前回は、新NISAとインデックス投資を活用して、FIRE(経済的自立と早期リタイア)を目指すための具体的なロードマップについて解説しました。新NISAという強力な非課税制度が、私たちの資産形成の大きな味方になるのでしたね。
しかし、投資を続けていく中で、生涯非課税枠である1,800万円を使い切った後や、NISAとは別の口座で投資を行う場合も出てくるかもしれません。その時に、必ず向き合うことになるのが「税金」の問題です。
「投資で得た利益には、原則として税金がかかる」。これは、投資家として知っておくべき大原則です。 今回は、多くの人が利用する「特定口座」での税金の仕組みと、会社員の方でも関係してくる可能性がある「確定申告」の基本について、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。税金の仕組みを正しく理解し、適切に対処することは、手元に最終的に残るリターンを最大化するために非常に重要です。
「特定口座(源泉徴収あり)」なら基本お任せ!でも仕組みは知っておこう
証券会社の口座を開設する際、「一般口座」「特定口座(源泉徴収なし)」「特定口座(源泉徴収あり)」といった選択肢が出てきます。多くの方が、特に初心者の方は、「特定口座(源泉徴収あり)」を選んでいるのではないでしょうか。これは、非常に便利な仕組みだからです。
- 特定口座とは? 投資家自身が、一年間の取引でどれくらい利益や損失が出たのかを計算するのは非常に煩雑です。この手間を省くため、証券会社が代行して年間の損益を計算し、「年間取引報告書」という書類を作成してくれる口座のことです。
- 「源泉徴収あり」とは? これが最も便利なポイントです。投資で利益が出るたびに(例えば、インデックスファンドを売却して利益が確定した時や、分配金を受け取った時など)、証券会社が自動的に税金を計算して天引き(源泉徴収)し、私たちの代わりに国に納税まで済ませてくれるのです。
税率は、所得税15%、復興特別所得税0.315%(所得税額の2.1%)、住民税5%を合わせた、合計20.315%です。
この「特定口座(源泉徴収あり)」を選んでおけば、原則として、投資家自身が税金の計算や納税のために確定申告をする必要がありません。普段、お勤めの会社で年末調整が済んでおり、他に確定申告をする理由がない多くの会社員の方にとっては、手間がかからず、非常にありがたい制度と言えるでしょう。
それでも「確定申告」した方がお得になるケースがある!
「じゃあ、特定口座(源泉徴収あり)にしておけば、税金のことは何にも考えなくていいんだね!」 基本的にはその通りですが、実は、本来は確定申告が不要な人でも、あえて自分から確定申告をすることで、すでに天引きされた税金が戻ってくる(還付される)可能性がある、お得なケースが存在します。
ここでは、代表的な2つのケースをご紹介します。
ケース①:複数の証券会社で取引し、片方で利益、もう片方で損失が出た場合(損益通算) 例えば、A証券では年間でプラス50万円の利益が出て、税金が約10万円天引きされたとします。一方で、B証券では年間でマイナス30万円の損失が出てしまったとします。何もしなければ、A証券で天引きされた約10万円の税金を払ったままです。
しかし、確定申告で「損益通算」という手続きを行えば、年間の利益は全体でプラス20万円(50万円の利益 − 30万円の損失)として計算し直されます。20万円の利益に対する本来の税金は約4万円なので、払いすぎていた差額の約6万円が、あなたの手元に戻ってくるのです。
ケース②:その年に出た損失を、翌年以降3年間にわたって繰り越したい場合(繰越控除) 例えば、ある年に、相場が大きく下落し、全体でマイナス50万円の損失が出てしまったとします。利益が出ていないので税金は引かれませんが、この年に確定申告で「損失の繰越控除」の手続きをしておくことで、この50万円の損失を、翌年以降最大3年間にわたって持ち越すことができます。
