投資の勉強を始めようと思ったキッカケ、皆さんにもいろいろあると思います。
「銀行預金じゃ増えないし…」
「老後2000万円問題って聞いて不安になった…」
そして、多くの人が抱く大きな不安が、これじゃないでしょうか?
「どうせ私たちがもらう頃、年金なんてないんでしょ?」
わかります。すっごくわかります。
「年金は崩壊する」
「若者は払い損」
「あてにならない」……。
そんなイメージが世の中にあふれていますよね。
私もずっとそう思っていました。老後のためには、年金は“無いもの”として考えて、NISAやiDeCoで全部自分で準備しなきゃ!と。
ところが最近、こんな衝撃的なニュースが目に入ってきたんです。

年金試算「若者ほど総受給額は増加」 100歳までなら1億円も (2025/11/14 日経速報ニュースより)
……え? 「若者ほど」「増加」? 100歳まで生きたら「1億円」!?
正直、最初は「ウソでしょ?」「政府が安心させたいだけのポジショントーク?」と思いました。 だって、私たちが信じてきた「年金は減る」というイメージと、真逆じゃないですか。
でも、私たちが投資家として、そして自分のお金を守る賢い生活者として一番やっちゃいけないこと。 それは、「イメージや雰囲気で判断すること」です。
もし、「年金はあてにならない」というフワッとしたイメージを信じ込んで、国民年金の保険料を払わなかったり(※これは法律違反ですが)、厚生年金に入らない働き方を選んだりしたら……それこそが、将来の自分を苦しめる最大のリスクになってしまいます。
この記事では、投資初心者の私たちが、「年金はもらえない、減る」という世の中のイメージと、「若者ほど増える」という衝撃的なデータの間に、一体どんなギャップがあるのか。
その「カラクリ」を、最新のデータ(事実)に基づいて、どこよりも分かりやすく徹底的に解説していきます!
なぜ「年金は減る・もらえない」というイメージが広まったの?
まず、なぜ私たちはこんなにも「年金は減る」と信じ込んでいるのでしょうか? それには、ちゃんと理由があります。 主に、メディアなどでよく使われる「3つの言葉」が、そのイメージを強烈に作り出しているんです。
1.「モデル年金」という名の“ワナ”
ニュースなどで「将来の年金額は〇〇円に減少」と報道される時、その根拠のほとんどは「モデル年金」という数字です。
【かんたん解説】モデル年金とは? 夫が会社員として平均的な収入で40年間働き、妻はその間ずっと専業主婦だった世帯が、65歳からもらえる年金額のこと。
……あれ?って思いませんか? この「専業主婦世帯」というモデル、今の時代のスタンダードでしょうか?
最新のデータ(2022年)では、日本国内の夫婦のいる世帯のうち、約7割が「共働き世帯」なんです。(厚生労働省「厚生労働白書」など) 「モデル」とされている専業主婦世帯は、今や約3割。完全に少数派です。
記事にもありますが、すでに共働き世帯は、片働き(専業主婦)世帯の2.6倍。
それなのに、メディアも国も「専業主婦世帯」という古いモデルを基準に「年金がこれだけになる!」と発表し続けるから、「わ、私たちの年金、こんなに少ないんだ…」というイメージが定着してしまったんです。
2.恐怖をあおる「マクロ経済スライド」
次に出てくるのが、この“呪文”のような言葉です。 「年金はマクロ経済スライドによって、実質的に目減りします」
【かんたん解説】マクロ経済スライドとは? 将来、年金をもらう高齢者が増え、保険料を払う現役世代が減っても、制度がパンクしないようにする「自動ブレーキ」のような仕組みです。
具体的には、物価や賃金が上がった(例:3%アップ)としても、年金受給額はそれよりちょっと低めに(例:2%アップ)抑える、という調整のこと。
この「物価上昇に年金額が追いつかない」状態が続くため、「年金の価値が実質的に目減りする」と表現されるわけです。
これは事実です。年金財政は厳しいので、このブレーキ(スライド)を踏んで、給付を少しずつ抑制しているのは本当。 これが「年金は減らされる!」という不安の、大きな原因になっています。
3.よくわからない「所得代替率」
トドメがこれです。 「将来、年金の所得代替率は、現在の60%台から50%台に低下します!」
【かんたん解説】所得代替率(しょとくだいたいりつ)とは? 「現役世代の手取り収入」に対して、「年金受給額(モデル年金)」がどれくらいの割合か、を示す比率です。
例えば、現役世代の手取りが30万円で、年金が18万円なら、所得代替率は60%です。 将来、これが50%に下がるということは、「現役世代に比べて、年金生活者は相対的に貧しくなる」ことを意味します。
……もう、不安になる要素しかありませんよね。 「古いモデル(モデル年金)」を使い、「ブレーキ(マクロ経済スライド)」が作動し、「現役世代との格差(所得代替率の低下)」が広がる。
