イントロダクション:今、金融業界で何が起きているのか?
本日は2026年2月のステーブルコインに関する日経記事を紹介します。
2026年2月2日、アメリカのワシントンで興味深い会議が開かれました。一方にはコインベースやリップルといった暗号資産(仮想通貨)の大手企業、もう一方には米銀行協会などの伝統的な銀行業界。この2つの勢力が激しく対立しています。議題は「ステーブルコインの利息問題」です。
「ステーブルコイン?聞いたことはあるけど、よくわからない…」という方も多いでしょう。簡単に言えば、ステーブルコインとは米ドルや日本円などの法定通貨に価値を連動させた暗号資産で、ビットコインのように価格が激しく変動しない安定性が特徴です。
しかし今、このステーブルコインをめぐって、銀行業界と暗号資産業界が真っ向から対立しています。何が問題なのでしょうか?この記事では、投資初心者の方にもわかりやすく、ステーブルコインの「利息問題」と、それが私たちの金融生活にどんな影響を与えるのかを徹底解説します。
ステーブルコインの「利息」をめぐる攻防戦
発行者による利息付与は「禁止」されている
まず知っておきたいのは、主要な国や地域では、ステーブルコインの発行者が保有者に直接利息を支払うことを禁止しているという事実です。
アメリカでは2025年に成立したGENIUS法(ジーニアス法)で、ステーブルコイン発行者による利子支払いが禁じられました。EU(欧州連合)でもステーブルコインの発行体が利息をつけることを禁止しています。日本でも同様です。
なぜ利息が禁止されているのか?
これには深い理由があります。もしステーブルコインに高い利息がつくと、人々は銀行預金からステーブルコインへお金を移してしまうかもしれません。すると銀行の預金が減り、企業への貸し出しなど、経済を支える銀行の機能が弱まってしまう恐れがあるのです。
しかし「抜け穴」が存在する
ところが、ここに大きな問題があります。発行者が利息を払うことは禁止されていても、暗号資産取引所や関連企業(交換業者)が顧客に報酬を提供することには明確な規制がないという「抜け穴」が存在するのです。
具体的にはどういうことでしょうか?
アメリカの大手暗号資産取引所コインベースは、サークル社が発行するドル建てステーブルコイン「USDC」を保有する顧客に、2026年1月時点で年3.5%の報酬を支払っています。これは日本の銀行預金金利(普通預金で0.001~0.02%程度)と比べると、圧倒的に高い利回りです。
さらに驚くべきことに、DeFi(分散型金融:ブロックチェーン上で展開される金融サービス)にUSDCを預ければ、年2~8%の利回りがつく場合もあります。
銀行業界が恐れる「預金流出」
この状況に、銀行業界は強い危機感を抱いています。米国の銀行団体は議会への書簡で、この抜け穴を放置すれば従来の銀行システムから6.6兆ドルの預金流出を引き起こす可能性があると警告しました。
想像してみてください。あなたが100万円を持っているとします。銀行に預けても利息はほぼゼロ。一方、ステーブルコインなら年3.5%、つまり年間3万5000円の報酬がもらえるとしたら、どちらを選びますか?多くの人がステーブルコインを選ぶでしょう。
しかし銀行から預金が大量に流出すると、銀行は企業への貸し出しができなくなり、経済全体に悪影響を及ぼす可能性があります。これが銀行業界が「抜け穴を閉じろ!」と主張する理由なのです。
専門用語解説:
- USDC(USDコイン): サークル社とコインベースが共同発行する米ドル連動型ステーブルコイン。時価総額でテザーに次ぐ第2位