もし、翌年にプラス80万円の利益が出た場合、去年の損失50万円と相殺して、その年の利益を30万円(80万円 − 50万円)として申告できます。その結果、30万円の利益に対する税金(約6万円)で済むことになり、何もしなかった場合(80万円の利益に対して約16万円の税金)と比べて、税金の負担を大幅に軽減できるのです。
このように、「損益通算」と「繰越控除」は、確定申告を任意で行う際の、非常に大きなメリットとなります。
確定申告の基本手順と、知っておきたい注意点
「確定申告って、なんだか難しそう…」と感じるかもしれませんが、今では手続きもかなり簡単になっています。
- 準備するもの まず、各証券会社から翌年の1月頃に交付される「特定口座年間取引報告書」を手元に準備します。これに、一年間の損益や納税額が全て記載されています。その他、マイナンバーカード(または通知カード+本人確認書類)や、会社員の場合は勤務先から受け取る「給与所得の源泉徴収票」などが必要です。
- 申告方法 国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の案内に従って数字を入力していくだけで、比較的簡単に申告書を作成することができます。特に、マイナンバーカードを使ったe-Tax(電子申告)は、印刷や郵送の手間もなく、全て自宅のパソコンやスマートフォンから完結するため非常に便利です。
- 知っておきたい注意点 確定申告を行うと、投資で得た利益が、税法上の「合計所得金額」に算入されます。これにより、配偶者控除や扶養控除の適用条件に影響が出たり、国民健康保険に加入している方の場合は保険料が上がったりする可能性があります。特に大きな利益が出た年に確定申告をする際は、これらの影響についても事前に確認しておくことが大切です。
NISA口座と特定口座、どう使い分けるのが賢い?
これまでの話を元に、非課税のNISA口座と、課税される特定口座の賢い使い分けについて、基本的な考え方を整理しておきましょう。
- 最優先は「NISA口座」 まずは、利益がまるまる非課税になるという、絶大なメリットを持つ「NISA口座」の非課税枠(生涯で1,800万円)を、最優先で使い切ることを目指しましょう。
- NISA枠を使い切った後に「特定口座」 それでもまだ投資に回せる余力がある場合に、「特定口座(源泉徴収あり)」を活用して、追加の投資を行っていくのが基本戦略となります。
- リバランス時の考え方 ポートフォリオの比率を調整するために利益が出ている資産を売る必要がある場合は、税金のかからない「NISA口座」内での売却を優先的に検討しましょう。特定口座で利益が出ている資産を売却すると税金が発生してしまうため、慎重に行うか、売却を伴わない「ノーセル・リバランス(積立額の調整によるリバランス)」(第43回参照)を活用するのが賢明です。
まとめ:税金は「知る」ことで、コントロールできる味方になる
今回は、インデックス投資における税金の基本と、多くの方が利用する「特定口座」、そして「確定申告」について解説しました。
- 「特定口座(源泉徴収あり)」は、原則確定申告不要で非常に便利な仕組み。
- しかし、複数の証券会社で損益が出た場合(損益通算)や、損失を翌年以降に持ち越したい場合(繰越控除)は、あえて確定申告をすることで、税金の負担を大きく軽減できる可能性がある。
- NISAの非課税メリットを最大限に活用し、その上で特定口座をどう使うか、という視点が重要。
投資家にとって、税金の知識は、ただ支払うだけの義務ではなく、自分の大切な資産を守り、手元に最終的に残るリターンを最大化するための、非常に重要な「武器」となります。難しいイメージのある確定申告も、今ではe-Taxなどを使えば以前よりずっと手軽になっています。これを機に、ぜひ税金への理解を深め、より賢い投資家を目指していきましょう。
さて、いよいよ連載も残りわずかとなってきました。次回は、これまでの総まとめとして、インデックス投資に関する様々な疑問にQ&A形式で一気にお答えしていきたいと思います。
次回の第49回は、「【総まとめQ&A】インデックス投資の”よくある質問50″!初心者の疑問を徹底解消」と題して、多くの方が抱える素朴な疑問から、少し突っ込んだ質問まで、幅広くお答えしていきます。お楽しみに!