が確定しているタイプです。安定志向の方に向いていますが、インフレに弱いという側面もあります。
  • 変額個人年金:払い込んだ保険料を、保険会社が株式や債券などで作った特別な勘定(ファンドのようなもの)で運用し、その運用実績によって将来受け取る年金額や解約した場合の返戻金が変動するタイプです。運用がうまくいけば受取額が増える可能性がありますが、逆に元本を下回るリスクもあります。インデックスファンドと同様の運用を行う商品もあります。

これらの種類によって、将来の受取額の安定性や、万が一の時の取り扱いなどが異なりますので、ご自身のニーズに合わせて選ぶ必要があります。

個人年金保険の「メリット」と考えられる点は?

では、個人年金保険に加入することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?一般的に考えられる点をいくつか挙げてみましょう。

  1. 生命保険料控除(個人年金保険料控除)の対象になる場合がある 一定の税制適格要件(保険料払込期間が10年以上、年金受取人が契約者または配偶者など)を満たす個人年金保険であれば、払い込んだ保険料に応じて所得控除(個人年金保険料控除)が受けられ、その結果として毎年の所得税や住民税が軽減される可能性があります。ただし、控除額には上限があります(所得税で年間最大4万円、住民税で年間最大2万8千円)。
  2. 計画的な貯蓄が苦手な人でも、半ば強制的に老後資金を準備しやすい 毎月、指定した銀行口座から保険料が自動的に引き落とされるため、貯蓄がなかなか続かないという方でも、意識せずにコツコツと老後資金を積み立てていくことができます。「天引き貯蓄」のような効果が期待できるわけですね。
  3. 契約時に将来の受取額がある程度確定するタイプ(定額型)は、安心感がある 「定額個人年金」であれば、契約時に将来受け取れる年金の額がある程度決まっているので、「老後にいくらもらえるか分からない」という不安を軽減し、将来の見通しを立てやすいという安心感があります。
  4. 終身年金を選べば、長生きに対する経済的な備えになる 「終身年金」タイプを選べば、自分が生きている限りはずっと年金を受け取り続けることができるため、「人生100年時代」と言われる現代において、長生きすることでお金が足りなくなるリスク(長生きリスク)に備えることができます。
  5. 商品によっては、死亡給付金が支払われるものもある 年金を受け取り始める前に被保険者が亡くなってしまった場合などに、それまでに払い込んだ保険料相当額などが死亡給付金として遺族に支払われる商品もあります(ただし、支払われる金額は商品によって異なります)。

これらのメリットは、特に計画的な貯蓄が苦手な方や、将来の受取額の安定性を重視する方にとっては魅力的に映るかもしれません。

個人年金保険の「デメリット」や注意すべき点も理解しよう

一方で、個人年金保険にはデメリットや、加入を検討する前に必ず理解しておくべき注意点も少なくありません。

  1. インフレ(物価上昇)に弱い可能性が高い 特に「定額個人年金」の場合、契約時の予定利率が固定されてしまうため、将来的に物価が大きく上昇した場合(インフレが進行した場合)、受け取る年金の実質的な価値が大幅に目減りしてしまうリスクがあります。例えば、30年後に受け取る年金額が月10万円と決まっていても、その時の10万円の価値が、今の10万円と同じとは限らないのです。
  2. 資金の流動性が低い・途中解約は元本割れの可能性が高い 個人年金保険は、iDeCo(個人型確定拠出年金)と同様に、老後資金の準備を目的としているため、原則として契約時に定めた年金受取開始年齢になるまで、お金を自由に引き出すことができません。もし、途中で急にお金が必要になって解約する場合、特に契約してから年数が浅い段階での解約は、解約返戻金がそれまでに払い込んだ保険料の総額を大きく下回る(元本割れする)ことがほとんどです。
  3. 予定利率が低い時期に契約すると、運用効率が著しく悪い 現在の日本のような長期間にわたる低金利環境下では、「定額個人年金」の予定利率は非常に低く設定されています。そのため、貯蓄としての魅力は乏しく、他の運用方法(例えば、インデックス投資など)と比較して、資産が増えるスピードが著しく遅くなる可能性があります。
  4. 保険としての「保障機能」は主目的ではない 個人年金保険は、あくまで老後の生活資金を準備することが主目的であり、万が一の死亡時や病気・ケガに対する「保障機能」は、一般的な死亡保険や医療保険に比べて手薄な場合が多いです。「保険」という名前がついていますが、手厚い保障を期待する商品ではないことを理解しておく必要があります。
  5. 「変額型」は運用リスクを自身が負う 「変額個人年金」は、運用実績によって将来受け取る年金額が増える可能性がある一方で、運用がうまくいかなければ受取額が減ってしまうリスク、つまり元本割れのリスクを契約者自身が負うことになります。また、運用にかかる手数料(信託報酬に相当するものや、保険関係費用など)が、通常の投資信託に比べて高めに設定されている商品も少なくありません。