そりゃあ、「年金は減る!もらえない!」というイメージになります。
でも、ちょっと待ってください。 これらの話には、私たち個人の「未来」を考える上で、決定的に欠けている視点があるんです。
【データで見る真実】若者世代の年金は「増える」! そのカラクリ
ここからが本題です。 冒頭のニュースが「若者ほど増える」と断言した根拠、そのカラクリは、先ほどの「3つの不安要素」の“逆”にあります。
カラクリ①:「モデル年金」ではなく「実態(平均)」で見ると未来は変わる
今までの年金議論は、少数派となった「専業主婦世帯(モデル年金)」という“点”でしか語られてきませんでした。
しかし、2024年7月に発表された最新の「年金財政検証」(5年に一度の、年金制度の健康診断のようなもの)で、国は初めて、より実態に近い「平均」のデータを公表しました。
これが、すべての前提をひっくり返したんです。
その「実態」とは、共働き世帯の増加です。 特に、女性が厚生年金に加入して働く期間が、劇的に長くなっているという事実です。
【かんたん解説】厚生年金と基礎年金 日本の年金は、よく「2階建て」に例えられます。
- 1階:基礎年金(国民年金) 20歳以上の全国民が加入する、土台の部分。
- 2階:厚生年金 会社員や公務員が加入する、上乗せの部分。
「モデル年金」の専業主婦は、この「2階」部分がありません(1階の基礎年金のみ)。 しかし、共働きで妻も会社員として働けば、妻にも「2階」の厚生年金が上乗せされます。
ニュースと厚労省のデータによれば、
- 2024年時点で65歳(引退世代)の女性の厚生年金加入期間は、平均17年。
- これが、2024年時点で30歳(現役世代)の女性の場合、将来的に平均30年に延びる見通し。
加入期間が17年から30年へ。ほぼ2倍近く延びるんです。 厚生年金は、加入期間が長く、払った保険料(=給料)が多いほど、将来もらえる額が増えます。
つまり、今の若者世代(特に女性)は、「モデル年金」の専業主婦とは比べ物にならないほど、強力な「2階部分」を自分で作っているんです。
この「実態(平均)」を反映して計算した結果が、冒頭のニュースなんです。
カラクリ②:「所得代替率(比率)」ではなく「実質額(購買力)」で見る
次に、「所得代替率(比率)が下がるからダメだ」という話。 これにも、投資家目線の「事実」で反論できます。
私たち個人の生活設計で大事なのは、「現役世代との“比率”」でしょうか? 違いますよね。 「その年金で、どれだけのモノやサービスが買えるか(=購買力)」です。
この「購買力」を示すのが、「実質額」です。 物価上昇の影響などを取り除いて、「今の1万円は、将来も1万円の価値」として計算した金額のこと。
そして、最新の試算(経済が横ばいの場合)では、衝撃的な事実が判明しました。
- 2024年時点で30歳の人が65歳でもらう年金額は、今の65歳の人がもらう額より、実質額で9%増加する。
- 2024年時点で20歳の人なら、なんと16%も増加する。
特に女性の伸びはすさまじく、20歳の人(今の大学生)がもらう年金額は、今の65歳に比べて実質額で30%も増える(月9.3万円→12.1万円)という試算です。 「低年金(月10万円未満)」の人の割合も、現在の7割から3割に激減します。
「所得代替率」という“比率”は、現役世代の賃金がグングン上がれば、年金額が上がっても(比率として)下がることがあります。 でも、私たちの生活(購買力)は? データ(事実)は、「若者ほど、購買力は上がる」と示しているんです。
カラクリ③:「総受給額」で見ると「1億円」も見えてくる
最後に、「マクロ経済スライド(ブレーキ)」でどうせ減らされるんでしょ?という不安。
これも、先ほどの「実態(平均)」で見ると話が変わってきます。 年金財政が厳しいのは事実ですが、働く人(厚生年金加入者)が増えれば、保険料収入も増えます。 すると、財政が安定し、「ブレーキ」を解除する時期も早まると予測されているのです。
ニュース記事では、現在の65歳より若い世代のほうが、「ブレーキ(マクロ経済スライド)による抑制が受給開始後、比較的早い時期に終わる」と指摘しています。
その結果、どうなるか。 65歳から受給を開始して、「100歳」まで生きた場合の生涯の総受給額(実質額)を独自計算すると…
- 現在の65歳世代(実態平均):約9,740万円
- 現在の35歳世代(実態平均):約1億820万円
なんと、1,000万円以上も増える結果に。 「若者ほど損」どころか、「若者ほど、長生きすればするほど、総額で多くもらえる」というのが、データに基づいた未来なんです。
データはわかった。でも、やっぱり不安なあなたへ
ここまで読んで、「なるほど、データ上はそうなのか…」と思いつつも、まだモヤモヤする方もいると思います。
