【インデックス投資の教科書㊸】【年に一度でOK】インデックス投資のリバランス、正しいやり方と必要性のすべて

インデックス投資の教科書

前回は、円安・円高といった為替レートの変動が、海外資産を含むインデックス投資にどのような影響を与えるのか、そしてその変動とどう付き合っていけば良いのかを解説しました。コントロールできない為替の動きに一喜一憂せず、長期的な視点で淡々と続けることが重要でしたね。

さて、インデックス投資を長く続けていくと、もう一つ、私たちが向き合うことになるメンテナンス作業があります。それは、当初ご自身で決めた資産配分(アセットアロケーション)が、市場の値動きによって少しずつ崩れてきてしまう、という現象です。

例えば、「株式50%:債券50%」でスタートしたのに、株価が大きく上昇した結果、1年後には「株式60%:債券40%」になっている、といった具合です。この崩れた資産配分を、元の目標比率に戻すための大切なメンテナンス作業、それが今回のテーマである「リバランス」です。

「リバランスって、なんだか難しそう…」「本当にやる必要あるの?」と感じる方もいるかもしれません。今回は、このリバランスについて、その必要性、具体的なやり方、そして適切な頻度を、網羅的に分かりやすく解説していきます。いわば、あなたの大切な資産の「ポートフォリオの定期的な健康診断」のようなもの。その重要性を一緒に見ていきましょう。

なぜ「リバランス」が必要なの?その2つの大きな目的を理解しよう

そもそも、なぜリバランスという作業が必要なのでしょうか?その目的は、大きく分けて2つあります。

  1. リスク水準をコントロールし続けるため(これが最も重要な目的です!) あなたが最初に決めた「株式50%:債券50%」といった資産配分は、ご自身の「リスク許容度」(どれくらいのリスクなら受け入れられるか)に基づいて設定したはずです。 しかし、運用を続ける中で、値動きの大きい株式が大きく値上がりし、ポートフォリオの比率が「株式60%:債券40%」に変化したとします。この状態は、当初の計画よりもリスクの高い資産(株式)の割合が増えていることを意味し、あなたのポートフォリオ全体のリスクも、想定以上に高まってしまっているのです。 このまま放置してしまうと、次に市場全体が大きく下落した際に、想定以上の大きな損失を被ってしまったり、精神的な動揺から狼狽売りしてしまったりする原因になりかねません。 リバランスは、このように変化してしまったリスク水準を、当初の計画通りに保ち続けるための、非常に重要な「リスク管理」の手法なのです。
  2. リターンを向上させる可能性も(副次的な効果) リバランスを行うという行為は、機械的に「値上がりした資産を一部売り(利益確定)、その資金で値下がりした資産を買う(割安で買い増し)」という行動につながります。 この「高く売って、安く買う」という、いわば「逆張り」的な投資行動が、結果として長期的なリターンを向上させる可能性がある、とも言われています。 ただし、これはあくまで副次的な効果であり、常にリターンが向上するとは限りません。リバランスの主目的は、あくまで「リスクの管理」である、ということを忘れないようにしましょう。

具体的なリバランスのやり方:誰でもできる2つの簡単ステップ

「リバランスの重要性は分かったけど、具体的にどうやればいいの?」 ご安心ください。リバランスの手順は、非常にシンプルです。

ステップ①:現在の資産配分を確認する まずは、ご自身のポートフォリオの「健康診断」から始めましょう。保有している各インデックスファンド(例えば、日本株ファンド、先進国株ファンド、債券ファンドなど)の現在の評価額を、お使いの証券会社のウェブサイトなどで確認します。 そして、各資産の評価額を全て合計してポートフォリオ全体の総額を出し、それぞれの資産が全体に占める比率(%)を計算します。 (例:先進国株60万円、日本株20万円、債券20万円なら、総額100万円で、比率は60%:20%:20%)

ステップ②:目標の資産配分に戻すための調整を行う 現在の比率が、当初目標としていた比率(例:50%:25%:25%)からずれていることが分かったら、それを修正します。修正の方法には、主に2つのやり方があります。

方法A:売買を伴うリバランス 最も基本的な方法は、目標比率よりも増えすぎた資産(この例では先進国株)の一部を売却し、その売却で得た資金を使って、目標比率よりも減ってしまった資産(この例では日本株と債券)を買い増す、というやり方です。

方法B:積立額の調整によるリバランス(通称:ノーセル・リバランス) こちらは、資産を売却せずに、毎月の積立投資の配分額を変更する方法です。 例えば、毎月5万円を積み立てている場合、比率が減ってしまった日本株と債券への積立額をそれぞれ2万5千円に増やし、逆に比率が増えすぎた先進国株への積立は一時的に停止する、といった具合です。 これをしばらく続けることで、ポートフォリオ全体の比率を、時間をかけて徐々に目標比率に近づけていくことができます。特に、NISA口座以外(特定口座など)で運用していて、利益が出ている資産を売却すると税金がかかってしまうため、その税金の発生を避けたい場合に非常に有効な方法です。

リバランスはいつ、どれくらいの頻度でやればいい?

