前回は、投資の基本原則である「分散投資」の重要性について、その仕組みや種類を詳しく見てきました。「卵は一つのカゴに盛るな」という格言通り、リスク管理の観点から分散がいかに大切か、ご理解いただけたかと思います。
特に、投資対象を世界中に広げる「国際分散投資」は、インデックス投資の文脈でもよく推奨されますし、初心者向けの解説書などでは、あたかも「最適解」や「最強の投資法」のように語られることも少なくありません。
しかし、本当にそうなのでしょうか?今回は、この「国際分散投資=最強」というイメージについて、少し立ち止まって考えてみたいと思います。国際分散投資のメリットだけでなく、限界についても理解した上で、なぜそれが「合理的」な選択肢とされるのか、その本質に迫っていきましょう。
「国際分散投資=最強」というイメージの検証
なぜ多くの場面で国際分散投資が推奨されるのでしょうか。それはリスク回避や、特定の国に依存しない安定性、そしてシンプルさなどが背景にあると考えられます。しかし、それが常に「最強」と言えるのか、冷静に見ていく必要があります。
なぜ「最強」とは言い切れないのか?集中投資の可能性
まず結論から言うと、国際分散投資は、あらゆる状況において常に最高のリターンをもたらす「最強」の投資法とは限りません。
その理由はいくつかあります。
一つ目は、結果論にはなりますが、特定の国や地域に投資を集中させていた方が、国際分散ポートフォリオよりもはるかに高いリターンを得られた、というケースが過去には存在するからです。例えば、ここ十数年の米国株式市場の目覚ましい成長を考えると、米国株だけに集中投資していた方が、全世界に分散投資するよりも高いパフォーマンスを上げていました。もし、あなたが未来を正確に予測できて、「これからは絶対にこの国が伸びる!」と確信できるなら、その国に集中投資する方が大きなリターン(ホームラン)を狙える可能性はあります。
二つ目は、分散投資の本質に関わる点です。分散はリスクを抑える効果がある一方で、リターンも「平均化」する効果があります。世界中に分散するということは、世界経済全体の平均的な成長を目指すことになります。そのため、その時々で最もパフォーマンスの良い国や地域の「トップの成績」を上回ることは基本的にありません。
三つ目は、国際分散投資には特有の課題もあるという点です。例えば、為替レートの変動によって、投資先の資産価値が上がっても円換算ではマイナスになる「為替リスク」が存在します。また、世界各国の経済や政治の情報を個人で追いかけるのは容易ではありません。(これらの点については、今後の連載で詳しく触れます。)
このように、国際分散投資は、常に最高の結果を保証するものではない、という側面も持っているのです。
それでも「合理的」と言える理由:予測不能な未来への最適戦略
では、「最強」ではないかもしれない国際分散投資が、なぜこれほどまでに「合理的」な投資手法として推奨されるのでしょうか?
その最大の理由は、身も蓋もない言い方かもしれませんが、「未来は誰にも予測できない」からです。
- 10年後、20年後、どの国が世界経済を牽引しているでしょうか?アメリカでしょうか?中国でしょうか?インドでしょうか?あるいは、今は想像もつかないような別の国かもしれません。
- いつ、どこで、どんな経済危機や地政学的リスクが発生するでしょうか?