- DeFi(ディーファイ): Decentralized Finance(分散型金融)の略。銀行などの仲介者を介さず、ブロックチェーン上で直接金融サービスを利用できる仕組み
- アービトラージ: 価格差を利用して利益を得る取引手法。ステーブルコインでは、これによって価格が安定化する
ステーブルコインが金融システムに与える「見えざる影響」
金融の「信用創造」機能が弱まる可能性
ステーブルコインの普及は、私たちが当たり前だと思っている金融システムを根本から変える可能性があります。
ピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローは、ステーブルコインの市場拡大に伴い金への需要が増えれば「預金が流出して貸し出しなどの信用創造にまわる資金が減る可能性がある」と指摘しています。
信用創造とは? 銀行が預金を元手に企業などへ貸し出しを行うことで、経済全体のお金の量を増やす仕組みです。例えば、あなたが銀行に100万円預けると、銀行はその一部を企業に貸し出し、企業はそれで設備投資を行い、経済が成長します。しかしステーブルコインに資金が流れると、この循環が弱まってしまうのです。
実際、国際通貨基金(IMF)は2025年12月の報告書で「銀行など既存の金融機関を介さない資金移動が増えれば、従来の金融仲介機能が弱まり、マクロ金融の安定に影響を与える可能性がある」と分析しています。
中国の対抗策:デジタル人民元に利息を付与
こうした動きに対し、中国政府は独自の対抗策を打ち出しました。2026年1月1日から、中国の大手国有銀行10行が、デジタル人民元(中央銀行デジタル通貨:CBDC)のウォレット保有者に普通預金金利に準じた0.05%の利息を付与し始めたのです。
これは何を意味するのでしょうか?中国は民間企業が発行するステーブルコインではなく、政府がデジタルマネーの流れを管理しようとしているのです。
新興国で進む「通貨代替」のリスク
さらに深刻な問題が、新興国や途上国で起きています。
2025年11月にアルゼンチンを訪れた20代会社員の男性は「ステーブルコインが完全に生活圏に組み込まれていた」と振り返ります。一時200%超のインフレ率を記録した同国では、自国通貨ペソでは生活が成り立たず、ドル建てのステーブルコインが代替通貨になりつつあるといいます。
これは「通貨代替(ドル化)」と呼ばれる現象です。自国通貨への信頼が失われ、外国通貨(多くは米ドル)が日常的に使われるようになることです。
野村総合研究所の片山謙シニアチーフリサーチャーは、通貨主権にかかる影響について「金融政策の効果など、通貨主権にかかる影響を免れ得ない」と警告しています。
つまり、その国の中央銀行が金利を上げ下げして経済をコントロールする力が弱まってしまうのです。これは国家の経済運営にとって非常に深刻な問題です。
専門用語解説:
- 信用創造: 銀行が預金を元手に貸し出しを行うことで、経済全体の通貨供給量を増やす仕組み
- CBDC(中央銀行デジタル通貨): 中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨。民間のステーブルコインとは異なり、国家が発行・管理する
- 通貨代替(ドル化): 自国通貨の信頼性低下により、外国通貨が日常的に使用されるようになる現象
- 金融政策: 中央銀行が金利や通貨供給量を調整して、経済の安定と成長を図る政策
日本ではどうなっている?規制と今後の展開
日本独自の規制:出資法による規制
日本では、ステーブルコインの規制はどうなっているのでしょうか?