リバランスの適切な「タイミング」と「頻度」についても、あまり難しく考える必要はありません。

  • タイミングの考え方①(定時リバランス): 「年に一度、年末(または年度末)に」「年に一度、自分の誕生月に」など、あらかじめ自分でルールを決めたタイミングで定期的に行う方法です。この方法の良い点は、シンプルで忘れにくく、継続しやすいことです。そして、多くの場合、この「年に一度」程度の頻度でリバランスを行えば十分であると言われています。
  • タイミングの考え方②(定率リバランス): こちらは、資産配分の「ズレ」が、あらかじめ決めた一定のルール(例えば、「目標比率から±5%以上ずれたら」など)に達した時に、その都度リバランスを行う方法です。より正確なリスク管理が可能になりますが、常にポートフォリオの状況をチェックする必要があるため、少し手間がかかるという側面もあります。

結論として、特に投資初心者の方や、普段忙しくて頻繁にポートフォリオをチェックできない方は、まずは「年に一度、この日にやる!」と決めてしまう「定時リバランス」から始めるのが、最もシンプルで実践しやすい方法と言えるでしょう。

リバランスの注意点と「リバランスが不要」なケース

最後に、リバランスを行う上での注意点と、そもそもリバランスという作業自体が不要なケースについて補足しておきます。

注意点①:税金の問題を忘れない NISA口座内での売買は非課税なので問題ありませんが、特定口座などの課税口座で利益が出ている資産を売却してリバランスを行うと、その売却益に対して約20%の税金がかかってしまいます。この税金の負担を避けたい、あるいは先送りにしたい場合は、前述の「ノーセル・リバランス(積立額の調整によるリバランス)」が非常に有効な手段となります。

注意点②:コストの問題も意識する 売買時には、商品によっては手数料がかかる場合があります。リバランスをあまりにも頻繁に行いすぎると、その分コストがかさんでしまう可能性もあるため、やはり「年に一度」程度の落ち着いたペースが推奨されます。

そもそも「リバランスが不要」なケースとは?

ケース①:「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」や「S&P500インデックスファンド」など、たった1本のインデックスファンドだけで資産運用をしている場合。 この場合、ファンドの内部で、投資対象となっている国・地域別の株式の比率は、指数に連動するように自動的に調整されています。そのため、投資家自身が何かリバランス作業を行う必要はありません。(第28回参照)

ケース②:「バランスファンド」で運用している場合。 バランスファンドも、そのファンドの内部で、あらかじめ定められた比率(例えば、国内外の株式と債券を25%ずつ、など)になるように、自動でリバランスを行ってくれます。そのため、基本的に投資家がリバランスについて考える必要はありません。

つまり、この「リバランス」という作業が必要になるのは、あくまで「ご自身で、複数の異なる資産クラスのインデックスファンド(例えば、日本株ファンドと先進国株ファンドと新興国株ファンドと債券ファンドなど)を、自分なりの比率で組み合わせてポートフォリオを構築している場合」なのです。

まとめ:リバランスは面倒な作業ではなく、賢い資産管理術

今回は、インデックス投資における重要なメンテナンス作業である「リバランス」について、その必要性から具体的なやり方、注意点までを網羅的に解説しました。

  • リバランスの目的:最も重要なのは、ポートフォリオ全体のリスク水準を、自分の許容度の範囲内にコントロールし続けること。
  • 具体的なやり方:現在の資産配分を確認し、売買や積立額の調整で目標比率に戻す。
  • 頻度とタイミング:「年に一度」の定時リバランスがシンプルで実践的。
  • リバランスが不要なケース:1本のインデックスファンドや、バランスファンドで運用している場合。

リバランスが必要なポートフォリオを組んでいる方にとって、この作業は、感情に流されることなく、当初の投資計画を守り続けるための羅針盤のようなものです。 面倒な作業と捉えるのではなく、ご自身の大切な資産を長期的に守り育て、ゴールまで航路を外れることなく進むための「賢い資産管理術」として、ぜひ前向きに取り組んでみてください。

さて、リバランスの考え方を理解したところで、次回は、もう少し応用的なポートフォリオの組み方について考えてみたいと思います。

次回の第44回は、「最強のポートフォリオとは?リスクを減らしリターンを狙う『資産配分』の黄金比」と題して、よりリスクを抑えつつ安定したリターンを目指すための、資産配分の考え方の基本について解説します。お楽しみに!

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