【インデックス投資の教科書⑮】ドルコスト平均法って結局どうなの?誤解と本当のメリット

インデックス投資の教科書

前回は、国際分散投資を行う際に考慮すべき「為替リスク」について、その基本的な考え方と向き合い方を見てきました。予測できないリスクは受け入れつつ、長期的な視点を持つことが大切でしたね。

さて今回は、インデックス投資、特に「積立投資」を行う上で、必ずと言っていいほど耳にする「ドルコスト平均法」という投資手法について掘り下げていきたいと思います。

「ドルコスト平均法ってよく聞くけど、結局どういうものなの?」 「『損も得もしない』って聞くけど、やる意味あるの?」

そんな疑問や、もしかしたら誤解を持っている方もいるかもしれません。今回は、ドルコスト平均法の基本的な仕組みから、その効果、よくある誤解、そして本当に価値のあるメリットまで、詳しく解説していきます。

積立投資でおなじみ「ドルコスト平均法」とは?

ドルコスト平均法(Dollar Cost Averaging)とは、特定の金融商品(例えば、投資信託)を、価格の変動に関わらず、常に「一定の金額」で、「定期的」に(例えば、毎月1回など)継続して購入していく投資手法のことです。

非常にシンプルですよね。具体例を挙げると、

  • 毎月1日に、A社のインデックスファンドを3万円分ずつ購入する
  • 毎月給料日に、B社のバランスファンドを1万円分ずつ購入する

といった方法が、ドルコスト平均法にあたります。

ポイントは、「いくら分買うか(購入金額)」が常に一定である、という点です。株価や投資信託の基準価額が上がっていようが下がっていようが、毎回決まった金額分だけ購入を続けます。

ドルコスト平均法の「仕組み」と「効果」:なぜ有効なのか?

では、なぜこのように毎回「一定金額」を買い続けることが、有効な投資手法の一つとされるのでしょうか?その仕組みを見てみましょう。

投資信託などの金融商品は、日々価格が変動しています。ドルコスト平均法で毎回「一定金額」を購入すると、価格の変動に応じて、購入できる「口数(数量)」が変わってきます。

  • 価格が安い時:同じ購入金額でも、たくさんの口数を買うことができます。
  • 価格が高い時:同じ購入金額では、少ない口数しか買うことができません。

これを長期間続けるとどうなるでしょうか? 結果的に、価格が高いときには少なく、価格が安いときには多く買うことになるため、全体の平均購入単価を平準化させる効果が期待できるのです。特に、価格が下落した局面でも買い続けることで、多くの口数を安く仕込むことができ、その後の価格回復局面で利益を得やすくなる、というメリットがあります。

簡単な例で見てみましょう。ある投資信託が以下のように値動きしたとします。

  • 1ヶ月目:1口100円
  • 2ヶ月目:1口 80円
  • 3ヶ月目:1口120円

この投資信託を毎月1,200円ずつ購入した場合(ドルコスト平均法):

  • 1ヶ月目:1,200円 ÷ 100円/口 = 12口購入
  • 2ヶ月目:1,200円 ÷ 80円/口 = 15口購入
  • 3ヶ月目:1,200円 ÷ 120円/口 = 10口購入

合計購入金額は3,600円、合計購入口数は37口。平均購入単価は 3,600円 ÷ 37口 ≒ 97.3円/口 となります。 もし、毎月一定口数(例えば12口ずつ)買っていた場合の平均購入単価((100+80+120)÷3 = 100円/口)よりも、安く買えていることがわかりますね。(これはあくまで単純化した例です。)

このように、ドルコスト平均法は、価格変動を利用して平均購入単価を抑える効果が期待できる手法なのです。

よくある誤解:「損も得もしない」「儲からない」は本当?

ドルコスト平均法について調べていると、「損も得もしない無意味な手法だ」「儲からない投資法だ」といった批判的な意見を目にすることがあります。これは本当なのでしょうか?

これらの意見が出てくる背景には、いくつかの理由があります。

  1. 常に最安値で買えるわけではない:ドルコスト平均法は、あくまで平均購入単価を抑える効果を狙うものであり、価格の底値で一気に買う「タイミング投資」がもし成功すれば、そちらの方が有利になる可能性はあります。
  2. 右肩上がりの相場では不利になることも:もし投資対象の価格が一貫して上昇し続けるのであれば、最初に一括で投資した方が、後から少しずつ買うドルコスト平均法よりも多くの利益を得られます。平均購入単価は、一括投資の方が安くなるからです。
  3. 元本保証ではない:ドルコスト平均法を使っても、投資対象の価格が下がり続ければ、当然損失は発生します。「平均購入単価を抑える」ことと「必ず儲かる」ことはイコールではありません。

これらの点を捉えて、「損も得もしない」とか「儲からない」といった表現が使われることがあるようです。

しかし、ここで重要なのは、ドルコスト平均法の「目的」を正しく理解することです。ドルコスト平均法は、リターンを最大化するための魔法の杖ではありません。その本質は、後述するような、特に個人投資家、とりわけ初心者にとって大きなメリットをもたらす「リスク管理」と「投資継続」のための合理的な手法にあるのです。

ドルコスト平均法の「本当のメリット」を理解しよう

では、ドルコスト平均法が持つ、本当に価値のあるメリットとは何でしょうか?

