最近、「新NISA」などの影響で、投資信託(投信)を使った資産形成がますます身近になってきましたよね。
さて、皆さんが投資信託を選ぶとき、どこを一番にチェックしますか?
多くの方が、「手数料、特に信託報酬が安いかどうか」を重視しているのではないでしょうか。確かに、信託報酬は投資信託を持っている間ずっとかかり続けるコストなので、低いものを選ぶのは基本中の基本です。今や信託報酬0.1%以下なんていう、驚くほど低コストなファンドもたくさんあります。
しかし、もしあなたが「信託報酬が安いから、この投信は大丈夫!」と安心してしまっているなら、少しだけ注意が必要です。
「投資信託には、信託報酬以外にも“見えないコスト”が存在し、それが運用成績に影響を与えている」という記事(2025年8月30日 窪田真之氏の記事)では、私たちが普段目にしている信託報酬などの手数料の裏に隠れた、文字通り「見えないコスト」の存在が指摘されています。

「え、信託報酬以外にもコストがかかるの?」
「それってどこを見ればわかるの?」
そんな不安や疑問を感じた方も多いかもしれません。でも、安心してください。この記事を最後まで読めば、
- 投資信託にかかる「本当のコスト」の正体
- なぜ信託報酬が安くても、結果的に損をしてしまうことがあるのか
- 将来のあなたの資産をしっかり守り、育ててくれる「本当に優良なファンド」の見つけ方
が、スッキリと理解できるようになります。せっかく始めた資産形成で後悔しないために、プロも注目する「コスト」の考え方を、一緒に学んでいきましょう!
まずは基本から!投資信託の3つの「見えるコスト」
「隠れコスト」の話しの前に、まずは投資信託の基本となる「見えるコスト」について、簡単におさらいしておきましょう。これらのコストは、投資信託の「目論見書(もくろみしょ)」という、いわば商品の取扱説明書に必ず書かれています。
【ワンポイント解説:目論見書って?】 投資信託の目的や特徴、リスク、そして手数料などが詳しく書かれた、とても重要な書類です。投資信託を購入する前には、必ずこれに目を通す義務があります。ネット証券ならPDFなどで簡単に確認できますよ。
投資信託の主な「見えるコスト」は、以下の3つです。
① 購入時手数料
その名の通り、投資信託を買うときにかかる手数料です。一昔前は3%程度かかるものも珍しくありませんでしたが、最近はネット証券を中心に手数料が無料の「ノーロード」と呼ばれるファンドが主流になっています。これから始める方は、基本的にはこの購入時手数料がゼロのファンドを選ぶようにしましょう。
② 運用管理費用(信託報酬)
これが、皆さんが一番よく目にするコストだと思います。投資信託を保有している間、毎日、私たちの資産(信託財産)から自動的に差し引かれる手数料です。いわば、資産運用のプロに「運用をお任せします、よろしくお願いします」と支払う年間報酬のようなものですね。 この信託報酬は、年率0.1%や0.5%のように表示されますが、実際には日割り計算されて毎日引かれています。だからこそ、この料率が低ければ低いほど、長期的なリターンに有利になるのです。近年の低コスト競争は、私たち個人投資家にとって非常にありがたい状況と言えますね。
③ 信託財産留保額
これは投資信託を解約(売却)するときにかかるコストです。途中で解約する投資家がいると、ファンドは保有している株などを売って現金を用意する必要があり、その際の売買コストなどがかかります。そのコストを、解約する人が負担することで、ファンドに残り続ける他の投資家が不利益を被らないようにするための仕組みです。 ただ、これも最近は「信託財産留保額なし」というファンドが増えてきています。