日本でも発行者による利息付与は認められていません。金融庁幹部によると「無登録で不特定多数から預金を受け入れることを禁止する出資法が適用になる」とのことです。つまり、ステーブルコインに利息をつけることは、実質的に預金業務を行うことになり、銀行免許なしには違法となる可能性があるのです。
日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」の登場
大きな動きがありました。2025年10月27日、金融庁の承認を受けて、日本円に連動するステーブルコイン「JPYC」が正式に発行を開始しました。
JPYCは資金決済法に基づき資金移動業者として登録された事業者が発行主体で、「電子決済手段」として日本円と1:1で交換可能な仕組みを備えており、価値維持のための裏付け資産には預貯金や日本国債が用いられています。
つまり、1JPYCは常に1円の価値を持つように設計されているということです。これは従来の「前払式支払手段」とは異なる新しい枠組みで、金銭による償還性が認められた、国内初の円建てステーブルコインです。
3メガバンクも参入を検討
日本では3メガバンクなどが共同発行に動いているほか、預金を分散型台帳上に移行させたデジタル預金も広がりつつあります。
これは何を意味するのでしょうか?銀行自身がステーブルコイン市場に参入し、主導権を握ろうとしているのです。暗号資産企業だけに市場を譲らず、銀行も新しいデジタル決済の世界で生き残りをかけているのです。
日本と海外の規制の違い
注意すべき点があります。海外で発行されたステーブルコインを日本国内の取引所が取り扱う場合、金額の上限規制(例えば1回あたり100万円相当額)が設けられているなど、厳しいルールがあります。
これは利用者保護のための規制ですが、同時に日本でのステーブルコイン利用が制限される要因にもなっています。
投資家が知っておくべきポイント
日本でステーブルコインを利用する場合、以下の点に注意が必要です:
- 金融庁の認可を受けた取引所を利用する: 現在、日本国内でステーブルコインを取り扱っている主要取引所は限られています。必ず金融庁に登録された業者を選びましょう。
- 利回りの仕組みを理解する: 日本では発行者による利息付与は禁止されていますが、DeFiなど海外のプラットフォームを通じた利回り獲得は可能な場合があります。ただし、これにはリスクも伴います。
- 規制の変化に注意: ステーブルコインは新しい金融の仕組みであるため、各国で法律やルールがまだ完全に整備されているわけではありません。今後規制が変わる可能性があることを常に意識しておきましょう。
専門用語解説:
- 資金決済法: 前払式支払手段(プリペイドカードなど)や資金移動業(送金サービス)を規制する日本の法律。2023年改正で電子決済手段(ステーブルコイン)の規定が追加された
- 出資法: 正式には「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」。無許可での預金受け入れなどを規制する
- 分散型台帳: ブロックチェーン技術を使い、取引記録を複数のコンピューターで分散管理する仕組み
投資初心者が知っておくべきステーブルコインのリスクと可能性
ステーブルコインのメリット:なぜ注目されているのか?
まずは、なぜステーブルコインがこれほど注目されているのか、そのメリットを理解しましょう。
1. 送金の速さとコストの低さ 従来の国際送金は数日かかり、手数料も高額でした。しかしステーブルコインなら、ブロックチェーン技術を活用して、24時間365日いつでも、数分~数時間で、低コストで送金できます。
2. 価格の安定性 ビットコインやイーサリアムは価格が大きく変動しますが、ステーブルコインは法定通貨などに連動することで、価値を安定に保ちやすいという特徴があります。
3. 利回りの可能性 本記事で解説してきたように、DeFiプラットフォームなどを通じて、銀行預金より高い利回りを得られる可能性があります(ただしリスクも伴います)。
注意すべきリスク:「安定」の裏に潜む危険
しかし、ステーブルコインは決して「完全に安全」というわけではありません。投資初心者が特に注意すべきリスクは以下の通りです。
1. 規制変更のリスク 各国で法律やルールがまだ完全に整備されているわけではなく、預貯金に適用されるような基本的な保護制度も存在しません。突然規制が変わり、利用が制限される可能性があります。
