【インデックス投資の教科書㉘】人気のオルカン、本当に自動リバランス?その仕組みを徹底解説

インデックス投資の教科書

前回は、老後資金作りの強力な味方である「iDeCo(イデコ)」について、その仕組みや3段階の税制優遇、そしてインデックス投資との賢い組み合わせ方について解説しました。

さて、iDeCoの運用商品としても、そしてNISAでの投資対象としても、近年、個人投資家から絶大な人気を集めているインデックスファンドがあります。それが、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称「オルカン」です。

このオルカン、「1本で世界中に分散投資できる」「手間いらずで初心者向け」といった魅力が語られますが、その中でも「自動でリバランスしてくれるから楽だ」という声をよく耳にします。これは本当なのでしょうか?そして、もし本当なら、それはどのような仕組みなのでしょうか?

今回は、この大人気ファンド「オルカン」を取り上げ、その特徴、特に「リバランス」の仕組みに焦点を当てて、詳しく解説していきます。

大人気ファンド「オルカン」とは?まずはおさらい

まず、「オルカン」こと「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」がどのような投資信託なのか、簡単におさらいしておきましょう。

オルカンは、その名の通り、日本を含む先進国および新興国の株式市場全体の値動きに連動することを目指すインデックスファンドです。具体的には、「FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス」という指数をベンチマーク(目標とする指標)としています。この指数は、世界約50カ国の大型株から小型株まで、約9,000銘柄以上をカバーしており、まさに「全世界の株式市場を丸ごと買う」ようなイメージの指数です。

オルカンがこれほどまでに人気を集めている理由は、主に以下の点にあります。

  • 1本で世界中に幅広く分散投資できる手軽さ
  • 業界最低水準を目指す運用コスト(信託報酬)の低さ
  • シンプルで分かりやすい投資対象

これらの特徴から、特にインデックス投資を始めたい初心者の方や、手間をかけずに国際分散投資を実践したい方にとって、非常に魅力的な選択肢となっています。

投資における「リバランス」の重要性(復習)

次に、今回のテーマの核心である「リバランス」について、その重要性を復習しておきましょう。これまでの連載(第6回や第9回など)でも触れてきましたが、リバランスとは、投資を続けていく中で、当初定めた資産配分比率(アセットアロケーション)が、市場の価格変動によって崩れてしまった場合に、それを元の目標比率に戻すための調整作業のことです。

例えば、「株式50%:債券50%」という資産配分でスタートしたのに、株価が大きく上昇した結果、「株式60%:債券40%」のように比率が変わってしまったとします。このまま放置すると、当初想定していたよりもリスクの高いポートフォリオになってしまう可能性があります。そこで、値上がりした株式の一部を売却し、値下がりした(あるいは比率が低下した)債券を買い増すなどして、元の「株式50%:債券50%」に戻すのがリバランスです。

リバランスは、ポートフォリオ全体のリスク水準を、自分のリスク許容度の範囲内にコントロールし続けるために、非常に重要なリスク管理手法です。

しかし、このリバランスを自分自身で行うのは、意外と手間がかかります。定期的にポートフォリオの状況をチェックし、必要に応じて売買を行い、その際には税金のことも考慮しなければなりません。忙しい方や投資初心者にとっては、少しハードルが高いと感じるかもしれませんね。

オルカンの「自動リバランス」ってどういうこと?その仕組みを解説

そこで出てくるのが、「オルカンは自動でリバランスしてくれる」という話です。これは、具体的にどういう意味なのでしょうか?

オルカンは、FTSEグローバル・オールキャップ・インデックスという全世界株式指数に連動することを目指して運用されています。この「指数」自体が、実は定期的に構成銘柄や国・地域別の構成比率の見直しを行っています。例えば、ある国の株式市場が大きく成長し、世界市場全体に占める時価総額の割合(ウエイト)が増えれば、指数におけるその国の比率も高まります。逆に、ある国の市場が停滞すれば、その比率は低下します。これが「指数自体のリバランス」です。

オルカンは、このベンチマークである指数にできるだけ忠実に連動するように、ファンド内の資産(つまり、世界各国の株式)の保有比率を調整していきます。指数の構成比率が変われば、オルカンもそれに追随して、ファンド内で自動的に各国の株式の売買を行い、比率を調整するのです。

つまり、オルカンに投資している場合、私たちが意識しなくても、ファンドが投資している「国・地域別の株式の構成比率」は、ベンチマークである指数の変動に合わせて、運用会社によって「自動的に調整」されていく、という意味合いになります。例えば、アメリカ株の比率が指数の中で高まれば、オルカン内のアメリカ株の比率も高まるように調整されます。

「オルカン1本ならリバランス不要」は本当に正しい?

