前回(第7回)は、投資の成果の大部分は「どの資産にどれくらいの割合で投資するか」という「アセットアロケーション」によって決まる、という非常に重要な考え方についてお話ししました。銘柄選びや売買タイミングよりも、このアセットアロケーションこそが投資戦略の核となる、ということでしたね。
さて、今回はその重要なアセットアロケーションを考える上で、そもそもどんな「材料」があるのか、というお話です。投資の世界でいう「材料」とは、「資産クラス(アセットクラス)」と呼ばれる、投資対象となる資産の種類のことです。
アセットアロケーションの「材料」を知ることが第一歩
料理に例えるなら、美味しい料理(=あなたに合ったポートフォリオ)を作るためには、まず使う食材(=資産クラス)にはどんなものがあって、それぞれどんな味(=リスク・リターン特性)を持っているのかを知る必要がありますよね?
今回は、アセットアロケーションを考える上で基本となる、代表的な資産クラスの種類と、それぞれの特徴について学んでいきましょう。これを理解すれば、あなただけの「最高のレシピ(=アセットアロケーション)」を作るための基礎知識が身につきますよ!
成長を担う代表選手:「株式」の特徴
まず、資産クラスの代表選手といえば、やはり「株式」でしょう。ニュースでも毎日株価の動きが報じられていますし、投資と聞いて多くの人が最初に思い浮かべるのではないでしょうか。
株式とは、簡単に言うと「株式会社の所有権の一部」のことです。株主になるということは、その会社のオーナーの一人になる、ということです。
株主になると、主に二つのリターンを期待できます。
- 値上がり益(キャピタルゲイン): 会社の業績が伸びたり、将来性が期待されたりすると、その会社の株価が上昇します。買った時よりも高い値段で売れれば、その差額が利益になります。
- 配当金(インカムゲイン): 会社が得た利益の一部を、株主に分配することがあります。これが配当金です。
そんな株式の主な特徴(メリット・デメリット)をまとめると、以下のようになります。
- メリット:
- 高いリターンが期待できる: 長期的に見れば、経済成長と共に企業価値も成長していくことが期待されるため、他の資産クラスに比べて大きなリターンを得られる可能性があります。
- インフレに比較的強い: 物価が上昇するインフレ時には、企業の売上や利益も増える傾向があるため、株価も上昇しやすいと言われています。お金の価値が目減りするインフレに対する備えとしても期待されます。
- デメリット:
- 価格変動リスクが大きい: 景気や企業業績、市場の心理などによって価格が大きく変動します。買った値段より大きく値下がりする可能性も十分にあります(元本割れリスク)。
- 企業倒産のリスク: 投資した企業が倒産してしまうと、株の価値がゼロになってしまう可能性もあります。(ただし、多くの銘柄に分散投資するインデックスファンドなら、このリスクは大幅に軽減されます。)
ポートフォリオ全体の中で、株式は主に資産を積極的に増やしていくための「攻め」の中心、成長エンジンとしての役割を担います。ハイリスク・ハイリターンな資産クラスと言えるでしょう。
安定を守る縁の下の力持ち:「債券」の特徴
株式と並んで、アセットアロケーションの基本となるもう一つの重要な資産クラスが「債券」です。
債券とは、国や地方公共団体、企業などが、投資家からお金を借りるために発行する「借用証書」のようなものです。投資家は債券を買うことで、発行体にお金を貸すことになります。
債券を保有していると、主に以下のような特徴があります。
- 利息(インカムゲイン): 保有期間中、あらかじめ決められた利率に基づいて、定期的に利息を受け取ることができます。
- 満期償還: あらかじめ決められた満期日(償還日)が来ると、基本的には貸したお金(額面金額)が全額戻ってきます。
債券の主な特徴(メリット・デメリット)は以下の通りです。
- メリット:
- 価格変動リスクが株式に比べて小さい: 一般的に、株式ほど価格が大きく変動することは少ないため、安定した運用が期待できます。
- 定期的な利息収入: 決められた利息が定期的に入ってくるため、安定したキャッシュフローが期待できます。
- 元本返済の約束: 発行体が破綻しない限り、満期には額面金額が戻ってくるため、株式に比べて元本の安全性が高いと言えます。
- デメリット:
- 期待できるリターンは株式より低い: リスクが低い分、株式ほどの高いリターンは期待しにくい傾向があります。
- 金利変動リスク: 市場の金利が上昇すると、既に発行されている債券の価格は下落する傾向があります。(逆に金利が下がると価格は上昇します。)
- 信用リスク: 債券を発行した国や企業が財政難に陥ったり、倒産したりすると、利息が支払われなくなったり、元本が戻ってこなくなったりする可能性があります(デフォルトリスク)。
ポートフォリオ全体の中で、債券は主に資産の安定性を高め、株式などの値動きが大きい資産の変動を和らげる「守り」の中心、クッション役としての役割を担います。ローリスク・ローリターン(株式と比較して)な資産クラスと言えるでしょう。
投資の選択肢を広げる「その他の資産クラス」
アセットアロケーションを考える上で基本となるのは「株式」と「債券」ですが、投資の世界には他にも様々な資産クラスが存在します。ここでは、インデックス投資でも比較的馴染みのあるものをいくつか紹介しましょう。
