【インデックス投資の教科書㉖】NISA枠、使い切らないと損?無理なく続ける賢い活用術

インデックス投資の教科書

前回は、2024年からスタートした「新しいNISA」制度について、その大幅に拡充された非課税投資枠や無期限化といった大きなメリット、そして「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの枠の活用法について解説しました。まさに、長期的な資産形成を目指す私たちにとって、非常に強力な味方となる制度ですよね。

さて、新しいNISAでは、年間で最大360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)、生涯では1,800万円もの大きな非課税投資枠が用意されました。これを聞いて、「すごい!でも、そんな大金、毎年投資できないよ…」「枠を使い切らないともったいないのかな?」と、少しプレッシャーを感じてしまった方もいるかもしれません。

今回のテーマは、このNISAの「非課税投資枠」との賢い付き合い方です。「年間投資枠を必ず使い切らなければならないのか?」という疑問にお答えし、無理なくNISA制度を活用していくためのヒントをお伝えします。

「枠を使い切る」ことが目的ではない!NISA制度の趣旨を再確認

まず、大切なことを確認しておきましょう。NISA(少額投資非課税制度)は、私たち国民一人ひとりが、将来のために安定的な資産形成を行いやすくするために、国が税制面で支援してくれる制度です。

新しいNISAで用意された年間投資枠や生涯非課税限度額は、あくまで「これだけの金額までは非課税で投資できますよ」という国が設定した「上限」です。これは、達成しなければならない「ノルマ」や、みんなが目指すべき「目標金額」では決してありません。

もし、「せっかくの非課税枠だから、無理してでも全部使い切らなきゃ損だ!」と考えてしまうと、どうなるでしょうか?

  • 毎月の生活費を切り詰めて、生活の質を落としてしまうかもしれません。
  • 将来使う予定のあるお金や、いざという時のための生活防衛資金まで投資に回してしまうかもしれません。
  • 自分のリスク許容度を超えた金額を投資してしまい、市場が下落したときに大きな不安を感じたり、生活に支障が出たりするかもしれません。
  • 「枠を埋めなきゃ」という焦りから、十分な検討をせずに投資判断を誤ってしまうかもしれません。

これでは、本末転倒ですよね。NISAは、私たちの豊かな将来のための資産形成を「助ける」ための制度であって、私たちを追い詰めたり、無理をさせたりするためのものではありません。

最も大切なのは「自分のペース」で「無理なく続ける」こと

この連載で何度も繰り返しお伝えしてきましたが、投資、特にインデックスファンドを使った長期の積立投資において、最も重要な原則は「長期間、無理なく継続すること」です。

これは、NISAの非課税枠を活用する場合でも全く同じです。

大切なのは、他人と比較したり、枠の上限額に気を取られたりするのではなく、

  • ご自身の現在の収入と支出のバランス
  • 将来のライフプラン(いつ頃、何に、どれくらいのお金が必要になりそうか)
  • そして何よりも、ご自身のリスク許容度(どれくらいの価格変動なら心穏やかでいられるか)

これらを総合的に考慮して、毎月(あるいは毎年)の投資額を「自分のペース」で決めることです。

たとえ、年間投資枠の360万円を全て使い切れなかったとしても、例えば年間50万円だけNISAで投資した場合でも、その50万円から得られた運用益(売却益や分配金)は、きちんと非課税になります。少額であっても、非課税のメリットは十分に享受できるのです。

「枠を使い切ること」よりも、「自分にとって無理のない金額で、長期的に投資を継続すること」の方が、はるかに重要であるということを忘れないでください。

「枠が余っても大丈夫」と思える新NISAの柔軟性

「でも、やっぱり枠が余ってしまうのは、なんとなくもったいない気がする…」

そう感じる方もいるかもしれませんね。しかし、特に2024年から始まった新しいNISA制度は、以前の制度に比べて、そうしたプレッシャーを感じにくい、より柔軟な設計になっています。

