前回は、インデックス投資で成功を収めるために最も重要な心構えとして、「長期目線」と「継続力」の2つを挙げ、その具体的な意味や実践のヒントについてお話ししました。テクニックだけでなく、メンタル面が大切だということをご理解いただけたかと思います。
さて、その「継続」を阻む可能性のある要因の一つとして、時折「インデックス投資は退屈だ」「つまらない」といった声が聞かれることがあります。確かに、毎日ハラハラドキドキするような値動きがあるわけでもなく、頻繁に売買するわけでもないインデックス投資は、ある意味で「地味」な投資法かもしれません。
今回は、このインデックス投資の「退屈さ」というテーマに焦点を当ててみたいと思います。それは本当にネガティブなことなのでしょうか? もし「退屈だなぁ」と感じてしまった場合、私たちはどのように向き合い、投資を続けていくためのモチベーションを維持していけば良いのでしょうか?
なぜ「退屈」と感じてしまうのか?その心理的背景
まず、なぜインデックス投資が「退屈」や「つまらない」と感じられてしまうことがあるのか、その心理的な背景を少し考えてみましょう。
- 日々の値動きが地味で、ドラマが少ない インデックス投資は、市場全体の平均的な動きを目指すため、個別株のように特定のニュースで株価が何倍にもなったり、逆に急落したりといったドラマティックな展開は稀です。良くも悪くも、比較的穏やかな値動きをすることが多いでしょう。
- 短期的な成果が見えにくい インデックス投資は、数十年単位の長期的な視点で資産を育てていくのが基本です。そのため、数ヶ月や1年程度の短い期間では、資産が大きく増えたという実感を得にくいことがあります。「本当にこれで増えているのかな?」と不安に感じることもあるかもしれません。
- 投資家自身が「やることが少ない」 一度、積立投資の設定をしてしまえば、あとは基本的に「ほったらかし」でOKなのがインデックス投資のメリットの一つです。しかし、裏を返せば、投資家が能動的に何かアクションを起こす場面が少ないため、「参加している実感が薄い」「手持ち無沙汰だ」と感じてしまう人もいるかもしれません。
- 派手な成功談とのギャップ メディアやSNSなどでは、「この株で一気に大儲けした!」「短期間で資産が〇倍に!」といった、刺激的で派手な投資の成功談(その多くは再現性が低く、リスクも非常に高いものですが)が目に入ってくることがあります。それらと比べてしまうと、地道にコツコツと積み立てていくインデックス投資が、なんだか色あせて見えてしまう瞬間があるかもしれません。
これらの要因が重なると、人間が本来持っている「何か行動したい」「すぐに結果や刺激が欲しい」といった欲求と、インデックス投資の淡々とした性質との間にズレが生じ、「退屈だ」「つまらない」という感情につながってしまう可能性があります。
「退屈さ」は、むしろインデックス投資の「強み」であり成功のサイン?
しかし、この一見するとネガティブなイメージのある「退屈さ」ですが、実は、インデックス投資を成功に導く上で、非常に重要な「強み」であると捉えることもできるのです。
- 感情的な判断ミスを減らせる 「退屈」であるということは、日々の値動きに心が大きく揺さぶられることが少ない、ということです。市場が急騰しても「もっと買わなきゃ!」と焦ることも、暴落しても「もうダメだ!」とパニックになることも少なく、冷静な判断を保ちやすくなります。その結果、不必要な売買を繰り返し、損失を出すといった感情的なミスを減らすことにつながります。
- 本業や生活に集中できる 投資のために多くの時間や精神的なエネルギーを割く必要がありません。「退屈」なくらい手がかからないからこそ、仕事や趣味、家族との大切な時間など、あなたの人生における他の重要なことにリソースを集中させることができます。
- 低コストを維持しやすい 頻繁な売買がなければ、その都度かかる取引手数料などのコストを最小限に抑えることができます。インデックス投資の大きなメリットである「低コスト」を、最大限に活かすことができるのです。
- 長期継続のハードルが低い シンプルで分かりやすく、手間もかからず、精神的な負担も少ない。だからこそ、インデックス投資は無理なく数十年にわたって「継続」しやすい投資法なのです。そして、この「継続」こそが、長期的な資産形成における最大の鍵でしたね。
もしかしたら、あなたがインデックス投資に対して「退屈だな」と感じるのは、あなたの運用が非常に合理的で、市場のノイズに惑わされることなく、順調に長期的な資産形成の王道を歩んでいる、という「成功のサイン」なのかもしれません。
「退屈」を乗り越え、モチベーションを維持するための具体的なコツ
