前回は、コア・サテライト戦略における「サテライト投資」の注意点や、初心者が陥りやすい罠について解説しました。攻めの投資には慎重な姿勢が必要でしたね。
さて、この連載も今回を含めて残すところあとわずかとなってきました。これまで、インデックス投資とは何か、そのメリット、具体的な始め方(投資目標の設定、アセットアロケーション、ファンド選び、口座開設、NISAやiDeCoの活用法など)、そして注意点に至るまで、様々な知識や情報をお伝えしてきました。
しかし、どんなに優れた投資手法や金融商品を選んだとしても、それらを実際に使いこなし、長期的に資産形成を成功させるためには、テクニックや知識だけでは不十分です。最後に問われるのは、実は「投資家自身の心構え(マインドセット)」なのです。
今回は、この連載の総まとめ的な意味合いも込めて、インデックス投資で成功を収めるために最も重要となる「心構え」について、特に「長期目線」と「継続力」という2つのキーワードに焦点を当てて、お話ししていきたいと思います。
なぜ「長期目線」が絶対に必要なのか?市場のノイズに惑わされないために
インデックス投資において、「長期目線で臨みましょう」という言葉は、耳にタコができるほど聞かされるアドバイスかもしれません。しかし、なぜこれほどまでに「長期」が強調されるのでしょうか?その理由を改めて確認しておきましょう。
- 短期的な市場の動きは予測不可能 まず、日々の株価や為替レートといった市場の短期的な価格変動は、プロの専門家であっても正確に予測することはできません。様々な要因が複雑に絡み合って動いているため、今日の上げ下げに一喜一憂したり、それを当てようとしたりすることは、精神的に疲弊するだけでなく、多くの場合、良い結果にはつながりません(タイミング投資の難しさについては第16回参照)。
- 世界経済は長期的には成長してきた 一方で、歴史を振り返ると、世界の経済は数々の戦争や恐慌、金融危機といった困難を乗り越えながらも、長い目で見れば着実に成長を続けてきました。インデックス投資は、この世界経済全体の長期的な成長の果実を、まるごと享受しようという考え方に基づいています(第10回参照)。この恩恵を受けるためには、短期的な浮き沈みに目を向けるのではなく、数十年単位の長い時間軸で市場と付き合っていく必要があるのです。
- 複利の効果は時間をかけるほど絶大になる そして、長期投資の最大の味方とも言えるのが「複利の効果」です。「利息が利息を生む」この魔法のような力は、投資期間が長ければ長いほど、雪だるま式にその威力を増していきます(第20回参照)。1年や2年では大した違いはなくても、10年、20年、30年と時間が経過するにつれて、その差は歴然となります。この複利の恩恵を最大限に引き出すためには、やはり「時間」が必要不可欠なのです。
市場の急騰や暴落といった、短期的に見れば大きなインパクトのある出来事も、数十年という長い時間軸で見れば、ほんの一時的な「ノイズ(雑音)」に過ぎなかった、というケースは少なくありません。このノイズに惑わされず、どっしりと構えていられるかどうかが、長期投資の成否を分けると言っても過言ではないでしょう。
一般的に、投資における「長期」とは、最低でも10年以上、理想的には20年、30年、あるいはそれ以上の期間を指すことが多いです。
「継続は力なり」インデックス投資を続けるための具体的な秘訣
「長期目線が大事なのは分かった。でも、そんなに長期間、本当に投資を続けられるだろうか…」 そう不安に思う方もいるかもしれません。確かに、頭では理解していても、実際に数十年にわたって投資を「継続する」ことは、決して簡単なことではありません。時には市場が大きく荒れたり、自分の資産が減ってしまったりすることもあるでしょう。そんな時でも、心を強く持ち、投資を投げ出さずに続けるためには、いくつかの秘訣があります。
- 無理のない範囲で投資する これが大前提です。毎月の生活費を切り詰めてまで投資に回したり、万が一の時のための生活防衛資金までつぎ込んだりするのは絶対にやめましょう。あくまで、当面使う予定のない「余剰資金」の範囲内で、毎月(あるいは毎年)無理なく続けられる金額を設定することが大切です(第18回参照)。金額の大小よりも、まずは「続けること」を最優先に考えましょう。
- 明確な投資目標を持ち、定期的に思い出す 「何のために、いつまでに、いくら貯めたいのか」という具体的な投資目標は、あなたの投資の羅針盤となります(第3回参照)。目標が明確であればあるほど、途中で困難な局面に遭遇しても、「この目標のためなら頑張れる」というモチベーションを維持しやすくなります。定期的に自分の目標を再確認し、投資を続けている意味を自分自身に問いかけましょう。
