前回は、私たちの生活やお金の価値に大きな影響を与える「インフレ」と「デフレ」について、その基本的な意味や経済への影響、そしてインデックス投資との関係性を解説しました。物価の変動を理解することが、賢い資産防衛につながるのでしたね。
さて、物価と並んで、経済の動向を測る上で非常に重要な指標となるのが「金利」です。最近、「日銀がマイナス金利を解除した」「世界の主要国で金利が上昇傾向にある」といったニュースを耳にする機会も増えたのではないでしょうか。
今回は、この「金利」というものについて、そもそも何なのか、どうやって決まるのか、そして金利が変動する(特に「上昇する」)と、私たちの経済活動や、この連載で学んできたインデックス投資(株式や債券への投資)にどのような影響を及ぼすのかを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
「金利」ってそもそも何?私たちの生活との深い関わり
「金利」と聞くと、何を思い浮かべますか? 多くの方が、銀行にお金を預けた時にもらえる「預金金利」や、家を買うために銀行からお金を借りる際の「住宅ローン金利」などをイメージするかもしれませんね。
金利とは、簡単に言えば、「お金の貸し借りをする際のレンタル料(利息)」のことであり、そのレンタル料が元本(借りたお金や預けたお金)に対してどれくらいの割合になるかを示したものが「利率」です。
この金利は、私たち個人の生活だけでなく、企業活動や国全体の経済政策においても、非常に重要な役割を果たしています。例えば、日本銀行(日銀)のような中央銀行は、この金利を操作すること(金融政策)で、景気を良くしたり、過度なインフレを抑えたりしようとします。
つまり、金利の動きを理解することは、経済全体の動きを理解し、ひいては賢い資産形成を行っていく上で、避けては通れない道なのです。
金利はどうやって決まるの?主な変動要因を理解しよう
では、この金利は、一体どのようにして決まるのでしょうか?金利が上がったり下がったりする背景には、いくつかの主な要因があります。
- 金融政策(中央銀行の役割) 最も大きな影響力を持つのが、日本銀行(日銀)のような中央銀行が行う金融政策です。中央銀行は、物価の安定と経済の健全な発展を目指し、政策金利(銀行などの金融機関に貸し出す際の金利の目安)を引き上げたり(利上げ)、引き下げたり(利下げ)します。この政策金利の変更は、銀行の貸出金利や預金金利など、市場全体の様々な金利に波及していきます。
- 景気の動向 一般的に、景気が良い時には、企業は新たな設備投資のためにお金を借りたり、個人は住宅や自動車などの購入のためにお金を借りたりと、資金の需要が高まります。お金を借りたい人が増えれば、金利は上昇しやすくなります。逆に、景気が悪い時には、資金需要が低下するため、金利は下落しやすくなります。
- 物価の変動(インフレ・デフレ) インフレ(物価上昇)期待が高まると、お金の価値が将来目減りすることを見越して、貸し手はより高い金利を求めるようになり、名目金利(表面上の金利)は上昇する傾向があります。デフレ(物価下落)期待の場合は、その逆の動きが見られます。
- 海外の金利動向や為替レート 現代の経済はグローバルにつながっているため、アメリカやヨーロッパといった主要国の金利動向や、為替レートの変動なども、国内の金利に影響を与えることがあります。
これらの要因が、互いに複雑に絡み合いながら、市場全体の金利水準が形成されていくのです。
金利が上昇すると、経済全体にはどんな影響が出る?
では、一般的に、金利が「上昇」した場合、私たちの経済活動の様々な側面にどのような影響が現れるのでしょうか?