  1. 非課税保有期間の無期限化 旧NISAでは、非課税で保有できる期間に制限があったため、「期限が来る前に枠を使い切って、できるだけ長く非課税期間を享受したい」という心理が働きやすかったかもしれません。しかし、新NISAではこの期間が無期限化されたため、急いで枠を埋める必要性が格段に低下しました。じっくり時間をかけて、自分のペースで非課税投資枠を活用していけば良いのです。
  2. 非課税投資枠の再利用が可能に 新NISAでは、NISA口座で購入した商品を売却した場合、その売却した商品の元本分の非課税枠が、翌年以降に再利用できるようになりました。これは非常に大きな改善点です。例えば、ライフイベント(住宅購入の頭金、子供の教育資金など)で一時的にお金が必要になり、NISA口座の資産を売却したとしても、その分の枠は消えてしまうのではなく、将来また使えるようになります。これにより、「枠を使ってしまうと、いざという時に困るかも」という不安が軽減され、より柔軟にNISAを活用しやすくなりました。
  3. 生涯非課税限度額は十分大きい 一人あたり1,800万円という生涯非課税限度額は、多くの人にとって十分な大きさと言えるでしょう。年間投資枠を毎年フルに使わなくても、長い時間をかけて、この生涯の枠を着実に利用していく、という考え方が可能です。

これらの制度的な柔軟性も、私たちが「枠を使い切らなければ」というプレッシャーを感じすぎずに、自分のペースでNISAと付き合っていくことを後押ししてくれます。

NISA枠との賢い付き合い方:具体的なヒントと心構え

では、具体的にどのようにNISA制度と付き合っていけば良いのでしょうか?無理なく、賢く活用するためのヒントをいくつかご紹介します。

  • まずは「つみたて投資枠」で少額からスタート:特に投資初心者の方は、毎月数千円や1万円といった、確実に続けられる金額から「つみたて投資枠」で積立を始めてみましょう。
  • 家計に余裕が出たら増額を検討:収入が増えたり、支出が減ったり、あるいは投資に慣れてきたりしたら、そのタイミングで積立額を増やすことを検討します。「成長投資枠」も活用して、投資額をステップアップさせていくのも良いでしょう。
  • ボーナスなど臨時収入も活用:毎月の積立とは別に、ボーナスなどのまとまった臨時収入があった際に、スポットで「成長投資枠」を利用して追加投資することも可能です(年間の枠の範囲内で)。
  • 他人と比較しない、自分の目標を大切に:「周りの人が年間360万円投資しているから自分も…」と考える必要はありません。大切なのは、あなた自身の投資目標(第3回参照)と、それに向けて自分のペースで着実に進んでいくことです。
  • 「枠を使い切る」ことより「非課税の恩恵」を意識する:NISAの最大のメリットは「非課税」であること。たとえ少額でも、その非課税の恩恵を受けながら資産形成ができている、という事実に目を向けましょう。

NISAは、あくまであなたの資産形成をサポートするための「便利な道具(手段)」です。道具に使われるのではなく、あなたが道具を上手に使いこなす、という意識が大切ですね。

まとめ:NISA枠は「上限」、自分のペースで賢く活用しよう

第26回の今回は、新NISAの大きな非課税投資枠との上手な付き合い方について、「必ずしも使い切る必要はない」という視点から解説しました。

  • NISA枠は「上限」であり「ノルマ」ではない:使い切ること自体が目的ではない。
  • 最重要は「自分のペースで無理なく続ける」こと:投資の基本原則はNISAでも同じ。
  • 新NISAは柔軟性が高い:非課税期間無期限化、枠の再利用可能など、焦らず使える設計。
  • 賢い活用法:少額から始め、余裕に応じて増額。他人と比較せず、自分の目標を大切に。

新しいNISA制度は、私たち個人投資家にとって非常に大きなチャンスをもたらしてくれます。しかし、その大きな枠にプレッシャーを感じる必要はありません。ご自身のライフプランと家計状況に合わせて、無理のない範囲で、この素晴らしい制度を賢く、そして長く活用していきましょう。

さて、NISAと並んで、もう一つ重要な非課税制度として「iDeCo(イデコ)」があります。次回は、このiDeCoについて詳しく見ていきます。

次回の第27回は、「iDeCo(イデコ)とは?インデックス投資との組み合わせ」と題して、老後資金準備のための強力な制度であるiDeCoの仕組みやメリット、そしてNISAとの違いや使い分けについて解説します。お楽しみに!

タイトルとURLをコピーしました