2. 発行体の信頼性リスク ステーブルコインの価値は、発行者が約束通りに法定通貨などの裏付け資産を保有しているかどうかにかかっています。2022年には「テラUSD(UST)」というステーブルコインが暴落し、莫大な時価総額が市場から消し飛び、他の仮想通貨の値動きにも悪影響を及ぼす事態となりました。
3. 技術的リスク ブロックチェーン技術自体にバグや脆弱性がある可能性、ハッキングのリスクなども存在します。
4. 利回り追求のリスク 専門家は「利回りのないステーブルコインは、時間とともに価値が目減りする資産に過ぎない」と指摘していますが、高利回りを追求してDeFiプラットフォームを利用すると、スマートコントラクトのバグやハッキングなど、予期せぬリスクに晒される可能性があります。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)との共存:これからの金融の姿
今後はステーブルコイン、トークン化預金、そしてCBDCが共存する世界になることが予想されます。
つまり、私たちの財布の中には:
- 現金(紙幣・硬貨)
- 銀行預金
- ステーブルコイン
- CBDC(デジタル円など)
- トークン化預金(ブロックチェーン上の預金)
といった様々な形態のお金が共存することになるかもしれません。
Visaはステーブルコインを「信頼できるグローバル決済インフラ」へと変貌していくと見ており、2030年までに最大4兆ドル規模に達する可能性があるとの予測もあります。
投資判断のポイント:慎重かつ賢明に
投資初心者がステーブルコインに関わる際の判断ポイントをまとめます:
1. 少額から始める いきなり大金を投資するのではなく、失っても生活に支障がない少額から始めましょう。
2. 信頼できる発行体・取引所を選ぶ USDT(テザー)は時価総額28兆円超と最大規模を誇り、USDCはサークル社とコインベースが共同発行し、米国の規制強化を背景に信頼性を高めています。日本では金融庁認可の取引所を利用しましょう。
3. 分散投資を心がける すべての資産をステーブルコインに集中させるのではなく、銀行預金や株式、債券など、複数の資産に分散しましょう。
4. 規制動向を常にチェックする 金融庁のウェブサイトや信頼できるニュースソースで、最新の規制情報をチェックする習慣をつけましょう。
5. 高利回りには慎重に 「年利10%保証!」などの甘い言葉には要注意。高いリターンには高いリスクが伴うことを忘れずに。
まとめ:ステーブルコインがもたらす金融革命の行方
記事全体の要約
この記事では、2026年2月に表面化したステーブルコインの「利息問題」について、投資初心者の方にもわかりやすく解説してきました。
重要なポイントを振り返りましょう:
- 銀行vs暗号資産業界の対立: 発行者による利息付与は禁止されているが、交換業者による報酬提供という「抜け穴」が存在し、銀行業界は預金流出を恐れている
- 金融システムへの影響: ステーブルコインの普及は信用創造機能の弱体化、新興国での通貨代替、金融政策の効果減少など、深刻な影響をもたらす可能性がある
- 日本の動向: JPYCが正式発行され、3メガバンクも参入を検討するなど、日本でもステーブルコイン市場が動き始めている
- メリットとリスク: 送金の速さ・安さ、利回りの可能性などのメリットがある一方、規制変更、発行体の信頼性、技術的リスクなど、注意すべき点も多い
投資初心者へのアドバイス
ステーブルコインは確かに革新的な技術であり、将来的には私たちの金融生活を大きく変える可能性があります。しかし、まだ発展途上の技術であり、規制も整備途中です。
慎重さと好奇心のバランスが大切です。
- 完全に避ける必要はありませんが、盲目的に飛びつくのも危険です
- まずは基本を学び、少額で実際に触れてみることから始めましょう
- 常に最新情報をチェックし、自分で判断する力をつけましょう
今後の動向を見守るポイント
これから注目すべき動きは:
- GENIUS法の施行状況: 2026年以降、アメリカでの規制がどう運用されるか
- 交換業者への規制: 利息の「抜け穴」が閉じられるのか、それとも新たなルールが作られるのか
- 日本の規制整備: 金融庁がどのような方針を打ち出すか
- CBDCの発展: デジタル円の議論がどう進むか
- 大手銀行の参入: メガバンクが実際にステーブルコインを発行するのか
世界の金融当局は新たな技術が相互にどんな作用を起こすのか難しい連立方程式を解くことを求められそうです。
私たち一般の投資家も、この歴史的な金融革命の目撃者であり、参加者です。正しい知識を身につけ、賢明な判断をしていきましょう。