  1. 高値掴みのリスクを低減できる これが最も基本的なメリットです。定期的に一定額を投資することで、価格が高いときには少なく、安いときには多く買うことになるため、結果的に平均購入単価が平準化され、一括投資で高値掴みしてしまうリスクを避けることができます。
  2. 投資タイミングに悩む必要がない 「いつ買えば一番安いんだろう?」と市場のタイミングを計るのは、プロでも至難の業です。ドルコスト平均法なら、タイミングを気にする必要はありません。決まった日に、決まった額を投資するだけなので、「いつ買うか」という悩みから解放され、精神的な負担が大幅に軽減されます。
  3. 少額から投資を始めやすい 投資を始める際に、まとまった資金を用意するのは大変ですよね。ドルコスト平均法なら、毎月数千円や数万円といった、自分が無理なく続けられる範囲の金額からスタートできます。これにより、投資へのハードルがぐっと下がります。
  4. 感情に左右されにくい規律ある投資を継続しやすい 市場が大きく変動すると、「もっと上がるかも(欲)」「もっと下がるかも(恐怖)」といった感情に揺さぶられ、冷静な判断ができなくなりがちです。ドルコスト平均法は、あらかじめ決めたルールに従って機械的に買い付けていくため、感情的な判断を排し、規律ある投資行動を継続しやすくします。長期的な資産形成において、「続けること」は何よりも重要です。

これらのメリットは、特に投資経験が浅い初心者の方や、日々の市場動向を細かくチェックする時間がない忙しい方にとって、非常に大きな価値を持つと言えるでしょう。

ドルコスト平均法を最大限に活かすためのポイント

ドルコスト平均法のメリットを最大限に引き出すためには、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。

  1. 長期的な視点で続けること ドルコスト平均法の効果は、短期間では実感しにくいものです。価格の上下動を繰り返しながら、安いところで多く買う機会を積み重ねることで、平均購入単価を引き下げる効果が発揮されます。最低でも数年、できれば10年、20年といった長期的な視点で、コツコツと継続することが重要です。
  2. 価格が変動する資産に投資すること ドルコスト平均法は、価格が変動するからこそ効果を発揮する手法です。価格が全く変動しない預貯金のようなものにドルコスト平均法を用いても、平均購入単価を下げる効果は生まれません。株式インデックスファンドのように、ある程度の価格変動が見込まれる資産に投資する際に有効です。
  3. 決めたルールを淡々と守ること 市場が急騰したり急落したりすると、「今月は買うのをやめようかな」「もっとたくさん買おうかな」といった誘惑に駆られるかもしれません。しかし、ドルコスト平均法の効果を得るためには、基本的に最初に決めた「定時・定額」のルールを守り、淡々と買い続けることが大切です。(もちろん、収入減など生活状況に大きな変化があった場合は、無理のない範囲で見直す必要はあります。)

これらのポイントからも分かるように、インデックス投資の基本的な考え方である「長期・積立・分散」と、ドルコスト平均法は非常に相性が良い組み合わせと言えますね。

まとめ:ドルコスト平均法を賢く活用しよう

第15回の今回は、積立投資の代表的な手法である「ドルコスト平均法」について、その仕組みや効果、よくある誤解、そして本当のメリットを解説しました。

  • ドルコスト平均法とは:定期的・定額で金融商品を購入し続ける手法。
  • 仕組みと効果:価格が安い時に多く、高い時に少なく買うことで、平均購入単価を平準化させる効果が期待できる。
  • 誤解:「損も得もしない」「儲からない」のではなく、リスク管理と投資継続のための合理的な手法。
  • 本当のメリット:高値掴みリスク低減、タイミング不要、少額から可能、継続しやすい。
  • 活かすポイント:長期継続、価格変動資産への投資、ルール遵守が重要。

ドルコスト平均法は、リターンを最大化する魔法ではありませんが、価格変動のリスクを抑え、感情に惑わされずに長期的な投資を継続するための、非常に賢明で有効な手段です。特に投資初心者の方は、このドルコスト平均法のメリットを理解し、インデックスファンドの積立投資などで活用していくことを強くおすすめします。

さて、ドルコスト平均法と並んで、投資タイミングについてよく議論されるのが「タイミング投資」です。次回は、このタイミング投資の難しさについて掘り下げます。

次回の第16回は、「タイミング投資は難しいので積立投資がおすすめな理由」と題して、なぜ市場のタイミングを読むのが難しいのか、そしてなぜ積立投資(ドルコスト平均法)がより現実的なのかについて、詳しく解説していきます。お楽しみに!

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