前回(第28回)は、大人気の全世界株式インデックスファンド「オルカン」について、その「自動リバランス(調整)」の仕組みや、その利便性と投資家が理解しておくべき点について解説しました。オルカン1本で世界中に分散投資し、市場の動きに合わせて国・地域別の比率が自動で調整されるのは、非常に手間いらずで魅力的ですよね。
しかし、中には「インデックス投資で市場平均を目指すのは良いけれど、それだけじゃ少し物足りないな」「自分の興味がある分野や、応援したい企業にも少し投資してみたい」と感じる方もいるかもしれません。
今回は、そんなインデックス投資をベースにしつつ、もう少し積極的なリターンを狙ったり、自分なりのスパイスを加えたりしたいと考える方向けの投資戦略の一つ、「コア・サテライト戦略」について、その基本的な考え方やメリット・注意点などを解説していきます。
「コア・サテライト戦略」ってどんな仕組み?攻めと守りのバランス
コア・サテライト戦略とは、あなたの投資ポートフォリオ(資産の組み合わせ)を、「コア(中核)」となる部分と、「サテライト(衛星)」となる部分に分けて運用する考え方です。
- コア部分(中核資産) これは、ポートフォリオの大部分、例えば70%~90%程度の資金を割り当てる、あなたの資産形成の「土台」となる部分です。ここには、これまでこの連載で学んできたような、低コストのインデックスファンド(例えば、全世界株式インデックスファンドや、S&P500のような主要な株価指数に連動するファンドなど)を活用します。目的は、市場全体の平均的なリターンを、できるだけ低コストで、長期的に安定して獲得すること。いわば、ポートフォリオの「守り」を固めつつ、着実な成長を目指す部分です。
- サテライト部分(周辺資産) こちらは、ポートフォリオの一部分、例えば10%~30%程度の比較的少額の資金を割り当てる部分です。コア部分よりも高いリターン(市場平均を上回るリターン、いわゆるアルファ)を狙ったり、あるいは自分の興味・関心が強い特定のテーマや企業に投資したりします。具体的には、成長が期待される特定のテーマ型ファンド(例:AI関連、クリーンエネルギー関連など)、個別企業の株式、アクティブファンド、新興国の株式ファンドなどが選択肢になります。こちらは、ポートフォリオに「攻め」の要素や「スパイス」を加える役割を担います。
このコア・サテライト戦略の目的は、ポートフォリオの大部分を占めるコア部分で安定的な資産成長の基盤を確保しつつ、サテライト部分でプラスアルファのリターンを追求したり、投資の楽しみを広げたりすることにあります。攻めと守りのバランスを取りながら、自分なりの運用を目指す方法と言えるでしょう。
サテライト投資「あり」派の意見と、どんなメリットがある?
では、なぜわざわざサテライト部分を設けて、インデックス投資以外のものに投資するのでしょうか?サテライト投資を行うことのメリットや、それを支持する意見には以下のようなものがあります。
- 市場平均以上のリターンを狙える可能性 コア部分のインデックス投資は、良くも悪くも市場平均並みのリターンを目指します。しかし、サテライト部分で成長性の高いテーマや優れた個別企業に投資し、それがうまくいけば、ポートフォリオ全体のリターンを市場平均以上に引き上げられる可能性があります。コアだけでは得られない「超過リターン」を追求できるのが、最大の魅力の一つです。
- 自分の興味や関心を投資に活かせる 「この技術は将来絶対に伸びるはずだ!」「この会社を応援したい!」といった、あなた自身の興味や関心、あるいは社会的な信念などを投資に反映させることができます。単にお金を増やすだけでなく、投資を通じて世の中の動きをより深く知ったり、特定の分野の成長に関わったりする「楽しさ」や「主体性」を感じられるでしょう。
- 投資や経済に関する知識が深まる サテライト部分で特定のテーマや企業に投資しようとすると、自然とそれらに関する情報を集めたり、分析したりするようになります。その過程で、投資や経済に関する知識が深まり、より多角的な視点を持てるようになることも期待できます。
ただし、これらのメリットを追求する上での大前提は、サテライト部分はあくまでポートフォリオの一部であり、仮にうまくいかなかったとしても、コア部分でカバーできる範囲、つまり「余裕資金」で行う、ということです。生活に影響が出るような資金をサテライト部分に投じるのは避けるべきです。
サテライト投資「なし」派の意見と、注意すべき点は?