- REIT(リート、不動産投資信託):
- これは、多くの投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設、マンションといった複数の不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する仕組みの商品です。
- 個人ではなかなか難しい不動産への投資を、投資信託を通じて少額から手軽に行えるのがメリットです。
- リスク・リターンの特性としては、一般的に株式と債券の中間くらいに位置づけられることが多いですが、不動産市況や金利の動向に影響を受けます。
- コモディティ(商品):
- 金(ゴールド)や銀、プラチナといった貴金属、原油や天然ガスといったエネルギー、トウモロコシや小麦といった穀物など、「実物資産」のことを指します。
- 特に金(ゴールド)は、その希少性や普遍的な価値から、「安全資産」と見なされたり、インフレ(物価上昇)に対する備え(インフレヘッジ)として期待されたりすることがあります。
- 株式や債券とは異なる値動きをする傾向があるため、分散投資の効果を高める目的でポートフォリオに組み入れられることもありますが、利息や配当を生み出さないという特徴があります。
- 現金・預金:
- 最も身近な資産ですね。安全性と流動性(いつでも使えること)は最も高いです。生活防衛資金は、基本的にこの形で確保します。
- ただし、リターンはほとんど期待できず、インフレが進むと実質的な価値が目減りしてしまうというデメリットがあります。投資ポートフォリオの中でも、リスク調整や次の投資機会への備えとして、一定割合を保有することがあります。
これらの「その他の資産クラス」をポートフォリオに加えることで、株式・債券だけでは得られないさらなる分散効果を期待することもできます。ただし、それぞれに特有のリスクや値動きの特性があるので、投資する際にはその内容をよく理解することが重要です。インデックス投資においては、まずは株式と債券の組み合わせを基本とし、必要に応じてこれらの資産クラスを検討するというスタンスが良いでしょう。
各資産クラスの「個性」を理解して組み合わせる
ここまで見てきたように、
- 株式: 高い成長性が期待できるが、値動きも大きい「攻め」の資産
- 債券: 安定性は高いが、大きなリターンは期待しにくい「守り」の資産
- REIT: 不動産に投資。株式と債券の中間的な特性を持つとされる資産
- コモディティ(金など): 実物資産。異なる値動きで分散効果が期待できるが、インカムは生まない資産
- 現金・預金: 安全性と流動性は抜群だが、リターンは期待薄な資産
といったように、それぞれの資産クラスには、異なる「個性」、つまりリスクとリターンの特性や値動きの傾向があります。
アセットアロケーションとは、まさに、これらの異なる個性を持った「材料(資産クラス)」を、あなたの投資目標やリスク許容度という「レシピ」に従って、最適なバランスで「調理(組み合わせる)」することなのです。
例えば、
- 高いリターンを目指したい(リスク許容度が高い)なら、成長性の高い「株式」という材料を多めに使う。
- 安定性を重視したい(リスク許容度が低い)なら、値動きの穏やかな「債券」という材料を多めに使う。
- さらなる分散効果を狙いたいなら、「REIT」や「金」といった材料も少し加えてみる。
このように、各資産クラスの個性を理解し、それらをどう組み合わせるかによって、出来上がるポートフォリオ(料理)の味(リスクとリターンの特性)は大きく変わってきます。
まずは、今回紹介した主要な資産クラスの基本的な特徴をしっかりと押さえておきましょう。これが、あなたに合ったアセットアロケーションを考えるための重要な土台となります。
まとめ:投資の「材料」を知って、自分だけのレシピを作ろう
第8回の今回は、アセットアロケーションを考える上で基本となる、主要な「資産クラス(アセットクラス)」の種類とその特徴について解説しました。
- 資産クラスとは? → 投資対象となる資産の種類のこと。アセットアロケーションを考える上での「材料」。
- 株式: 企業の所有権の一部。ハイリスク・ハイリターンの傾向。「攻め」の資産。
- 債券: 国や企業への貸付。ローリスク・ローリターンの傾向。「守り」の資産。
- その他の資産クラス:
- REIT: 不動産投資信託。株式と債券の中間的特性。
- コモディティ(金など): 実物資産。異なる値動きで分散効果期待。インカムはなし。
- 現金・預金: 安全性・流動性は高いが、リターン期待薄。
- アセットアロケーションの本質: それぞれ異なる「個性」を持つ資産クラスを、自分の目標やリスク許容度に合わせて最適に組み合わせること。
美味しい料理を作るには、まず食材の特徴を知ることが大切なように、効果的なアセットアロケーションを行うには、まず各資産クラスの特徴を理解することが不可欠です。今回学んだ知識を元に、次回以降、具体的なアセットアロケーションの割合について考えていきましょう。
次回の第9回は、「株式と債券の割合(債券はクッションの役割を果たしてくれる):リスクとリターンのバランス」と題して、アセットアロケーションの中心となる株式と債券の割合をどのように決めていくか、その具体的な考え方や、債券がポートフォリオ全体のリスクを和らげる「クッション」としてどう機能するのかについて、詳しく解説していきます。お楽しみに!