不安①:「でも、それって“平均”の話でしょ? 自分がそうなるか分からない…」
その通りです。 これは非常に重要な指摘です。 「女性の厚生年金加入が30年に延びる」というのは、あくまで平均値。 もしあなたが、非正規雇用で厚生年金に加入しなかったり、出産・育児でキャリアが途切れてしまったりすれば、この「平均」には届きません。
だからこそ、このデータが教えてくれる教訓は、 「自分自身が、より高い報酬で、長く働いて、厚生年金に加入し続ける努力が、老後の自分を一番助けてくれる」 ということです。 投資で増やす以前に、最強の「老後への投資」は、自分のキャリアに投資し、厚生年金に長く加入することなんです。
不安②:「少子化がもっと進んだら、やっぱり破綻するんじゃ?」
これも、もっともな不安です。 ただ、ニュース記事の専門家も指摘している通り、年金財政に影響するのは少子化(マイナス要因)だけではありません。 「予測より死亡数が増加した(プラス要因)」「法改正で加入者が増えた(プラス要因)」など、様々な要因が絡み合っています。
もちろん、財政が厳しいことに変わりはなく、専門家は「基礎年金加入期間の延長(40年から45年へ、など)」「厚生年金加入対象のさらなる拡大(パート・アルバイトへの適用拡大)」といった、さらなる改革(=負担増)は絶対に必要だと断言しています。
楽観視はできません。 しかし、一つの指標(少子化)だけを見て「破綻する!」と決めつけるのも、イメージに囚われた判断と言えるでしょう。
【結論】投資初心者が「年金」とどう向き合うべきか
さて、ここまで「イメージ」と「データ」を見てきました。 私たち投資初心者は、この「年金、若者は増える」という事実をどう受け止めるべきでしょうか。
結論1:「年金はあてにならない」は、最大の“勘違い”
まず、絶対に認識を改めないといけないこと。 それは、「年金はあてにならない」というイメージは、完全に間違っているということです。
「どうせもらえないから」と国民年金保険料を未納にしたり、厚生年金への加入を避けたりすることは、データ上「100歳まで生きれば1億円もらえる権利」をドブに捨てるような行為です。 これ以上の“損”はありません。
年金は、日本最強の「終身保険」であり、「老後の土台(インフラ)」です。 この土台は、私たちがイメージしていたより、ずっと強固で、しかも(私たち世代は)分厚くなる可能性が高いのです。
ニュース記事の中で、専門家は年金を「未来の年金ケーキ」に例えています。 1階部分(基礎年金)の上に、2階部分(厚生年金)がたっぷり乗っかるイメージです。 若者世代、特に女性は、この2階部分のクリームが、今の高齢者よりずっと“デラックス”になるわけです。
結論2:「年金は正しく心配し、投資で“上乗せ”する」
ただし、勘違いしてはいけないのは、「じゃあ、年金だけで安泰だ!」ということではない点です。
データが示したのは、「年金は減らない、むしろ増える」ということであり、「年金“だけ”で豊かな老後が送れる」ということではありません。
年金という強力な「土台(1階・2階)」は、データ上、確かに存在します。 私たちの仕事は、まずこの土台を最大化すること(=長く厚生年金に加入して働くこと)。
そして、投資初心者である私たちがNISAやiDeCoでやろうとしている「資産運用」は、その土台の上に、「もっと豊かな生活」や「万が一への備え」を上乗せする「3階部分」を作ることなんです。
- 「年金はゼロ」と怯えながら、ゼロから2000万円作ろうとする投資。
- 「年金1億円」という強固な土台があると理解した上で、プラスαの「3階」を作る投資。
どちらが、精神的に安定して、合理的な判断ができるでしょうか? 答えは明らかですよね。
「年金はあてにならない」と不安をあおるイメージに惑わされず、 「年金は正しく心配する(=制度改革は必要だし、自分も働く努力はする)」。
その上で、しっかりとした「土台」があることをデータで確認し、安心して「3階部分(=NISAやiDeCo)」の資産運用を始めていきましょう!
まとめ
最後に、今日一番お伝えしたかったことをまとめます。
- 「年金は若者ほど減る」はイメージ。 (「モデル年金」や「所得代替率」という言葉が、そのイメージを増幅させている)
- 「年金は若者ほど増える」がデータ(事実)。 (「共働き(女性)の厚生年金加入期間の延長」を反映した「実質額(購買力)」で見ると、受給額も総額も増える)
- 年金は「あてにならない」と無視するのが最大のリスク。 (1億円の権利を捨てることになる。長く働く努力が最強の老後対策)
- 投資初心者の私たちは、「強固な土台(年金)」があることを知り、安心して「3階部分(NISA・iDeCo)」を作っていけばOK!
イメージではなく、事実(データ)に基づいて判断する。 これは、投資の勉強を始めた私たちが、一番大切にしたい姿勢ですね!
