前回は、国際分散投資と切っても切れない「為替リスク」について、予測不能なものとして受け入れ、長期的な視点で向き合うことの重要性をお話ししました。
さて、長期投資を語る上で、絶対に外せない、そして知っていると知らないでは将来の資産に天国と地獄ほどの差が生まれるかもしれない、非常に強力な概念があります。それが今回のテーマ、「複利」です。
かの有名な物理学者アルベルト・アインシュタインが「複利は人類最大の発明だ。知っている人は複利で稼ぎ、知らない人は利息を払う」と語った、という逸話(※真偽については諸説あります)があるほど、複利の力は絶大です。
今回は、この複利の基本的な仕組みから、なぜ「雪だるま式」に資産が増えると言われるのか、そしてその効果を最大限に活かす方法について、分かりやすく解説していきます。
「単利」と「複利」の違いを知ろう:利息が利息を生む仕組み
まず、「複利」を理解するために、比較対象となる「単利」との違いを見てみましょう。
- 単利とは:最初に投資した元本(がんぽん)に対してのみ、利息が計算される方法です。例えば、100万円を年利5%(単利)で預けると、毎年5万円(100万円×5%)の利息が付きます。10年後には、元本100万円+利息50万円(5万円×10年)=合計150万円になります。毎年もらえる利息の額は変わりません。
- 複利とは:元本だけでなく、それまでに受け取った利息を元本に加えて、その合計額に対して次の利息が計算される方法です。「利息が利息を生む」仕組みとも言えます。
同じように、100万円を年利5%(複利)で運用するとどうなるでしょうか?
- 1年後:元本100万円+利息5万円=105万円
- 2年後:元本105万円+利息5万2500円(105万円×5%)=110万2500円
- 3年後:元本110万2500円+利息5万5125円(110万2500円×5%)=115万7625円
- …
- 10年後:約162万8895円
単利だと150万円だったのに対し、複利だと約163万円と、10年間で約13万円もの差が生まれるのです。これがもし20年、30年と期間が長くなれば、その差はさらに劇的に開いていきます。
- 20年後:単利200万円 vs 複利 約265万円(差 約65万円)
- 30年後:単利250万円 vs 複利 約432万円(差 約182万円)
このように、複利は時間が経てば経つほど、その威力を増していくのです。
複利効果を「雪だるま」でイメージしよう
複利の効果をイメージするのに、よく「雪だるま」が例えとして使われます。
- まず、小さな雪玉(最初の元本)を作ります。
- その雪玉を雪の上で転がすと、周りの雪(利息)がくっついて、少しだけ大きくなります。
- その少し大きくなった雪玉をさらに転がすと、表面積が大きくなっているので、一回転でくっつく雪の量(新たな利息)が、さっきよりも多くなります。
- これを繰り返していくと、最初はゆっくりだった雪玉の成長スピードが、どんどん加速していき、最終的には巨大な雪だるまになる。
これが複利のイメージです。 最初のうちは、元本に付く利息も小さいため、資産の増え方は緩やかです。しかし、時間が経ち、「利息が利息を生む」効果が積み重なってくると、資産の増加ペースはどんどん速まっていきます。グラフにすると、単利が直線的に増えていくのに対し、複利は後半になるほど急なカーブを描いて上昇していく、いわゆる「指数関数的」な増え方をするのが特徴です。
この「時間をかければかけるほど、加速度的に増えていく」というのが、複利の最大の魅力なのです。
複利効果を最大化するための3つのカギ
では、この強力な複利効果を最大限に引き出すためには、何が重要になるのでしょうか?主に3つの要素が挙げられます。
- 投資期間(時間) これが最も重要な要素です。雪だるまの例えでも分かるように、複利の効果は時間をかければかけるほど指数関数的に大きくなります。運用期間が10年と20年では、単純に2倍の差ではなく、それ以上の大きな差が生まれます。ですから、投資は1年でも、1ヶ月でも、1日でも早く始めることが、複利の恩恵を最大限に受けるための最大の秘訣と言えます。