- 日々の基準価額の変動を見すぎない 特に投資を始めたばかりの頃は、毎日自分の資産がどうなっているか気になって、何度も証券口座の画面をチェックしてしまうかもしれません。しかし、インデックス投資は短期的な売買で利益を狙うものではありません。日々の値動きに一喜一憂していると、精神的に疲れてしまいますし、余計な売買をしてしまう原因にもなりかねません。いっそのこと、「ほったらかし投資」を心がけ、市場のチェックは月に一度や、年に一度の運用報告書の確認程度でも十分なくらいです。
- 積立投資を「自動化」する 毎月決まった日に、決まった金額が、指定した銀行口座から自動的に引き落とされて投資信託が買い付けられるように設定してしまえば、感情を挟む余地がなくなります。「今月は株価が高いから買うのをやめようかな…」といった迷いも生じません。ドルコスト平均法(第15回参照)のメリットも活かしつつ、規律ある投資行動を機械的に継続するための、非常に有効な方法です。
- 信頼できる情報源を持つ、あるいは相談できる人を見つける 投資に関する情報が溢れている現代において、何が正しくて何が間違っているのかを見極めるのは容易ではありません。信頼できる情報源(公的機関のウェブサイト、定評のある書籍や専門家の意見など)をいくつか持っておくことや、もしもの時に気軽に相談できる人(経験豊富な友人や、信頼できるファイナンシャルプランナーなど)がいれば、不安を感じた時の大きな助けになるかもしれません。ただし、最終的な投資判断は、必ず自分自身で行うという姿勢は忘れないでください。
これらの秘訣を参考に、自分なりに「続けられる仕組み」を構築していくことが大切です。
暴落時こそ投資家の真価が問われる!「胆力(たんりょく)」の重要性
長期投資を続けていれば、良い時ばかりではありません。時には、数年に一度、あるいは10年に一度と言われるような、大きな「市場の暴落(〇〇ショック)」に遭遇することも必ずあります。株価が連日のように下落し、自分の資産も大きく目減りしていく…そんな時、あなたの投資家としての真価、いわゆる「胆力(たんりょく)」が試されることになります。
このような局面で、最もやってはいけない行動は、恐怖心からパニックに陥り、保有している資産を慌てて安値で売ってしまう「狼狽(ろうばい)売り」です。これをやってしまうと、大きな損失を確定させてしまうだけでなく、その後の市場が回復した際の恩恵も受けられなくなってしまいます。
むしろ、ドルコスト平均法で積立投資を続けているのであれば、市場の暴落時は、「優良なインデックスファンドを、普段よりも安く、たくさん買える絶好のチャンス」と捉えることもできるのです。
歴史を振り返れば、世界の株式市場は、ブラックマンデー、ITバブル崩壊、リーマンショック、コロナショックなど、数々の大きな暴落を経験してきました。しかし、その度に市場は時間をかけて回復し、長期的には新たな高値を更新し成長を続けてきた、という事実があります。
もちろん、過去が未来を保証するものではありませんが、この歴史的な事実を思い出し、過度な悲観論に陥らないようにすることが大切です。そして何より、ご自身の「リスク許容度」の範囲内で、適切な資産配分(アセットアロケーション)で投資を行っていれば、たとえ市場が大きく下落したとしても、比較的冷静に状況を見守り、投資を継続していくことができるはずです。
まとめ:インデックス投資は「自分との戦い」。シンプルに、淡々と、そして楽しもう!
この連載を通じて、インデックス投資で長期的に成功を収めるために最も大切なのは、誰も知らない特別な情報や、金融工学の高度な知識、あるいは複雑な売買テクニックなどではない、ということを感じていただけたのではないでしょうか。
本当に大切なのは、
- 「長期的な視点を持ち続けること」
- 「世界経済の成長を信じること」
- 「自分自身のリスク許容度を正しく理解すること」
- 「最初に決めたシンプルなルール(例えば、低コストなインデックスファンドへの定期的な積立)を、市場の短期的な動きや周囲の雑音に惑わされることなく、ただひたすらに、淡々と、そして時にはそのプロセスを楽しみながら『継続』していくこと」
これに尽きると言っても過言ではありません。
インデックス投資は、ある意味で「他人との競争」ではなく、「自分自身の規律と忍耐力との戦い」なのです。市場の短期的な動きに心を乱されず、他人の成功話に焦ることなく、自分のペースで、自分の目標に向かって、コツコツと進んでいく。そのシンプルで愚直な継続こそが、インデックス投資における最大の「成功の秘訣」なのです。
この連載「インデックス投資の教科書」でお伝えしてきた知識や考え方が、あなたのこれからの資産形成の旅において、少しでもお役に立てれば幸いです。ぜひ、「長期目線」と「継続力」という最強の心構えを持って、豊かな将来のための第一歩を踏み出してください。応援しています!