上記の仕組みを理解すると、「オルカンに投資していれば、自分でリバランスをする必要はない」という言説は、ある特定の条件下においては正しいと言えます。

その条件とは、あなたの投資ポートフォリオが「オルカン(全世界株式)100%」というアセットアロケーションである場合です。この場合、あなたのポートフォリオは全世界の株式市場の時価総額の変動に合わせて、国・地域別の比率が自動的に最適な状態(指数の構成比率)に保たれます。ですから、あなたが個別に何かリバランス作業をする必要はありません。

しかし、注意が必要なケースもあります。

もし、あなたがオルカン以外にも、債券ファンドやREITファンド、あるいは特定の国の株式ファンド(例えば、日本株ファンドなど)を組み合わせてポートフォリオを構築している場合はどうでしょうか?

この場合、オルカン内部では国・地域別の株式比率は自動調整されますが、あなたのポートフォリオ全体で見たときの「オルカン(株式)と債券の比率」や、「オルカン(全世界株式)と日本株ファンドの比率」といった、異なる資産クラス間や、意図的に設定した地域別比率の維持は、自動では行われません。これらのリバランスは、別途あなた自身が行う必要があります。

あくまで「オルカンというファンドの内部における、国・地域別株式構成比率の調整」が自動なのであって、あなたが設定したより大きな視点でのアセットアロケーションの維持は、あなた自身の役割となるのです。

オルカンの利便性と、それでも投資家が考えるべきこと

オルカンが、1本で非常に広範な国際分散投資を実現し、かつ国・地域別の株式構成比率の調整も自動で行ってくれる、投資初心者にとって非常に手間いらずで便利な商品であることは間違いありません。この手軽さが、人気の大きな理由の一つでしょう。

しかし、この「自動」という言葉の響きに安心して、思考停止してしまうのは避けたいところです。投資家自身が理解しておくべきこと、常に意識しておくべきこともあります。

  • 自分が投資しているオルカンが、具体的にどのような指数に連動を目指しているのか(FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス)。
  • その指数が、どのような基準で国・地域別の構成比率を決定しているのか(基本的には、その時々の世界各国の株式市場の時価総額の大きさに応じた比率)。つまり、市場全体の大きな流れに運用を委ねている、ということです。
  • 自分自身が設定した全体のアセットアロケーション(例えば、株式と債券の比率など)の中で、オルカン(全世界株式)がどのような役割を担っており、その比率は自分のリスク許容度や投資目標に合致しているか。

「自動」という仕組みのメリットを最大限に享受しつつも、その中身を正しく理解し、自分自身の投資戦略全体の中で賢く活用していく。このバランス感覚が大切です。

まとめ:オルカンの「自動調整」を理解し、賢く活用しよう

第28回の今回は、大人気のインデックスファンド「オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー))」について、特にその「リバランス」の仕組みに焦点を当てて解説しました。

  • オルカンは全世界株式指数に連動:指数自体が国・地域別の構成比率を定期的に見直す。
  • オルカン内部の「自動調整」:ファンドは指数の構成比率に追随するため、国・地域別の株式比率は自動的に調整される。
  • 「オルカン1本ならリバランス不要」は条件付き:ポートフォリオがオルカン100%なら、国・地域別のリバランスは不要。ただし、他の資産クラスと組み合わせている場合は、資産クラス間のリバランスは別途必要。
  • 重要なこと:「自動」の仕組みを理解し、自分のアセットアロケーション全体の中でオルカンをどう位置づけるかを考える。

オルカンは、その手軽さと低コストから、多くのインデックス投資家にとって魅力的な選択肢です。その「自動リバランス(調整)」の仕組みを正しく理解し、ご自身の投資戦略に賢く組み込んでいきましょう。

さて、オルカン1本で投資をするという戦略もあれば、複数のファンドを組み合わせて自分なりのポートフォリオを作るという考え方もあります。次回は、少し応用編として「コア・サテライト戦略」について触れてみたいと思います。

次回の第29回は、「コア・サテライト戦略に基づいて、数パーセントはサテライト投資するのはあり?なし?」と題して、ポートフォリオの中核と周辺部分を分けて考える投資戦略について、その考え方や注意点を解説します。お楽しみに!

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