NISAで「オルカン」ばかり買うのは間違い?国会で議論「国内投資枠」のメリットと“隠れた危険性”

投資ニュース解説

「つみたて投資は、まず『オルカン』から!」

「S&P500が鉄板って聞いた!」

そんな言葉を信じて、コツコツと積立設定を終えたばかりかもしれませんね。全世界や米国にまるっと投資できる「オルカン」や「S&P500」は、投資初心者にとって、まさに”最適解”の一つとされています。

ところが、そんな皆さんの堅実な選択に「待った」をかけるようなニュースが飛び込んできました。2025年11月10日、国会(衆議院予算委員会)で、私たちNISAユーザーにとって、ちょっと気になる議論がありました。

NISAはオルカンばかり…金融資産の“海外流出”問題視「国内投資への優遇措置を」片山さつき大臣の答えは(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース
10日の衆議院予算委員会で、NISAのお金が海外に流れ、日本の成長につながっていないのでは、という問題について論戦が行われた。 日本維新の会の斎藤アレックス政調会長は「NISAの拡充は大変重要

ざっくりまとめると、こんな内容です。

日本維新の会・斎藤議員: 「新NISA、すごい人気だけど、中身は『オルカン』みたいな海外の投資信託ばっかり!国民の資産(NISA資金)が海外に流れて、日本の成長に役立ってないんじゃない? フランスやイタリアみたいに、NISAに『国内投資枠』(日本の会社に投資する枠)を新しく作って、そっちに誘導するべきだ!」

片山さつき金融担当大臣: 「NISA口座、すごく増えてます(2500万口座超え)。その中で皆さんがオルカンやS&P500を選んでいるのは、個人的には私も残念かな…。 『国内投資枠』の話も出ています。ただ、まずは日本企業が魅力的になって、皆さんが『日本株サイコー!』と選んでくれるのが一番なんですけどね…。しっかり議論していきます」

(出典:2025年11月10日 衆議院予算委員会 質疑より要約)

この記事を読んだ投資初心者の皆さんは、きっとこう思いましたよね?

「え?オルカン買ってるけど、それってダメなことなの?」

「ていうか、『国内投資枠』って何?新しいNISAルール?」

「なんか…よくわからないけど、将来的に損したりしないか不安になってきた…」

大丈夫です!慌てる必要はありません。 この記事では、このニュースの背景にある「国の本音」と、もし本当に「国内投資枠」なんてものができたら、私たち投資家にとってどんな影響があるのか、その「メリット」と「隠れた危険性」について、投資初心者の方にも分かりやすく、徹底的に解説していきます!

【現状】なぜ今、国会で「オルカン」が問題視されるのか?

まず、落ち着いて現状を整理しましょう。 なぜ、こんなに「オルカン」が人気で、それがなぜ国会で「残念」とまで言われてしまうのでしょうか?

なぜ投資初心者は「オルカン」を選ぶのか?

「オルカン」という愛称で呼ばれる「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」や、アメリカの優良企業500社にまとめて投資する「S&P500」連動の投資信託。

これらが投資初心者(もちろんベテランにも!)に絶大な人気を誇るのには、ちゃんとした理由があります。

  1. 究極の「分散投資」ができるから
    • 投資の格言に「タマゴは一つのカゴに盛るな」という言葉があります。オルカンは、まさにその実践。これ1本買うだけで、日本を含む世界中の先進国・新興国の企業(数千社!)に、自動的に「分散投資」してくれるんです。
  2. ほったらかしOK(手間いらず)
    • 投資のプロが、世界経済の成長に合わせて中身のバランスを調整(リバランス)してくれます。私たちは毎月決まった額を積み立てるだけでOK。
  3. コストが激安
    • 投資信託を持っている間、ずっと払い続ける「信託報酬(手数料)」が、めちゃくちゃ安いんです。0.1%前後という、一昔前では考えられない低コストで世界中に投資できます。
  4. 「世界経済は長期的には成長する」という期待
    • 個別の国(たとえば日本)の将来は不安でも、「世界全体で見れば、人口も増えるし、経済も成長していくでしょ?」という、最も確からしい未来に賭けることができるからです。

つまり、投資初心者が「オルカン」を選ぶのは、極めて合理的で、堅実な資産形成をしようとしている証拠なんです。決して「間違い」なんかじゃありません。金融庁が旧つみたてNISAで推奨してきた「長期・積立・分散」を、最も素直に実践した結果とも言えます。

なのに、なぜ国は「残念」なのか?