これらを正確に予測することは、どんな専門家であっても不可能です。
特定の国への集中投資は、「自分の予測が当たる」という前提に基づいています。もし予測が当たれば大きなリターンが得られますが、外れれば大きな損失を被る可能性もあります。これは、ある意味で「賭け」に近い要素を含んでいます。
一方、国際分散投資は、「どこが伸びるか分からない」「何が起こるか分からない」という、予測不可能な未来に対する最も賢明な備えと言えます。
- 特定の国の経済が失速しても、他の国がカバーしてくれる(カントリーリスクの低減)。
- どの国が成長しても、その恩恵を(平均的にではありますが)受けられる。
- 将来予測という難しい作業から解放される。
このように、国際分散投資は、「わからないこと」に対して過度にリスクを取らず、世界経済全体の長期的な成長という、より確実性が高いと考えられるものに広く網をかける、非常に「合理的」なアプローチなのです。
「平均点」を目指すことの価値を再考する
国際分散投資は、世界経済全体の「平均点」を目指す戦略だ、と述べました。
「平均点か…なんだか物足りないな」と感じる方もいるかもしれません。特に投資の世界では、「市場平均を打ち負かす」「一攫千金」といった華々しい話に目が向きがちです。
しかし、ここで一つの事実を知っておく必要があります。それは、長期的に見ると、市場平均(例えば、S&P500や全世界株式インデックスなど)に勝ち続けることは、投資のプロであるアクティブファンドのマネージャーたちにとっても非常に難しい、ということです。多くの研究が、長期的にはアクティブファンドの大半が、手数料を考慮すると市場平均を下回る成績しか残せていないことを示しています。
常に市場のトップ(100点満点)を狙い続けることは、それだけ難易度が高く、多大な労力やコスト、そして精神的な負担を伴います。また、トップを狙う戦略は、裏を返せば大きな失敗(0点)をするリスクも高まります。
そう考えると、「平均点を着実に取っていく」という戦略は、決して消極的なものではありません。むしろ、多くのプロにも勝る成果を、低コストかつ少ない手間で実現できる可能性を秘めた、非常に賢く、価値のある戦略と言えるのではないでしょうか。
結論:「最強」ではないが、多くの人にとって「最適に近い」選択肢
今回の話をまとめましょう。
国際分散投資は、特定の国への集中投資がもたらすかもしれない爆発的なリターン(ホームラン)を約束するものではありません。その意味では、「最強」の投資法とは言えないかもしれません。
しかし、
- 未来予測の難しさから解放される
- 特定の国に依存するリスクを回避できる
- 世界経済全体の成長を着実に捉えることを目指せる
- 市場の「平均点」を狙うこと自体に価値がある
といった理由から、国際分散投資は非常に「合理的」で、多くの個人投資家にとって「最適に近い」、あるいは「無難かつ賢明な」選択肢であると言えます。
特に、
- 投資に多くの時間や専門知識を割くことが難しい人
- 大きな失敗を避け、長期的な視点で安定した資産形成を目指したい人
- 複雑なことを考えず、シンプルに投資を始めたい初心者
にとっては、非常に有力な戦略となるでしょう。
大切なのは、国際分散投資のメリットと限界の両方を理解した上で、ご自身の投資目標やリスク許容度、そして投資に対する考え方に基づいて、納得してこの戦略を選択することです。
まとめ:「最強」よりも「合理的」な選択を
第13回の今回は、「国際分散投資は本当に最強なのか?」という問いから出発し、そのメリットと限界、そして「合理的」とされる理由について考察しました。
- 国際分散投資は「最強」ではない:集中投資の方が高いリターンを得る可能性はあるし、リターンも平均化される。
- しかし「合理的」である理由:未来予測は不可能であり、カントリーリスクを避け、世界経済全体の成長に乗ることができるから。
- 「平均点」の価値:市場平均に勝ち続けるのはプロでも難しく、平均点を着実に狙うことは賢明な戦略。
- 結論:最強ではないが、予測不能な未来への備えとして、多くの人にとって最適に近い、無難かつ賢明な選択肢。
国際分散投資の本質を理解し、ご自身の投資戦略に活かしていただければ幸いです。
さて、国際分散投資を行う上で避けて通れないのが「為替」の問題です。次回は、この点について掘り下げていきます。
次回の第14回は、「国際分散インデックス投資は各国通貨に分散することになる:為替リスクの理解」と題して、海外資産に投資する際に必ずついて回る「為替リスク」とは何か、そしてそれにどう向き合えば良いのかについて解説します。お楽しみに!