- 企業活動への影響: 企業が銀行などからお金を借りる際の金利(借入金利)が上昇すると、資金調達コストが増加します。これにより、企業は新しい工場を建てたり、機械を導入したりといった「設備投資」や、新たな事業を始めることに対して慎重になる可能性があります。特に、多くの借金を抱えている企業にとっては、毎月の利払い負担が増え、企業収益を圧迫する要因となり得ます。
- 個人消費への影響: 住宅ローン金利の上昇は、これから家を買おうとする人や、変動金利でローンを組んでいる人の毎月の返済額を増やし、家計への負担を大きくします。また、自動車ローンなどの金利も上昇すれば、高額な耐久消費財の購入を手控える動きが広がるかもしれません。 一方で、銀行の預金金利が上昇すれば、預貯金から得られる利息収入が増えるというプラスの側面もあります。ただし、日本の場合は、政策金利が上がっても、預金金利の上昇幅は限定的である可能性も指摘されています。
- 景気全体への影響: 金利の上昇は、一般的に、お金を借りにくくし、企業の投資や個人の消費を抑制する方向に働くため、経済全体の活動を「引き締める(冷やす)」効果があるとされています。そのため、景気が過熱しすぎたり、インフレが行き過ぎたりするのを抑える目的で、中央銀行が意図的に金利を引き上げる(利上げ)ことがあるのです。
金利上昇が「株式市場(インデックス投資)」に与える影響は?
さて、金利の上昇は、私たちがインデックス投資で主に投資対象としている「株式市場」には、どのような影響を与えると考えられているのでしょうか?
一般論として、「金利が上昇すると、株価にはマイナスに作用しやすい」と言われることが多いです。その主な理由としては、以下の点が挙げられます。
- 企業の資金調達コスト増・業績悪化懸念:金利が上がると、企業の借入コストが増え、設備投資などが手控えられ、結果として将来の利益成長への期待が低下しやすくなります。これが株価への下落圧力となります。
- 景気全体の減速懸念:金利上昇が景気を冷やす効果を持つため、景気が減速すれば、企業の売上や利益も伸び悩み、株価にはマイナスに作用します。
- 株式の相対的な魅力の低下:金利が上昇すると、国債などのより安全とされる債券の利回りが相対的に魅力的になります。そのため、リスクのある株式から安全な債券へと資金がシフトする(いわゆる「リスクオフ」の動き)可能性があり、株式市場から資金が流出しやすくなります。
- 割引率の上昇による理論株価の低下:専門的な話になりますが、株式の理論的な価格を算出する際、企業が将来生み出すと期待される収益(キャッシュフロー)を、現在の価値に割り引いて計算します。この時に使われる「割引率」には金利が影響し、金利が上昇すると割引率も上がり、結果として理論株価は下がる傾向にあります。
ただし、これはあくまで一般論であり、常に金利上昇が株価下落に直結するわけではありません。例えば、景気が非常に強く、企業の業績が力強く拡大している局面(いわゆる「業績相場」)では、多少の金利上昇があっても、それを上回る業績への期待から株価が上昇を続けることもあります。
一方で、中央銀行がインフレ抑制のために金融引き締めを急ピッチで進め、金利が急激に上昇するような局面(いわゆる「逆金融相場」)では、株式市場は大きな調整(下落)に見舞われやすくなります。
私たちインデックス投資家としては、金利の動向も、市場全体の大きな変動要因の一つとして冷静に認識しておく必要があります。
金利上昇が「債券市場(債券ファンド)」に与える影響は?
金利の変動は、株式市場だけでなく、「債券市場」にも大きな影響を与えます。 金利と債券価格の間には、一般的に「シーソー」のような逆の相関関係があると言われています。つまり、
- 市場金利が上昇すると、既に発行されている固定利率の債券の価格は下落する。
- 市場金利が低下すると、既に発行されている固定利率の債券の価格は上昇する。
なぜこうなるのでしょうか? 例えば、あなたが年利2%の固定利率の債券を持っていたとします。その後、市場全体の金利が上昇し、新しく発行される同種の債券の利率が3%になったとしましょう。すると、あなたが持っている年利2%の債券の魅力は相対的に低下しますよね? もし、その債券を市場で売ろうとしても、新しい3%の債券よりも条件が悪いため、価格を下げないと買い手がつかなくなってしまうのです。
そのため、金利が上昇する局面では、既に市場に出回っている固定利付債券の価格は下落する傾向があります。これに伴い、債券で運用するインデックスファンドなども、金利上昇時には基準価額が下落する可能性があることを理解しておく必要があります。
ただし、悪いことばかりではありません。新たに発行される債券の利率(クーポンレート)は、市場金利の上昇に合わせて高くなります。ですから、これから債券に投資する人や、債券ファンドが満期を迎えた債券を新しい高利回りの債券に再投資していく場合には、長期的には将来受け取れる利息収入が増えるという側面もあるのです。
金利変動期におけるインデックス投資家の心構え
では、金利が上昇する(あるいは大きく変動する)局面において、私たちインデックス投資家は、どのような心構えでいるべきでしょうか?