では、なぜ国会議員や大臣は「残念」がるのでしょうか。 それは、彼らの「立場」から見ると、こう見えるからです。

「せっかくNISAっていう非課税(税金タダ)の『アメ』を用意して、国民に投資を促したのに…! みんなが稼いだお金(NISA資金)が、ぜんぶアメリカや世界中の企業(オルカンの中身)に流れちゃってる! これじゃあ、肝心の日本企業にお金が回ってこない!日本の成長につながらないじゃないか!」

という、ちょっとした焦りがあるわけです。

ニュースで紹介された海外の例も見てみましょう。

  • フランスの「PEA(株式貯蓄プラン)」: 投資対象がEU(欧州連合)域内の企業に限定されています。
  • イタリアの「PIR(個人貯蓄プラン)」: 投資額の70%をイタリアに拠点を置く企業に向けるよう定められています。

このように、「自国の経済を成長させるために、国民の資産を使おう」という発想で設計された制度は、世界にも存在します。 「NISAも、国民の資産形成と、自国の成長を両立させる仕組みにすべきだ!」というのが、今回の国会での主張だったんですね。

【メリット?】「国内投資枠」が新設されたら、どうなる?

では、もし本当にNISAに「国内投資枠」が新設されたら、どうなるんでしょうか?

たとえば、「NISAの非課税枠(年間360万円)のうち、最低50万円は『国内投資枠』で日本株や日本の投資信託を買いなさい」みたいなルールが追加されるイメージです。(※あくまで仮定ですよ!)

国・企業側のメリット

これは分かりやすいですね。 国民のNISA資金が、強制的に(あるいは優遇措置によって)国内の株式市場に流れ込みます。 日本の企業は、そのお金を使って新しい工場を建てたり、研究開発を進めたりできるかもしれません。 結果として、日本経済全体が活性化する……かもしれません。 これが、国が描きたい「表向きのストーリー」です。

私たち投資家への(かもしれない)メリット

正直、この「国内投資枠」が、私たち投資家にとって「メリット」になるかは、かなり微妙なところです。

もし、仮に、「国内投資枠」を使った分だけ、NISAの生涯非課税枠(1,800万円)とは別枠で、さらに非課税枠がもらえる…みたいな「とんでもない大盤振る舞い」があればメリットかもしれません。

ですが、現実的には、「NISA枠(年間360万円)が、『国内枠』と『自由枠(オルカンとか買える枠)』に分けられる」という形になる可能性が高いでしょう。

これって、私たちにとってメリットでしょうか? むしろ、「自由に投資先を選べる枠が減っちゃう」というデメリット(改悪)にすら感じられますよね。

つまり、「国内投資枠」の導入は、国の「国内企業にお金を回したい」という本音を、NISAという制度にねじ込もうとする政策だと言えます。

【本題】投資家が知るべき「隠れた危険性」とは?

さて、ここからがこの記事で一番お伝えしたい本題です。

「ふーん、国が日本株を買わせたいのは分かった。でも、別に従わなければいいし、そこまで大きな問題?」

いえいえ、そんな単純な話ではないかもしれません。 この「国内投資枠」の議論には、私たち投資家が知っておくべき、2つの「隠れた危険性」が潜んでいるのです。

危険性①:投資の選択肢が歪められる(最適じゃない投資をさせられる)

一つ目は、「税制優遇」というアメに釣られて、私たちの合理的な投資判断が歪められてしまう危険性です。

投資の鉄則は、「自分が将来的に成長する(価格が上がる)と信じるものに、自己責任で投資する」ことです。 今の多くの人が、日本株よりも「オルカン」や「S&P500」を選んでいるのは、そちらの方が合理的だと判断しているからです。

ところが、もし「国内投資枠で日本株を買わないと、NISAの恩恵が最大限受けられませんよ」という制度になったらどうでしょう?

