前回は、投資を始める前に「何のために、いつまでに、いくら貯めたいのか?」という投資の目標と期間を設定することが、非常に大切ですというお話をしました。投資という名の航海に出るための「目的地」を決める作業でしたね。
これで投資の準備は万全!…と言いたいところですが、実はもう一つ、投資を始める前に絶対にやっておくべき、非常に重要な準備があります。それが、今回のテーマ「生活防衛資金を確保すること」です。
投資の前に、もっと大事な「お守り」がある?
「生活防衛資金?それは何?」 「投資でお金を増やしたいのに、なぜ守りのお金の話を?」
そう思われるかもしれません。早く投資を始めて、お金に働いてもらいたいという気持ちはよく分かります。しかし、焦りは禁物です。実は、この生活防衛資金という「備え」をしっかり持っているかどうかが、投資で成功できるか、それとも失敗してしまうかを分ける、大きな要因となり得るのです。
なぜ、攻めの「投資」の前に、守りの「生活防衛資金」が必要なのか? 今回は、その理由と、では具体的にどうすればいいのか?という点を、分かりやすく解説していきます。安心して投資のスタートラインに立つために、ぜひ知っておいていただきたい内容です。
「生活防衛資金」って、そもそも何のお金?
まず、「生活防衛資金」とは、一体どのようなお金のことなのでしょうか?文字通り、「生活を防衛するためのお金」。より分かりやすく言えば、「もしもの時に、自分や家族の生活を守るための、当面の生活費」のことです。
私たちの人生、何が起こるか分かりません。例えば、以下のような「もしも」が起こる可能性も考慮しておく必要があります。
- 突然の病気やケガによる収入の途絶や高額な医療費
- 会社の倒産やリストラによる失業
- 家族の介護による一時的な労働制限
- 自然災害による被害
- その他にも家電の故障や冠婚葬祭での急な出費など…
このような予期せぬ事態が起こったとき、「お金がないから生活できない…!」ということになっては、本当に困ってしまいます。生活防衛資金は、このような不測の事態が起きても、最低限の生活を維持したり、状況を立て直したりするための時間を稼いだりするための、いわば「緊急時の備え」なのです。
ここで重要なのは、生活防衛資金は、投資に回すお金とは全く性質が異なるという点です。
- 投資資金: 将来のためにお金を増やすことを目指し、リスクを取ってリターンを追求する、すぐには使わない前提のお金。
- 生活防衛資金: いざという時に生活を守るためのお金であり、増やすことよりも「守ること」「いつでも使えること」が最優先されます。リスクは取りません。
この違いをしっかり理解しておくことが、まず最初のポイントです。生活防衛資金は、あなたの生活の最後の砦(とりで)となる、非常に大切なお金なのです。
なぜ投資の前に必要なの?ないとどうなる?
「もしもの時の備えが重要なのは分かったけれど、それを投資より先に準備しなければならないのは、なぜ?」
それは、生活防衛資金を確保せずに投資を始めてしまうと、実は大きなリスクを抱えることになるからです。主に二つのリスクが考えられます。
- リスク①:損失が出ている状況で売却せざるを得なくなる(狼狽売り) もし、生活防衛資金がない状態で、手元のお金をほとんど投資に回していたとします。そんな時に、急な病気や失業などでまとまったお金が必要になったらどうなるでしょうか?当然、投資しているお金を取り崩すしかありません。しかし、その時、もし市場が下落していて、投資資産が大きく値下がりしていたら…? 本来なら長期で保有すれば回復する可能性があるにもかかわらず、「今すぐお金が必要だから」と、損失が出ている状態で売却(損切り)せざるを得なくなってしまうのです。これは精神的にも金銭的にも大きなダメージとなります。
- リスク②:精神的に不安定になり、冷静な投資判断ができなくなる 手元に当面の生活費がない状態で投資をしていると、日々の生活費の心配と、投資資産の値動きの心配とで、常に心が落ち着かない状態になる可能性があります。「もし生活費が足りなくなったら、投資のお金を使わないといけないかもしれない…」「株価が下がっているけれど、大丈夫だろうか…」といった具合です。このように精神的な余裕がない状態では、投資に対する冷静な判断が難しくなります。少し株価が下がっただけで不安になって売却してしまったり、逆に焦ってリスクの高い投資に手を出してしまったり…。これでは、長期的な資産形成を続けることは困難でしょう。
つまり、生活防衛資金は、
- 予期せぬ出費があっても、投資資産に手を付けずに済むための「防波堤」
- 安心して投資を続けるための「心の安定剤」
この二つの役割を果たす、投資を成功させるための、なくてはならない「土台」と言えるでしょう。ですから、「投資でお金を増やしたい!」という気持ちは大切ですが、まずは足元の生活を守るための資金をしっかり確保すること。これが、結果的に投資を長く、うまく続けていくための重要なステップとなるのです。
で、いくら必要なの?生活防衛資金の目安と考え方
「生活防衛資金の重要性は理解できた。では、結局いくら貯めれば良いのだろうか?」
そこが最も気になる点ですよね。 よく言われる一般的な目安は、「毎月の生活費の3ヶ月~半年分」です。人によっては、「1年分はあった方が安心」という意見もあります。
「3ヶ月と半年では大きな違いがあるけれど、なぜ幅があるのか?」
それは、必要な生活防衛資金の額は、個人の状況によって大きく異なるからです。例えば、以下のような要素で変わってきます。