以上が、目論見書を見れば誰でも確認できる「見えるコスト」です。特に重要なのは、保有期間中ずっとかかり続ける②の信託報酬。ここをしっかりチェックするのが、ファンド選びの第一歩であることは間違いありません。 しかし、問題は「これだけ見ていればOK」ではない、ということなのです。次は、いよいよ本題の「隠れコスト」に迫っていきましょう。
本題!あなたの資産を静かに蝕む「隠れコスト」の正体
さて、ここからが本題です。目論見書に書かれている信託報酬は、あくまで運用会社などに支払う「基本料金」のようなもの。実は、投資信託を運用していく過程では、他にもさまざまな費用が発生しているのです。これらが、いわゆる「隠れコスト」です。
隠れコスト①:売買委託手数料
投資信託は、皆さんから集めたお金で、株式や債券などを売買して運用しています。その株などを売買するときに、証券会社に支払う手数料が「売買委託手数料」です。アクティブに売買を繰り返すファンドほど、この手数料は高くなる傾向があります。
隠れコスト②:その他の費用(監査費用など)
投資信託が正しくルール通りに運用されているか、専門家(監査法人)にチェックしてもらう必要があります。そのための「監査費用」や、資産を管理してもらう「保管費用」など、こまごまとした費用がかかります。
これらの「隠れコスト」は、目論見書には具体的な料率が書かれていません。「かかった分だけ払ってね」という性質のものだからです。じゃあ、どこで確認できるのか? それが、年に1〜2回発行される「運用報告書」です。
【ワンポイント解説:総経費率(実質コスト)】 2024年4月から、運用報告書などで「総経費率」という指標の記載がされるようになりました。これは、信託報酬に上記の「売買委託手数料」や「その他の費用」を加えた、1年間で実質的にかかったコストの合計を示すものです。これこそが、私たちが本当に注目すべき「実質コスト」なのです!
例えば、信託報酬が年率0.1%でも、運用報告書を見たら総経費率(実質コスト)が0.15%だった、というケースはよくあります。この差の0.05%分が「隠れコスト」だった、というわけですね。
しかし、話はこれだけでは終わりません。ニュース記事が警鐘を鳴らしているのは、この「総経費率」にすら含まれない、もっと見えにくいコストの存在です。
本当の見えないコスト①:マーケットインパクト・コスト
これは、ファンドが大量の株を売買することによって、株価が自分に不利な方向に動いてしまうことで発生するコストです。 例えば、あなたがスーパーに行って、キャベツを100個買い占めようとしたらどうなるでしょう?お店の人は「そんなに買うなら値段を上げますよ」と言ってくるかもしれませんよね。株式市場でも同じことが起こります。大量の買い注文を出せば株価は上がり、大量の売り注文を出せば株価は下がります。 ファンドが1,000円の株を買おうとしたのに、自分の買い注文で株価が1,001円に上がってしまい、結果的に高く買わされる…この1円の差が「マーケットインパクト・コスト」です。これは証券会社に支払う手数料ではないため、報告書には載ってきません。
本当の見えないコスト②:取引スプレッド・コスト
これは、株などを買うときの値段(買値)と、売るときの値段(売値)の差額のことです。海外旅行に行くときの両替をイメージしてみてください。「円をドルに替えるレート」と「ドルを円に戻すレート」が違いますよね?その差額が両替所の利益(私たちにとってはコスト)になっています。 株式や債券の取引でも、この「スプレッド」が存在し、実質的な取引コストとなっているのです。
これらのコストは、運用報告書のどこにも記載されません。しかし、確実にファンドの運用成績(パフォーマンス)を押し下げる要因となります。そして、この「本当の見えないコスト」は、ある特徴を持つファンドで特に大きくなりやすいのです。詳しく見ていきましょう。