「うーん、本当はオルカンだけ買いたいけど…税金が安くなるなら、あんまり欲しくないけど日本株も買っておくか…」

と、「税金がお得だから」という理由で、自分の投資判断を曲げてしまう人が出てくるはずです。

これは、投資行動が「政策によって誘導されている」状態です。 すでに「つみたてNISA(旧制度)」でも、金融庁が「長期・積立・分散に適している」と認めた、低コストな投資信託(オルカンなど)しか買えない、という縛り(これは投資家保護の良い縛りでしたが)がありました。 「国内投資枠」は、それをさらに進めて、「国(日本)に投資しなさい」と誘導するものです。

「アメ(税優遇)」をちらつかせて、国民の投資行動をコントロールしようとする政策は、本当に私たちの資産形成のためになるのでしょうか?

危険性②:「フリーランチ(タダ飯)はない」の法則

そして、二つ目の危険性。これが最も恐ろしいシナリオです。

それは、「NISAという『アメ』の代償として、別の場所で『ムチ(増税)』が待っている」という可能性です。

ことわざにもある通り、「フリーランチ(タダ飯)」はこの世にありません。 新NISAという、世界的に見ても「やりすぎ」なくらい超絶に優遇された非課税制度。これがタダで手に入ったと考えるのは、ちょっと楽観的すぎるかもしれません。

ここで、投資家が恐れるキーワードを解説します。

【専門用語(超重要):金融所得課税】

  • 株や投資信託が値上がりして売った時の「利益(譲渡益)」や、持っているだけでもらえる「配当金・分配金」にかかる税金のことです。
  • 現在は、利益に対して一律で「20.315%」(所得税15.315%、住民税5%)が源泉徴収(自動的に天引き)されています。
  • 100万円儲かっても、手元に残るのは約80万円。20万円は税金として持っていかれます。

NISAがスゴイのは、この「約20%」の税金が「ゼロ」になるからです。

さて、ここからが本題です。 国は、NISAを爆発的に普及させました(片山大臣も「爆発的に増えた」と発言しています)。 そして、もし今回のように「国内投資枠」なんていう“更なる優遇措置”まで追加したら…。

その「財源」は、いったいどこから持ってくるのでしょうか?

国の財政が厳しい中、考えられるシナリオは一つ。 「NISAという『聖域』で優遇する代わりに、NISA枠『外』の税金を取る」 つまり、金融所得課税の「増税」です。

今の「約20%」を一律「25%」や「30%」に引き上げる、という議論は、これまでも政府内で(特に岸田政権発足当初)何度も浮かんでは消えてきました。

「NISAで十分優遇してあげたんだから、NISA枠(1,800万円)を超えて投資するような『お金持ち』からは、もっと税金をもらいますね」

…というロジック(口実)が、NISAの拡充や「国内投資枠」の新設によって、めちゃくちゃ通りやすくなってしまうのです。

NISA枠の中だけで投資が完結する人には関係ない、と思うかもしれません。 でも、将来的に1,800万円の枠を使い切った後も投資を続けたい人、あるいはNISAとは別に特定口座などで投資をしている人にとっては、実質的な「大増税」になりかねません。

「国内投資枠」という一見すると日本経済のためになりそうな話が、巡り巡って、私たち投資家全体の「増税」につながるかもしれない…。これが、今回のニュースに潜む、最大の「隠れた危険性」なのです。

【結論】私たちは「アメ」とどう付き合うべきか?

では、私たちはこのニュースをどう受け止め、これからどう行動すればいいのでしょうか。

投資家が海外(オルカン)に投資する「本当の理由」

まず、私たちが「オルカン」や「S&P500」といった海外資産に投資しているのは、片山大臣が言うように「投資慣れしていない」からでも、「金融教育が足りない」からでもありません。

それは、ある種の「資産防衛」です。

  • 「これから日本経済って、本当に成長するのかな…」
  • 「少子高齢化で、将来の年金も不安…」
  • 「給料は上がらないのに、円安で輸入品ばかり高くなる…」