- 短期的な金利の動きを予測して売買しない 金利の将来動向を正確に予測することは、経済の専門家でも非常に困難です。ましてや、その予測に基づいて株式や債券の売買タイミングを計ろうとするのは、多くの場合、失敗につながりやすいと言えます。
- 常に「長期的な視点」を堅持する 金利の変動も、長い目で見れば市場サイクルの一部です。短期的な市場の価格変動やニュースに一喜一憂せず、当初設定した長期的な投資目標を見失わないことが大切です。
- 「分散投資」の重要性を再認識する 株式だけでなく、金利の変動に対して異なる値動きをする可能性のある他の資産クラス(例えば、金利上昇の影響を受けにくいとされる一部の短期債券や、あるいは全く異なる性質を持つ資産など)もポートフォリオに組み入れておくことで、金利変動リスクをある程度緩和できる可能性があります。
- 「積立投資」を淡々と継続する もし、金利上昇の影響で株価が一時的に下落したとしても、それは「優良なインデックスファンドを、普段よりも安く購入できるチャンス」と前向きに捉え、毎月の積立投資を淡々と継続していくことが、長期的なリターンを高める上では有効です。
金利は、経済や市場を動かす重要な要素の一つですが、それだけに振り回されてしまうのではなく、ご自身の投資目標とリスク許容度に基づいた、長期的な投資戦略を貫くことが何よりも重要です。
まとめ:金利の動きを理解し、長期的な視点で冷静に投資を続けよう
今回は、経済の重要な指標である「金利」について、その基本的な意味や変動要因、そして金利が上昇した場合に経済全体や私たちのインデックス投資(株式・債券)にどのような影響を与えるのかを解説しました。
- 金利とは:お金のレンタル料(利息)の元本に対する割合。金融政策や景気動向などで変動。
- 金利上昇の経済への影響:企業の資金調達コスト増、個人消費の抑制、景気の引き締めなど。
- 金利上昇の株式市場への影響:一般的にはマイナス要因(企業業績悪化懸念、相対的魅力低下など)。ただし状況による。
- 金利上昇の債券市場への影響:既存の債券価格は下落する傾向。
- インデックス投資家の心構え:短期予測はせず、長期・分散・積立を継続。
一般的に、金利の上昇は株式市場や既存の債券価格にはマイナスに作用する傾向がありますが、その影響の度合いは、その時の経済状況や金利上昇の背景、あるいは金融政策の進め方によっても異なります。
私たちインデックス投資家としては、金利の動きとその影響について基本的な知識を持っておくことは大切ですが、それ以上に、短期的な市場の変動に惑わされることなく、「長期・分散・積立」という投資の基本原則を守り、冷静に、そして淡々と投資を継続していくことが、最終的な成功への鍵となるでしょう。
日々のニュースで「金利が上昇した」「日銀が政策を変更した」といった言葉に接した際に、その背景にある経済のメカニズムや、ご自身の投資にどのような影響がある可能性があるのかを、少しでも具体的に考えられるようになること。それが、より賢明な投資判断と、長期的な視点での資産形成に繋がっていくはずです。
さて、経済の基本的な仕組みとして、インフレ・デフレ、そして金利について学んできました。次回は、これらの経済状況を判断する上で重要な「経済指標」について、代表的なものを取り上げてみたいと思います。
次回の第41回は、「景気動向を知る手がかり!代表的な経済指標の見方」と題して、GDPや消費者物価指数といった、ニュースでよく耳にする経済指標が何を表しているのか、そしてそれらをどのように読み解けば良いのかを解説します。お楽しみに!