要注意!「実質コスト」が高くなりがちな投資信託、2つの特徴
「見えないコスト」がパフォーマンスに影響するのは分かったけど、じゃあ、どんなファンドでその影響が大きいの?と思いますよね。実は、私たちが良かれと思って選びがちなファンドにこそ、その危険性が潜んでいる場合があります。
ここでは、実質コストが高くなりがちな投資信託の、特に注意すべき2つの特徴について解説します。
特徴①:純資産総額が小さいファンド
「純資産総額」とは、その投資信託に集まっているお金の合計額のこと。いわば、そのファンドの人気や規模を示すバロメーターです。この純資産総額が小さいファンド、特にニュース記事で指摘されているように10億円に満たないようなファンドは、注意が必要です。
【なぜ純資産総額が小さいとコストが高くなるの?】 理由は大きく2つあります。
- マーケットインパクトが大きくなるから 例えば、純資産5億円の小さなファンドに、新たに1億円の資金が入ってきたとします。ファンドの運用担当者(ファンドマネージャー)は、その1億円で株などを買わなければなりません。純資産5億円のファンドにとって1億円の売買は、全体の20%にも及ぶ非常に大きな取引です。こんなに大きな注文を出せば、前述の「マーケットインパクト・コスト」が発生し、割高な値段で株を買わされてしまう可能性が高まります。
- 固定費の割合が重くなるから 投資信託の運用には、監査費用など、ファンドの規模に関わらず一定にかかる「固定費」があります。純資産が1000億円のファンドにとって100万円の固定費はごく僅かですが、純資産1億円のファンドにとっては大きな負担になりますよね。結果として、投資家一人ひとりが負担するコストの割合が重くなってしまうのです。
ニュース記事では、日経平均などに連動するインデックスファンドであれば、できれば純資産総額1,000億円以上のものを選ぶのが安心、という一つの目安も示されています。
特徴②:設定されたばかりの新しいファンド
「信託報酬、業界最安に挑戦!」「新しいテクノロジーに投資する、注目の新ファンド登場!」 こんなキャッチフレーズを見ると、なんだかすごく魅力的に感じますよね。しかし、新しく作られたばかりのファンドにすぐに飛びつくのは、少し待った方が賢明かもしれません。
その理由は、新しいファンドは、まだ「実質コスト」が分からないからです。 「実質コスト(総経費率)」が判明するのは、ファンドの運用が始まってから最初の決算を迎え、「運用報告書」が作られてからです。これには、だいたい1年くらいの時間がかかります。
つまり、登場したばかりのピカピカのファンドは、信託報酬という「基本料金」は分かっていても、売買コストなどの「追加料金」がいくらになるか、誰にも分からない状態なのです。 もしかしたら、頻繁な売買で隠れコストが嵩んで、信託報酬が少し高い既存の優良ファンドよりも、トータルの「実質コスト」は高くなってしまうかもしれません。
慌てて乗り換える必要はありません。本当に良いファンドであれば、1年後もきっと存在し、多くの投資家から支持されて純資産も増えているはずです。信託報酬の低さだけに惹かれず、まずは最初の運用報告書が出て、「実質コスト」という成績表が公表されるのを待ってから検討する。この冷静な姿勢が、長期的な資産形成ではとても大切なのです。
実践編:今日からできる!「本当に低コスト」な優良ファンドの探し方
さて、これまで投資信託の「本当のコスト」について学んできました。ここからは、いよいよ実践編です。実際にあなたが優良なファンドを見つけるための、具体的なチェック手順を3つのステップでご紹介します!
