前回は、積立投資を始めるタイミングについて、「最適なタイミングは存在しない、だから思い立った『今すぐ』がベストタイミング!」というお話をしました。時間を味方につけることの重要性、ご理解いただけたでしょうか。
さて、「今すぐ」始めると決めたとして、次に多くの人が直面するのが、「じゃあ、毎月いくら積み立てていけばいいんだろう?」という具体的な金額設定の問題です。
この積立額の設定は、実はとても重要です。金額が少なすぎると、目標達成まで途方もない時間がかかってしまうかもしれません。逆に、金額が多すぎると、毎月の生活が苦しくなってしまい、結局途中で積立をやめてしまう…なんてことにもなりかねません。
今回は、あなたにとって「無理なく続けられる、適切な積立金額」を見つけるための具体的な考え方やステップについて解説していきます。
ステップ①:大前提!まずは自分の「家計」を知ろう
毎月いくら積み立てられるかを考える前に、絶対にやっておかなければならないことがあります。それは、あなた自身の「家計」、つまり毎月の収入と支出をきちんと把握することです。
「そんなの、だいたい分かってるよ」と思うかもしれませんが、意外と正確に把握できていないことが多いものです。
- 毎月の手取り収入はいくらか?
- 家賃や住宅ローン、光熱費、通信費などの「固定費」はいくらか?
- 食費や交際費、趣味など、月によって変動する「変動費」はいくらか?
これらを把握することで、初めて「毎月、どれくらいの金額なら、生活に支障なく投資に回せるか(=余剰資金)」が見えてきます。家計簿アプリを使ったり、銀行口座やクレジットカードの明細を定期的にチェックしたりして、まずはご自身の収支状況を客観的に把握しましょう。
そして、ここで改めて強調しておきたいのは、投資に回すお金は、必ず「生活防衛資金」(第4回参照)とは別に確保した、当面使う予定のない「余剰資金」で行うということです。生活費や、いざという時のためのお金を投資に回すのは絶対にやめましょう。
ステップ②:「目標」から逆算してみる(シミュレーション活用術)
家計を把握し、毎月投資に回せそうな現実的な金額が見えてきたら、次に、あなたが設定した「投資目標」から、理想的な積立額を逆算してみましょう。
第3回で、「何のために、いつまでに、いくら貯めたいか」という投資目標を設定しましたね。例えば、「30年後に老後資金として2000万円貯めたい」といった目標です。
この目標を達成するためには、毎月いくらくらい積み立てていく必要があるのでしょうか? これを知るのに役立つのが、「資産運用シミュレーション」ツールです。
金融庁のウェブサイトなど、信頼できる機関が提供しているシミュレーションツールを使えば、
- 目標金額(例:2000万円)
- 積立期間(例:30年)
- 想定する運用利回り(年率%)(※後述)
これらの情報を入力することで、目標達成に必要な毎月の積立額を簡単に試算してくれます。
例えば、金融庁の「資産運用シミュレーション」で、「毎月積立額」「積立期間」「想定利回り」を入力すると、将来いくらになるか、という計算ができます。逆に、目標金額から逆算して毎月の積立額を知りたい場合は、いくつかの積立額で試してみて、目標に近い結果になるものを探す、といった使い方ができます。
ここで注意したいのが「想定利回り」の設定です。インデックス投資の過去の実績などから、年率3%~5%程度を想定するのが一般的ですが、これはあくまで過去の実績であり、将来も同じリターンが得られる保証はありません。皮算用にならないよう、あまり高すぎる利回りを設定せず、少し控えめに見積もっておく方が無難でしょう。
ステップ③:「理想」と「現実」のギャップを埋める
さて、ステップ①で把握した「家計から捻出可能な現実的な積立額」と、ステップ②でシミュレーションした「目標達成に必要な理想的な積立額」。この二つを比べてみましょう。
どうでしょうか?多くの場合、「理想の積立額」の方が「現実的に可能な積立額」よりも大きくなってしまうのではないでしょうか。