こうした漠然とした(しかし、かなり現実的な)不安があるからこそ、自分の資産を「日本円」や「日本株」だけに集中させるのではなく、成長が期待できる「世界」に分散させたい、円以外の「ドル」などの資産を持ちたい、と考えるのは、至極まっとうな防衛行動です。

本当に必要なのは「アメ」ではなく「魅力」

国会で議論すべきは、「税制優遇(アメ)をちらつかせて、無理やり日本株に投資させる」方法ではありません。 ニュース内の片山大臣の答弁にも、実は本質が隠されていました。

「一番いいのは企業価値の向上から見て、日本株、日本の投信が一番いいと選択されれば一番いいが、コーポレートガバナンス等々の問題がありそうなっていない」

そう、これです。 本来あるべき姿は、

  1. 日本の企業が、株主(投資家)のことをもっと考えた経営(コーポレートガバナンス)をするようになって、企業価値がどんどん上がる。
  2. 日本経済が強くなり、私たちの給料(実質賃金)も上がり、円の価値も信頼を取り戻す。

この2つが実現すれば、私たち投資家は「優遇されなくても」、「え、日本株ってこんなに魅力的なの?オルカンより儲かるかも!」と、自然に日本株を選ぶようになるはずです。

「アメ」で馬(国民)を水飲み場(日本株)に連れて行こうとするのではなく、馬が自ら「この水が飲みたい!」と思うような、魅力的な水飲み場を作る努力が先決なのです。

投資初心者の心構え

長くなりましたが、投資初心者の皆さんに伝えたいことはシンプルです。

  1. 「オルカン」を選んでいる今のあなたは、間違っていません。
    • 世界に分散投資するという、極めて合理的で堅実な判断です。自信を持ってください。
  2. 国の政策(アメ)に、振り回されない軸を持ちましょう。
    • 「税金がお得だから」という理由だけで、自分の投資方針を曲げないこと。「自分はなぜ投資するのか(老後資金?教育費?)」という目的を、常に忘れないでください。
  3. 「フリーランチはない」ことを忘れずに。
    • NISAという素晴らしい制度が、将来の「増税」とセットになっている可能性も、頭の片隅に置いておきましょう。
    • だからこそ、NISAの非課税枠(1,800万円)は、最優先で、なるべく早く使い切る努力をするのが、最強の「防衛策」になります。

今回の国会での議論は、まだ「そういう話も出ています」というレベルです。 すぐにNISAのルールが変わるわけではありません。

しかし、こういう議論が「始まった」という事実こそが重要です。 私たち投資家は、こうした国の動きに常にアンテナを張り、冷静に情報を集め、自分の大切な資産をどう守り、育てていくかを、自分の頭で考え続ける必要があります。

まとめ

今回の記事では、国会で議論された「NISAに国内投資枠を」というニュースについて、投資初心者向けにその背景と「隠れた危険性」を解説しました。

  • ニュースの概要:
    • NISA資金が「オルカン」など海外投資に偏っていることを問題視。
    • 「国内投資枠」を新設し、日本の成長に資金を回すべきでは?という議論が国会であった。
  • 「オルカン」が人気な理由:
    • 世界に分散でき、低コストで、堅実な資産形成ができるから。投資家にとっては合理的な選択。
  • 「国内投資枠」の危険性:
    • 危険性①: 「税制優遇」で日本株を買うよう誘導され、投資家の自由な判断が歪められる恐れ。
    • 危険性②: 「フリーランチはない」の法則。NISAの更なる優遇を口実(財源)として、NISA枠「外」の「金融所得課税(現在約20%)」が増税されるリスク。
  • 私たち投資家の心構え:
    • 投資家が海外に投資するのは、日本の将来への不安からくる「資産防衛」。
    • 本来は、企業価値の向上などで「日本株が魅力的だ」と投資家が自然に思う状態を目指すべき。
    • 国の政策(アメ)に振り回されず、「なぜ投資するのか」という自分の軸を持ち、冷静に情報収集を続けることが大切。

制度の変更は、いつだって私たちを不安にさせます。 しかし、本質を理解し、最悪のシナリオを想定しておけば、慌てずに対処できるはずです。 これからも一緒に、賢く資産形成を続けていきましょう!

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