STEP1:まずは「信託報酬」をチェック!【入り口】
何はともあれ、ファンド選びの入り口は信託報酬の低さです。これは大前提として重要です。投資信託の「目論見書」や、証券会社のウェブサイトの商品概要ページで簡単に確認できます。 特に、日経平均株価や米国のS&P500といった代表的な指数に連動するインデックスファンドを選ぶ場合は、同じ指数をベンチマークとするファンドが複数あります。その中から、信託報酬が最も低いクラスのものをいくつか候補に挙げましょう。(例:「eMAXIS Slim」シリーズなど)
STEP2:「総経費率(実質コスト)」で答え合わせ!【最重要】
信託報酬が低いファンドをいくつかピックアップしたら、次はいよいよ「実質コスト」のチェックです。これは「運用報告書」に記載されている「総経費率」という項目を見ます。 運用報告書は、各運用会社のウェブサイトや、あなたが使っている証券会社のウェブサイトの個別ファンドのページから、PDFなどで見ることができます。
【チェックポイント】
- 信託報酬と総経費率の差はどれくらいか? この差が「隠れコスト」です。この差があまりにも大きいファンドは、見た目の信託報酬は安くても、実態としてはコスト高である可能性があります。信託報酬とほぼ同じか、少し上乗せされる程度のファンドが理想的です。
STEP3:「純資産総額」で安定性を確認!【最後の砦】
実質コストが低いことを確認したら、最後の仕上げに「純資産総額」をチェックしましょう。これは月次レポート(マンスリーレポート)や、証券会社のサイトで確認できます。
【チェックポイント】
- 十分な規模があるか? ニュース記事にもあったように、最低でも10億円、インデックスファンドであれば理想は1,000億円以上あると、安定した運用が期待でき、見えないコストも抑えられやすくなります。
- 順調に増えているか? 純資産総額の推移グラフも見てみましょう。多くの投資家から支持され、資金が流入し続けているファンドは、右肩上がりにグラフが伸びていきます。これは、ファンドが健全に運営されている証拠でもあります。
【おさらい:ニュース記事の例を見てみよう】
ここで、ニュース記事で紹介されていた3つの日経平均インデックスファンドの例を思い出してみましょう。
- Aファンド:管理費用(信託報酬)が高い
- Bファンド:管理費用はAより安い。純資産が1,000億円以上と大きい。
- Cファンド:管理費用が一番安い。しかし純資産が8億円と小さい。
この場合、記事の筆者が選んだのはBファンドでした。 Aは信託報酬が高いので論外。Cは信託報酬は最も魅力的ですが、純資産が小さすぎるため、マーケットインパクト・コストなどの「見えないコスト」が高くなり、結果的にパフォーマンスが悪化するリスクがあります。 一方でBは、信託報酬も十分に低く、かつ純資産が潤沢なので、安定した低コスト運用が期待できる、というわけです。まさに、「信託報酬」だけでなく、「純資産総額」も考慮して総合的に判断した結果ですね。
この3ステップを実践すれば、あなたもきっと「本当に低コスト」な優良ファンドを見つけられるはずです!
まとめ:賢い投資家は「実質コスト」で判断する
今回は、投資信託の「隠れコスト」をテーマに、本当に低コストな優良ファンドの見つけ方を解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
最後に、今日の重要なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- POINT 1:信託報酬の低さだけで選ぶのは危険! 目論見書に書かれている信託報酬は、あくまでコストの一部。それだけで判断すると、思わぬ「隠れコスト」でリターンが削られてしまう可能性があります。
- POINT 2:本当に見るべきは運用報告書の「総経費率(実質コスト)」 信託報酬に、売買手数料などの隠れコストを加えたものが「実質コスト」です。1年に1回発表される「運用報告書」で必ずチェックする習慣をつけましょう。
- POINT 3:「純資産総額が小さい」「新しい」ファンドには要注意 純資産総額が小さいと、コスト負担が重くなるリスクがあります。また、新しいファンドは実質コストが不明なため、最低でも1年間は様子を見るのが賢明です。
- POINT 4:優良ファンドは「信託報酬」「実質コスト」「純資産総額」の3点で総合的に判断! 目先の信託報酬の安さだけに飛びつかず、この3つの視点から、長期的に安心して資産を預けられるファンドをじっくりと選びましょう。
投資の世界、特にインデックスファンドの低コスト競争は、私たち個人投資家にとって大きな追い風です。しかし、その競争が激化するからこそ、表面的な数字だけでなく、その裏側にある「本当のコスト」を見抜く知識が、あなたの資産を将来大きく左右します。
この記事を読んで、「自分の持っているファンドはどうなんだろう?」と気になった方は、ぜひ一度、証券会社のマイページから運用報告書をチェックしてみてください。その小さな一歩が、あなたの資産形成を成功に導く大きな一歩になるはずです。