「やっぱり、目標達成は無理なのかな…」と落ち込む必要はありません。このギャップを埋めるための方法は、いくつか考えられます。
- 投資目標を見直す:目標金額を引き下げたり、達成までの期間をもう少し長く設定し直したりすることで、必要な毎月の積立額を下げることができます。
- 家計を見直す:毎月の支出項目をチェックし、削減できる部分がないか探してみましょう。固定費(住居費、保険料、通信費など)の見直しは特に効果が大きい場合があります。節約によって、投資に回せる金額を増やす努力をします。
- 想定利回り(取るリスク)を見直す:より高いリターンが期待できる(=リスクが高い)資産の割合を増やすことで、必要な積立額を抑えることも理論上は可能です。しかし、これはリスク許容度との兼ね合いが非常に重要であり、安易に見直すべきではありません。(第6回参照)
- まずは現実的な金額でスタートする:これが最も現実的で、おすすめの方法かもしれません。今は理想額に届かなくても、まずは家計から無理なく捻出できる金額で積立投資を始め、将来的に収入が増えたり、支出が減ったりしたタイミングで増額していく、という考え方です。
ここで最も大切なのは、繰り返しになりますが、「無理なく、確実に継続できる金額」でスタートすることです。背伸びをして始めても、途中で息切れしてしまっては元も子もありません。
最初は少額でも大丈夫!「増額」という選択肢も忘れずに
特に投資を始めたばかりの頃は、まだ投資に対する不安も大きいかもしれませんし、市場の値動きに慣れていないでしょう。そんな時に、いきなり大きな金額を積み立てるのは精神的な負担が大きいものです。
ですから、最初は月々数千円や1万円といった、ご自身が「これくらいなら、なくなっても生活には全く困らない」と思えるくらいの少額から始めてみるのがおすすめです。
「こんな少額で、本当に意味があるの?」と思うかもしれませんが、まずは「始めること」そして「続けること」自体に大きな意味があります。
- 投資のプロセスに慣れることができる
- 実際に自分のお金が増えたり減ったりするのを体験できる
- 経済や市場のニュースへの関心が高まる
これらの経験を通じて、投資への理解が深まり、徐々に自信もついてくるはずです。
そして、積立投資の良いところは、積立金額を後からでも比較的簡単に変更できる点です。
- 昇給して収入が増えた
- 子供が独立して教育費がかからなくなった
- 家計の見直しで節約できるようになった
- 投資に慣れてきて、もう少しリスクを取れるようになった
といったタイミングで、積立額を増やしていく(増額する)ことができます。
最初から100点満点を目指す必要はありません。まずは小さな一歩を踏み出し、焦らず、ご自身のペースで、投資という苗をゆっくりと育てていく。そんなイメージで取り組んでみてはいかがでしょうか。
まとめ:あなたに合った「無理のない積立額」を見つけよう
第18回の今回は、積立投資における「毎月の積立額」をどう決めれば良いか、その具体的な考え方とステップについて解説しました。
- まずは家計を把握:収入と支出を知り、無理なく投資に回せる「余剰資金」を確認する。
- 目標から逆算:資産運用シミュレーションなどを活用し、目標達成に必要な理想の積立額を把握する。
- 理想と現実を調整:捻出可能な額と理想額のギャップがあれば、目標の見直し、家計の見直し、あるいは「まずは可能な額から始める」ことを検討する。
- 無理なく継続が最優先:「続けられること」が何よりも大切。背伸びは禁物。
- 少額スタート&増額もOK:最初は少額から始め、慣れてきたり余裕ができたりしたら増額していく柔軟な考え方を持つ。
あなたにとって最適な積立額は、他の誰とも違います。今回ご紹介したステップを参考に、ご自身の家計状況、投資目標、そしてライフプランと相談しながら、「これなら無理なく続けられそうだ」と思える金額を見つけてください。
さて、積立金額が決まったら、いよいよ投資を始める準備は最終段階です。しかし、海外への投資には、もう一つ知っておくべき「為替」の考え方があります。前回少し触れましたが、次回はその点について掘り下げます。