「将来が不安だから、とにかくNISAにお金を入れておこう」
もしあなたがそう考えて毎日節約に励んでいるなら、今日の話は少しドキッとしますかもしれません。
一生懸命働いて貯めたそのお金、いつ使う予定ですか?
多くの日本人は「老後が不安」という理由で、現役時代に楽しみを我慢してお金を貯め込みます。しかし、ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんがPRESIDENT Onlineで解説した記事によると、実は「お金を使わずに死んでしまう」ことが、現代人の新たなリスクになっているのです。

2023年度に相続する人がおらず国庫に入った遺産は1015億円にも上ります。そう考えると、「老後資金はとにかく減らさないように」とばかり考えるよりも、「元気なうちに、計画的に使い切る」ことを前提にしたライフプランを立てるのも一案です。 (出典:PRESIDENT Online 井戸美枝氏の記事より)
なんと、年間1000億円以上もの大金が、誰にも使われないまま国へ戻っているのです。これは「備えあれば憂いなし」を超えて、「備えすぎて人生を楽しめなかった」という悲しい現実かもしれません。
今回は、このニュースをベースに、投資初心者が陥りがちな「貯め込みすぎの罠」から抜け出し、人生の満足度を最大化するための「お金の正しい使い方」について解説していきます。
ルール① お金は「使い切る」ためにある(Die With Zeroの思考)
みなさんは『DIE WITH ZERO(ゼロで死ぬ)』という言葉を聞いたことがありますか? これは全米でベストセラーになった本のタイトルでもあり、近年日本でも注目されている考え方です。
今回のニュースで井戸FPが提唱しているのも、まさにこの哲学に近いものです。
投資を始めたばかりの人は、どうしても「資産を増やすこと」自体が目的になりがちです。通帳の残高が増えていくのを見るのは安心感がありますし、ゲームのようで楽しいですよね。
しかし、冷静に考えてみてください。 お金は、それ自体には価値がありません。 美味しい食事を食べたり、旅行で感動したり、大切な人にプレゼントを贈ったり……何かの「経験」や「モノ」と交換して初めて、あなたの人生を豊かにする価値が生まれます。
もし、あなたが死ぬ瞬間に銀行口座に1億円残っていたとしたら、それは「1億円分の経験や喜びを自分に与えるチャンスを逃した」ということにもなるのです。もちろん、家族に遺したい分は別ですが、自分のために使えるはずだったエネルギーを、単なる数字として残して旅立つのは、あまりにももったいないと思いませんか?
記事の中で井戸さんはこう述べています。
資産を残すことよりも、「使ってよかった」と思える体験を重ねることで、人生の充実度は大きく高まるかもしれません。
「老後にお金が尽きるのが怖い」という気持ちは痛いほどわかります。ですが、「人生の思い出が何もないまま終わる」ことの恐怖についても、同じくらい真剣に考える必要があるのです。
ルール② 50歳〜75歳は人生の「黄金期間」
では、いつお金を使えばいいのでしょうか? 「リタイアしてからゆっくり海外旅行でも……」と考えているなら、少し認識を改める必要があるかもしれません。
ここでは、非常に重要なデータをご紹介します。それは「健康寿命」です。
- 平均寿命: 男性 約81歳 / 女性 約87歳
- 健康寿命: 男性 約72歳 / 女性 約75歳 (※厚生労働省などのデータに基づく一般的な目安)
「健康寿命」とは、介護などを必要とせず、元気に自立して生活できる期間のことです。 つまり、平均寿命まで生きるとしても、本当に自由に体を動かして、旅行や趣味を全力で楽しめる期間は、多くの人が思っているより10年も短いのです。
井戸FPは記事の中で、50歳から75歳までの期間を人生の第3クォーター「黄金の期間」と呼んでいます。
仕事も落ち着き、子育てもひと段落する50代。ここから健康寿命が尽きるまでの約20〜25年間こそが、人生でお金を最も有効に使える「ラストチャンス」と言っても過言ではありません。
75歳以降になると、体力や判断力の低下により高額な買い物や旅行の機会が減り、医療や介護以外の支出はかなり限定されていきます。
75歳を過ぎてから「世界一周に行こう!」と思っても、体力的に難しいかもしれません。お金があっても、それを使うための「健康」がなければ、満足のいく経験は買えないのです。