それでもやはり、人間ですから、時には「なんだか刺激がないなぁ」「このままでいいのかなぁ」と、モチベーションが低下してしまうこともあるでしょう。そんな時に、インデックス投資を楽しく(あるいは、少なくとも苦痛なく)続けていくための、具体的なコツや考え方をいくつかご紹介します。
- 投資の「目的」を定期的に再確認する あなたは「何のために」資産形成をしていますか? 老後の安心のため? 子供の教育資金のため? 早期リタイアして自由な時間を手に入れるため? その具体的な目標を時々思い出すことで、日々の小さな値動きは気にならなくなり、長期的な視点を取り戻すことができます。
- 積立投資を「完全に自動化」し、意識の外に置く 毎月、給与振込口座から自動的に一定額が証券口座に引き落とされ、自動的にインデックスファンドが買い付けられるように設定してしまいましょう。一度設定すれば、あとはあなたが意識しなくても投資は進んでいきます。「投資していることを忘れるくらいが丁度良い」という考え方もあります。
- 日々の基準価額のチェックは「ほどほどに」 毎日、あるいは一日に何度も基準価額をチェックするのは、精神衛生上あまり良くありません。かえって不安を煽ることもあります。インデックス投資は長期戦です。チェックするのは、月に一度、あるいは年に一度、運用報告書が届いたタイミングなどで資産全体の状況を確認する程度で十分です。
- 投資以外の「夢中になれる趣味や目標」を持つ 投資だけに意識が集中しすぎると、どうしても小さな変動も大きく感じてしまいがちです。仕事や趣味、スポーツ、学習、ボランティア活動など、投資以外にもあなたが夢中になれること、エネルギーを注げる対象を持つことで、心のバランスが取りやすくなります。
- (注意点を守った上で)ごく少額で「サテライト投資」を試してみる もし、どうしても「何かしたい」という気持ちが強いのであれば、前回(第30回)でお話しした注意点を厳守した上で、ポートフォリオ全体のごく一部(例えば1%~数%程度)の資金を使って、あなたの興味のある特定の企業やテーマに投資してみる(サテライト投資)のも一つの手です。ただし、これはあくまで「お楽しみ」の範囲に留め、コアとなるインデックス投資を揺るがすことのないようにしましょう。
- 資産の「成長記録」を可視化する 数年に一度くらいで良いので、これまでの積立総額や、資産全体の評価額の推移をグラフなどにしてみてはいかがでしょうか。右肩上がりで少しずつでも資産が増えていることを視覚的に確認できれば、地道な継続の成果を実感でき、モチベーションにつながるかもしれません。
- 同じ志を持つ「投資仲間」と建設的な情報交換をする 信頼できる友人や、オンラインのコミュニティなどで、同じようにインデックス投資を実践している仲間と、長期的な視点での情報交換や励まし合いをするのも良いでしょう。ただし、他人と自分の成績を短期的に比較しすぎたり、過度に煽るような情報に流されたりしないよう注意が必要です。
これらのコツを参考に、あなたに合った方法で、インデックス投資との上手な付き合い方を見つけてみてください。
まとめ:「退屈」の先に待つもの。長期投資の静かな醍醐味とは
インデックス投資の「退屈さ」は、見方を変えれば、その投資手法がいかに合理的で、市場のノイズに振り回されず、順調に長期的な資産形成の道を歩んでいるかの証しである、と捉えることができます。
短期的なスリルや刺激を求めるのではなく、時間をかけてゆっくりと、しかし着実に自分の資産が育っていくプロセスそのものに、静かな充実感や価値を見出すこと。これが、インデックス投資と長く付き合っていく上での大切な心構えかもしれません。
「退屈」と感じるかもしれない日々の淡々とした積み重ねの先に、複利の効果も相まって、気がつけば想像していたよりも大きな資産が築かれている。そんな、長期投資ならではの「静かな醍醐味」が待っている可能性を信じてみませんか。
インデックス投資は、確かに派手さや刺激は少ないかもしれません。しかし、堅実で、再現性が高く、最終的には多くの人にとって大きな成果をもたらしてくれる可能性を秘めた、非常に賢明な選択であると言えるでしょう。その「退屈さ」こそが、実は成功への近道なのかもしれませんね。
さて、インデックス投資を続けていく上で、もう一つ知っておくと役立つのが「出口戦略」です。次回は、積み立てた資産をいつ、どのように使っていくかについて考えてみたいと思います。
次回の第33回は、「インデックス投資の出口戦略:いつ、どうやって資産を使うのか?」と題して、長期投資のゴールとも言える資産の取り崩し方について、基本的な考え方を解説します。お楽しみに!