一方で、サテライト投資は行わない、あるいは行うとしても非常に慎重であるべきだ、という意見もあります。その理由や注意点も見ておきましょう。
- サテライト部分はリスクが高くなりがち 一般的に、サテライト部分で投資対象となるようなテーマ型ファンドや個別株式、新興国株式などは、コア部分で用いる全世界株式インデックスファンドなどに比べて、価格変動リスクが高い傾向にあります。特定のテーマや少数の銘柄に集中投資することになるため、そのテーマが期待外れだったり、企業の業績が悪化したりした場合、大きな損失を被る可能性があります。
- 結局は「目利き」や「タイミング」が問われる サテライト部分で高いリターンを狙うということは、結局のところ「どのテーマが本当に成長するか」「どの企業が有望か」「いつ投資するのが適切か」といった、アクティブな判断、つまり「目利き」や「タイミング」が求められることになります。これまでの連載でも見てきたように、これらを継続的に成功させるのは非常に困難です。
- コストが高くなる可能性 個別株式を売買するには手数料がかかりますし、テーマ型ファンドやアクティブファンドの多くは、インデックスファンドに比べて信託報酬が高く設定されています。これらのコストは、確実にリターンを押し下げる要因となります。
- 管理の手間が増える コア部分だけのシンプルなインデックス投資に比べて、サテライト部分で複数の投資対象を持つと、それぞれの情報収集や値動きのチェック、ポートフォリオ全体のリバランスなど、管理の手間が増えることになります。
これらの点を考慮すると、特に投資の知識や経験がまだ浅い初心者の方にとっては、まずはコア部分となる低コストなインデックス投資に集中し、シンプルに運用を続ける方が、失敗のリスクを抑え、長期的な資産形成には合理的である、という考え方にも十分な説得力があります。
自分にとってサテライト投資は「あり」か「なし」か?判断のポイント
では、あなたにとって、サテライト投資は「あり」なのでしょうか、それとも「なし」なのでしょうか?
これは、個人の投資目標、リスク許容度、投資に関する知識や経験、興味関心の度合い、そして投資にどれだけ時間や手間をかけられるか、といった要素を総合的に考えて判断する必要があります。
以下に、判断するためのいくつかのポイントを挙げてみます。
- あなたのポートフォリオの「コア」となる部分は、十分に安定的に運用されていますか? まずは土台がしっかりしていることが大切です。
- サテライト投資に回す予定の資金は、仮に大きな損失が出ても、あなたの生活やコア運用に影響が出ない範囲の「余裕資金」ですか?
- サテライト部分で投資しようと考えているテーマや企業について、あなたは自分で情報を集め、その将来性やリスクを十分に理解し、納得した上で投資できますか?
- サテライト部分の運用に、どれくらいの時間と手間をかけることができますか?また、それを楽しんで行えそうですか?
「ポートフォリオの数パーセントくらいなら、サテライト投資も面白いかも」と考える場合でも、その「数パーセント」が自分にとってどのような意味を持ち、どれくらいのリスクを許容できるのかを具体的にイメージすることが重要です。
結論として、サテライト投資は「絶対にやるべきだ」とか「絶対にやってはいけない」というものではありません。インデックス投資を基本としつつ、もしあなたがそれにプラスアルファの何かを求めるのであれば、そのメリットとデメリット、そしてご自身の状況をよく比較検討し、納得した上で判断することが最も大切です。
まとめ:コア・サテライト戦略で自分らしい投資を
第29回の今回は、インデックス投資を中核に据えつつ、一部で積極的なリターンや特定のテーマへの投資を行う「コア・サテライト戦略」について、その基本的な考え方やメリット・注意点を解説しました。
- コア・サテライト戦略とは:ポートフォリオを安定的な「コア」部分と、積極的な「サテライト」部分に分けて運用する戦略。
- サテライト投資のメリット:市場平均超のリターン追求、興味関心への投資、知識向上など。
- サテライト投資の注意点:高リスク傾向、目利きやタイミングの難しさ、高コスト、管理の手間増。
- 判断のポイント:コアの安定性、余裕資金の範囲、対象への理解、かけられる手間などを総合的に考慮する。
- 大切なこと:「やるべきか否か」は人それぞれ。自分自身で納得して判断する。
コア・サテライト戦略は、インデックス投資の堅実さと、アクティブな投資の楽しさや可能性を組み合わせることができる、一つの応用的なアプローチです。もし興味を持たれたら、まずは少額のサテライトから試してみるのも良いかもしれませんね。ただし、その際には十分な情報収集とリスク管理を忘れずに行ってください。
さて、サテライト投資を行う上で注意すべき点について、次回はもう少し詳しく見ていきましょう。
次回の第30回は、「サテライト投資の注意点:初心者が陥りやすい罠」と題して、サテライト投資に挑戦する際に、特に初心者が気をつけるべきポイントや、よくある失敗例について解説します。お楽しみに!