- 働き方・収入の安定度: 会社員か自営業か、収入は安定しているかなど。
- 家族構成: 独身か、扶養家族(配偶者や子供)がいるか。
- 住居: 持ち家(ローン有無)か賃貸か。
- 健康状態: 持病の有無など。
- 性格: 心配性か、楽観的かなど。
ですから、「誰でも必ず半年分必要」というわけではありません。
まずは、「自分(または家族)が、毎月いくらくらいで生活しているのか?」という生活費を、きちんと把握することが第一歩です。家計簿アプリを利用したり、銀行口座の履歴を確認したりして、おおよそで構いませんので計算してみましょう。
そして、その生活費の3ヶ月分を、最初の目標として設定することをおすすめします。例えば、毎月の生活費が20万円なら、目標は60万円ですね。
「その金額をすぐに貯めるのは難しい…」と感じるかもしれません。心配ありません。一気に貯めようとする必要はないのです。少しずつでも良いので、生活防衛資金用の口座に計画的に貯めていく。そして、3ヶ月分が貯まったら、次は半年分を目指す、というように段階的に準備していくことで問題ありません。
大切なのは、ご自身の状況に合わせて、現実的な目標額を決め、その準備を始めることです。
ちなみに、ぼくは生活費の2年分を生活防衛資金として確保しています。かなり保守的ですね。自分でもそう思います。ただし、かなり節約した生活費の2年分というところがポイントです。生活防衛資金が必要となる状況では今と同じ生活ではなく、かなり節約することになると想定しました。その上で、たとえ何が起きても慌てずぐっすり眠れる金額として、生活費の2年分を生活防衛資金にすることに決めました。
実際に生活防衛資金を使うような状況になったことはありませんが、何が起きても落ち着いていられる頼りがいのある存在になっています。
生活防衛資金はどこに置いておく?管理方法のポイント
「目標額も決まったし、これから貯めていくとして、そのお金はどこに保管すれば良いのだろうか?」
生活防衛資金の保管場所も、非常に重要なポイントです。 保管場所を選ぶ上で、絶対に守りたい条件が二つあります。
- 安全性が高いこと(元本割れリスクが極めて低いこと) 生活防衛資金は、「もしもの時」に確実に使えることが大前提ですから、株式や投資信託のように価格が変動し、元本割れする可能性がある金融商品は適していません。
- すぐに引き出せること(流動性が高いこと) 緊急事態はいつ起こるか分かりません。いざという時に、「引き出すのに時間がかかる」というのでは困ります。ATMやインターネットバンキングなどで、いつでもすぐにお金を引き出せる状態にしておく必要があります。
この二つの条件を満たす具体的な保管場所としては、普通預金口座やネット銀行の普通預金口座などが一般的です。
ここで、非常に重要な注意点が一つあります。生活防衛資金は、投資に使うお金を入れている証券口座とは、必ず別の口座で管理してください。
もし同じ口座に入れてしまうと、
- 生活防衛資金のつもりだったのに投資に使ってしまったり…
- 投資資金との区別がつかなくなり、いざという時にいくら使えるのか分からなくなったりする可能性があります。
「これは緊急用のお金」と、意識的にも物理的にも、明確に分けておくことが大切です。
「でも、普通預金ではお金が増えないどころか、インフレで価値が目減りするのでは?」
確かにその通りです。物価上昇(インフレ)が進むと、お金の価値は相対的に下がってしまいます。これは普通預金のデメリットと言えます。しかし、思い出してください。生活防衛資金の最も重要な目的は「増やす」ことではなく、「守る」こと、そして「いつでも使える」ことなのです。多少のインフレリスクを考慮しても、安全性と流動性を最優先するのが、生活防衛資金の基本的な考え方です。
まずは、安心できる場所に、あなたの生活を守るための「備え」をしっかりと準備しましょう。
まとめ:まずは「安全基地」を作ろう
今回は、投資を始める前に絶対に確保しておきたい「生活防衛資金」について、その重要性や目安、管理方法などを詳しく見てきました。
- 生活防衛資金とは? → 病気、失業、災害など、予期せぬ事態に備えるための「生活を守るお金」。
- なぜ必要? → これがないと、いざという時に投資資産を不利な状況で売却(狼狽売り)したり、精神的に不安定になって冷静な投資判断ができなくなったりするリスクがあるから。
- 目安は? → 一般的には「生活費の3ヶ月~半年分」。ただし、働き方や家族構成などで変わるので、まずは自分の生活費を把握し、3ヶ月分を目標にするのがおすすめ。
- どこに置く? → 安全性と流動性が最優先。「普通預金口座」などで、投資用のお金とは必ず分けて管理しよう。
「早く投資を始めたい!」という気持ちが先走るかもしれませんが、まずはこの生活防衛資金という「安全基地」をしっかり作ることが、安心して投資の海に漕ぎ出すための、そして長期的に投資を続けていくための、本当に大切な第一歩なのです。焦らず、まずはご自身の足元を固めることから始めてみてください。
さて、これで投資を始める前の大事な準備(目標設定、生活防衛資金)が整ってきましたね!次回はいよいよ、「自分のリスク許容度を知ることから始めよう!」というテーマです。
投資と切っても切り離せない「リスク」と、どう向き合っていけばいいのか?自分はどれくらいのリスクなら受け入れられるのか?を考えるヒントをお届けします。これも投資戦略を決める上で欠かせないステップですので、ぜひ楽しみにしていてください。