だからこそ、「定年してから」ではなく、「50代のうちから」計画的にお金を使い始めることが、人生の幸福度を高めるカギになります。
ルール③ お金・時間・健康のバランス戦略
ここで大切になるのが、「お金」「時間」「健康」のバランスという視点です。
人生のステージによって、この3つのパラメータは大きく変化します。
- 若い頃: 「健康」と「時間」はあるが、「お金」がない。
- 現役世代: 「健康」と「お金」はある程度あるが、「時間」がない。
- 老後: 「時間」はあるが、「健康」が低下し、「お金」の不安がある。
投資初心者の多くは、将来の「お金」の不安ばかりに目を向けがちですが、実はもっとも取り返しがつかない資源は「時間」と「健康」です。
例えば、20代の頃に行くバックパッカー旅行のような「体力を使う経験」は、60代では買えません。逆に、60代には「時間を贅沢に使ったクルーズ旅行」のような楽しみ方があります。
井戸FPのアドバイスにあるように、「若い今しかできないこと」や「元気なうちしかできないこと」を後回しにしないことが重要です。
貯金とは、今の楽しみを我慢して、未来の自分にお金を送ることです。 しかし、未来の自分が、そのお金を使って楽しめる健康状態にあるとは限りません。
「お金」・「時間」・「健康」。
この3つをうまく交換しながら調整することこそが、真の資産運用です。ただお金を増やすだけでなく、「今ある健康とお金を使って、最高の思い出(経験)を買う」という投資も、同じくらい大切にしてください。
実践編:初心者のための「使いながら備える」フローとストック管理
「理屈はわかるけど、やっぱり使いすぎて老後破綻するのは怖い!」 そう思うのは当然です。
そこで井戸FPが提案するのが、「フロー(お金の流れ)」と「ストック(資産残高)」を分けて考えるというテクニックです。ここが具体的なアクションプランになります。
1. ストック(貯蓄)は「守りの資金」
医療費や介護費など、どうしても必要な将来のコストは「ストック」として確保します。井戸さんの試算では、医療・介護費は1人あたり約1000万円が目安とのこと。これに加え、万が一の生活防衛資金を確保しておけば、最低限の安心は担保されます。
2. フロー(収入)は「楽しみの資金」
年金や、50代まで働いて得られる収入(フロー)は、日々の生活費と「やりたいこと」に使います。
多くの人は、このフローからもさらに貯金しようとしますが、ストックの目標(例:介護費用の確保)が見えているなら、フローで入ってきたお金は、その年のうちに「経験」に変えてしまうのが正解です。
3. iDeCoやNISAを「安心のブレーキ」にする
ここで役立つのが、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAです。 特にiDeCoは「60歳まで引き出せない」という強力なロック機能があります。これを逆手に取れば、「iDeCoにあるお金は絶対に残るから、手元の預金は趣味に使ってしまおう」と割り切ることができます。
老後用として貯めたお金を50代ごろから使い始めることに不安を覚える人は多いですが、その不安を軽くするために有効なのが、お金を使いつつも「老後にしか使えない資金」を貯めることです。
50代になったら、NISAの取り崩し計画(出口戦略)を立て始めましょう。
「資産額を最大化して死ぬ」のではなく、「資産寿命を自分の寿命に合わせる」ように、少しずつ取り崩して使っていく。これが、投資の最終ゴールです。
まとめ:今日からできること
本記事の3つのポイント
- お金は「経験」に変えてこそ価値がある。ただ貯め込んで死を迎えるのはもったいない。
- 健康寿命(約72〜75歳)を意識し、50代〜75歳の「黄金期間」に積極的にお金を使おう。
- 「iDeCo」などを盾にして老後資金を確保しつつ、それ以外の余裕資金は「思い出作り」に投資する。
Next Step: あなただけの「人生年表」を作ろう
この記事を読み終えたら、ぜひカレンダーの裏紙でもいいので、「人生年表」を書いてみてください。
「60歳:退職記念旅行」「65歳:家のリフォーム」「70歳:車を手放す」……
このように、「いつ」「何をして」「いくら使うか」を書き出すだけで、漠然とした老後不安が消え、「今、いくら使っても大丈夫か」が見えてきます。
お金は、あなたの人生を幸せにするための道具です。 道具に使われるのではなく、道具を使いこなして、最高の人生をデザインしてくださいね。