- 運用利回り(リターン) 雪だるまが転がる坂道の傾斜が急(=利回りが高い)であるほど、雪だるまの成長スピードは速くなります。年利3%で運用するのと、年利5%で運用するのとでは、長期的に見ると最終的な資産額に大きな差が出ます。ただし、注意が必要なのは、一般的に高いリターンを期待できる投資は、それだけ高いリスクも伴うということです。無理に高い利回りを追い求めるのではなく、自分のリスク許容度に合った、現実的なリターンを目指すことが大切です。
- 投資元本(+積立額) 最初に転がし始める雪玉の大きさ(=最初の投資元本)や、途中で定期的に雪を追加していく量(=毎月の積立額)も、最終的な雪だるまの大きさに影響します。もちろん、元本や積立額が大きいほど、将来の資産額も大きくなる可能性は高まります。しかし、無理のない範囲で始めることが継続のためには重要です。
複利効果は、「時間 × 利回り × 元本(積立額)」の掛け算で大きくなっていきます。この3つの要素を意識することが、効率的な資産形成につながるのです。
インデックス投資と複利は最高のパートナー!
さて、ここで私たちが学んでいるインデックス投資(特に積立投資)と、この複利効果の関係について考えてみましょう。実は、この二つは非常に相性が良い、最高のパートナーと言えるのです。
なぜなら、
- インデックス投資は「長期的なリターン」を目指しやすい:世界経済の成長などを背景に、インデックスファンドは長期的に見て比較的安定したプラスのリターン(運用利回り)を期待しやすい投資手法です。これが複利の「利回り」の部分を支えます。
- 積立投資は「元本の追加」を継続できる:ドルコスト平均法などを活用した積立投資は、定期的に投資元本を追加していく行為です。これにより、「投資元本(+積立額)」の部分を継続的に増やし、複利効果をさらに高めることができます。
- 分配金再投資でさらに効率化:投資信託には、運用で得た利益(分配金)を自動的に再投資してくれるタイプのものがあります。これを選ぶことで、手間なく「利息が利息を生む」複利のサイクルを回し続けることができます。
このように、インデックス投資を「長期・積立・分散」で実践することは、まさに複利という強力なエンジンを最大限に活用するための、非常に理にかなった方法なのです。時間を味方につけ、世界経済の成長に乗り、複利の力を借りて、着実に資産を育てていく。これこそが、インデックス投資が目指す資産形成の姿と言えるでしょう。
まとめ:時間を味方に、複利の力を最大限に活かそう!
第20回の今回は、長期投資の最大の武器とも言える「複利効果」について、その基本的な仕組みと重要性を解説しました。
- 複利とは:「利息が利息を生む」仕組み。時間が経つほど加速度的に資産が増える。
- 単利との違い:単利は元本にしか利息が付かないが、複利は利息にも利息が付く。長期では大きな差に。
- 雪だるまのイメージ:時間をかけて転がすほど、巨大な雪だるまになる。
- 最大化の3要素:「時間(期間)」「利回り」「元本(積立額)」。特に時間が重要。
- インデックス投資との相性:長期的なリターン、積立による元本追加、分配金再投資により、複利効果を活かしやすい。
複利の力を理解し、時間を味方につけること。これが、特別な才能や莫大な資金がなくても、誰もが実践できる、着実な資産形成の王道です。ぜひ、この複利の魔法を意識して、長期的な視点で投資に取り組んでみてください。
さて、複利の話と関連して、投資信託には「分配金」というものがあります。次回は、この投資信託の仕組みについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
次回の第21回は、「投資信託とは?インデックスファンドとの違いを分かりやすく解説」と題して、私たちがインデックス投資で活用する「投資信託」の基本的な仕組みや種類について、改めて整理していきます。お楽しみに!