これらのデメリットや注意点を考えると、個人年金保険が必ずしもすべての人にとって最適な選択肢とは言えないことが分かります。

インデックス投資(投資信託)と比較した場合のポイントと結論

では、この個人年金保険(特に現在の主流である低利率の定額型を想定)と、私たちがこの連載で学んできた、NISAやiDeCoを活用した低コストな「インデックスファンドへの積立投資」を比較した場合、どのような違いがあるのでしょうか?いくつかの重要な観点から見てみましょう。

  • 流動性(換金のしやすさ):
    • インデックス投資(投資信託):原則としていつでも売却して現金化が可能(ただし、市場価格で売却するため損失が出る可能性もある)。
    • 個人年金保険:途中解約は大きな元本割れのリスクがあり、換金性は低い。
  • 収益性(リターンの期待値):
    • インデックス投資:市場全体の成長に連動するため、長期的に見れば大きなリターンも期待できる(もちろん、元本割れのリスクもある)。
    • 定額個人年金保険:現在の低金利下では、予定利率が極めて低く、インフレリスクを考慮すると実質的なリターンはマイナスになる可能性も。変額型は運用次第だが、手数料が高い傾向。
  • コスト(手数料):
    • インデックス投資(低コストファンド):信託報酬などの運用コストが非常に低く、明確。
    • 個人年金保険:保険契約関係費や運用関係費などが含まれるため、実質的な運用コストが分かりにくく、インデックスファンドに比べて高めな商品が多い。
  • 税制優遇:
    • 個人年金保険料控除:年間最大で所得税4万円、住民税2万8千円の所得控除(ただし、これは税額控除ではないため、節税効果は限定的)。
    • NISA:運用益が非課税(年間投資枠も大きい)。
    • iDeCo:掛金が全額所得控除、運用益が非課税、受取時も控除あり(税制優遇はiDeCoが最も手厚い)。
  • 柔軟性(変更のしやすさ):
    • インデックス投資:毎月の積立額や、投資するファンドの変更などが比較的自由に行える。
    • 個人年金保険:一度契約すると、保険料や受取期間などの契約内容を変更するのは難しい場合が多い。

これらの比較から見えてくるのは、老後資金を「増やす」という観点や、「柔軟性」「低コスト」といった観点では、多くの場合、NISAやiDeCoを活用したインデックス投資の方が有利になる可能性が高い、ということです。

もちろん、個人年金保険にも「半ば強制的に貯蓄できる」「定額型なら将来の受取額が確定する安心感がある」といったメリットは存在します。しかし、多くの場合、「保障は保障(掛け捨ての死亡保険や医療保険など)」「貯蓄・運用は貯蓄・運用(NISAやiDeCoを活用したインデックス投資など)」というように、金融商品をその目的別に分けて考える方が、シンプルで、かつ効率的で低コストな資産形成につながりやすい、と言えるでしょう。

ご自身の目的(確実に貯めたいのか、積極的に増やしたいのか、万が一の保障も少しは欲しいのかなど)、リスク許容度、そして他の制度(NISAやiDeCo)の活用状況などを総合的に考慮し、個人年金保険が本当に自分に必要なのかどうか、慎重に検討することが大切です。

まとめ:個人年金保険とインデックス投資、それぞれの特徴を理解して賢く選択

第36回の今回は、老後資金準備の一つの選択肢である「個人年金保険」について、その基本的な仕組みや種類、メリット・デメリットを解説し、インデックス投資と比較した場合のポイントを考えてみました。

  • 個人年金保険とは:保険料を払い込み、将来年金として受け取る貯蓄型保険。定額型と変額型などがある。
  • メリット:個人年金保険料控除の可能性、半強制的貯蓄、定額型の安心感、終身年金の長生き備えなど。
  • デメリット:インフレに弱い、流動性が低い(途中解約で元本割れリスク大)、低金利下では運用効率が悪い、保障機能は限定的、変額型は運用リスクあり。
  • インデックス投資との比較:流動性、収益性、コスト、柔軟性ではインデックス投資が有利な場合が多い。税制優遇はNISAやiDeCoの方が手厚い。

個人年金保険が「ダメな商品」というわけでは決してありません。しかし、他の選択肢(特にNISAやiDeCoを活用したインデックス投資)と比較した場合に、本当にご自身のニーズに合っているのか、より有利な方法はないのか、という視点を持つことが重要です。

「保険」と「貯蓄・投資」は、できるだけ分けて考える。これが、賢い金融商品選びの一つのヒントかもしれませんね。

さて、老後資金を考える上で、退職金も大きな役割を果たします。次回は、この退職金の運用について考えてみましょう。

次回の第37回は、「退職金、どうする?インデックス投資での賢い運用法」と題して、まとまった資金である退職金を、インデックス投資でどのように運用していくのが良いのか、その考え方や注意点について解説します。お楽しみに!

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