前回は、自分自身がどれくらいのリスクを受け入れられるのか、その度合いである「リスク許容度」を知ることの重要性についてお話しし、簡単な自己診断も試していただきましたね。
「自分は意外とリスクを取れそうだな」とか、「やっぱり安定重視の方が合ってるかも」といった、ご自身の傾向が見えてきたのではないでしょうか。
さて、大切なのはここからです。リスク許容度を診断して、「ふむふむ、自分はこういうタイプか」と知るだけで終わってしまっては、もったいない!
今回のテーマは、その把握したリスク許容度を、実際の投資戦略、特に「どの資産にどれくらい投資するか」という『資産配分』にどう活かしていくか、という具体的な考え方についてです。
リスク許容度、診断して終わりじゃない!次は何をする?
投資には、積極的にお金を増やしに行く「攻め」の側面(リターンの追求)と、できるだけお金を減らさないようにする「守り」の側面(リスクの管理)があります。リスク許容度に応じて、この「攻め」と「守り」のバランスをどう取るかが、投資を成功させるための鍵となるのです。
さあ、あなたのリスク許容度という「自分自身の情報」を、賢い投資判断につなげていきましょう!
投資戦略の要!「資産配分(アセットアロケーション)」って何?
リスク許容度を投資戦略に活かす上で、核となる考え方が「資産配分(アセットアロケーション)」です。なんだか難しそうな言葉ですが、心配いりません。
資産配分とは、簡単に言うと「あなたの投資資金を、どの種類の資産(資産クラスと言います)に、どれくらいの割合で振り分けるか」を決めることです。
投資の世界には、様々な種類の資産クラスがありますが、インデックス投資で主に考えるのは、以下の二つです。
- 株式: 企業の成長と共に値上がり益が期待でき、配当金が得られる可能性もある。一般的に債券よりも高いリターンが期待できるが、価格変動リスクも大きい。(攻めの資産)
- 債券: 国や企業がお金を借りる際に発行するもの。定期的に利息が支払われ、満期には元本が戻ってくる(※発行体の信用リスクはあります)。一般的に株式よりも価格変動リスクは小さいが、期待できるリターンも低い。(守りの資産)
(他にも不動産(REIT)やコモディティ(金など)といった資産クラスもありますが、まずは株式と債券の組み合わせを考えるのが基本です。)
なぜ、この資産配分がそんなに重要なのでしょうか? 実は、投資の世界では「投資の成果の80%以上は、資産配分によって決まる」とまで言われているんです。どの個別銘柄を選ぶか、いつ売買するかといったことよりも、「株式と債券の割合をどうするか」という大枠を決めることの方が、長期的なリターンにずっと大きな影響を与える、という考え方です。
だからこそ、自分のリスク許容度に合わせて、最適な資産配分を考えることが非常に大切になってくるわけです。
リスク許容度【高め】のあなたへ:成長を重視した資産配分のヒント
前回の自己診断で、リスク許容度が「比較的高い」と判断されたあなたは、どんな特徴があったでしょうか?
- 年齢が若く、投資できる期間が10年以上ある
- 収入や資産に比較的余裕がある
- 投資経験がある、または学ぶ意欲が高い
- 多少の価格変動はあまり気にならない
- 長期的な資産成長を重視したい
もし、このような特徴に当てはまるなら、資産配分においては「株式」の比率を高めることを検討できます。株式は、短期的には価格が大きく変動するリスクがありますが、長期的には経済成長と共に価値が上昇していくことが期待される代表的な資産クラスだからです。
具体的な配分例としては、あくまで一例ですが、
- 株式 80% : 債券 20%
- 株式 70% : 債券 30%
といった、株式中心のポートフォリオ(資産の組み合わせ)が考えられます。株式の中でも、日本株だけでなく、先進国株や新興国株など、世界中に分散投資することで、リスクを抑えつつ世界経済全体の成長を取り込むことができます。(※具体的なファンドの組み合わせは、また別の機会にお話ししますね。)
株式比率を高めるメリットは、長期的に大きなリターン(値上がり益)を狙える可能性があること、そして「複利効果」(利益が利益を生む効果)を最大限に活かしやすいことです。
ただし、忘れてはいけない注意点があります。株式比率が高いということは、市場が下落したときの資産価値の減少幅も大きくなるということです。例えば、リーマンショックのような大きな経済危機が起きた場合、資産が一時的に半分近くまで減ってしまう可能性もゼロではありません。
リスク許容度が高いと判断した場合でも、「自分が精神的に耐えられる範囲はどこまでか?」をよく考え、短期的な大きな変動が起きても慌てずに長期保有を続けられるか、という覚悟を持って配分を決めることが重要です。
リスク許容度【低め】のあなたへ:安定性を重視した資産配分のヒント
一方、前回の自己診断で、リスク許容度が「比較的低い」と判断されたあなたは、どのような特徴があったでしょうか?
- 年齢が高めで、投資期間が短い(または、近い将来に使う予定のお金である)
- 収入や資産にあまり余裕がない
- 投資経験が少ない、または投資について考えるのが苦手
- 資産が減ることに対する不安が大きい
- 大きなリターンよりも、元本割れを避けたい気持ちが強い
もし、このような特徴に当てはまるなら、資産配分においては「債券」の比率を高める、あるいは「現金・預金」の比率も一定程度確保することを検討しましょう。債券は、株式に比べて一般的に価格変動が穏やかで、安定した収益(利息収入)が期待できる資産クラスです。
具体的な配分例としては、あくまで一例ですが、
- 株式 30% : 債券 70%
- 株式 20% : 債券 80%
といった、債券中心のポートフォリオが考えられます。債券の中でも、信用度の高い国の国債などを中心に組み入れることで、より安定性を高めることができます。また、生活防衛資金とは別に、投資ポートフォリオの中にも一定の現金を置いておくことも、精神的な安定につながります。
債券比率を高めるメリットは、ポートフォリオ全体の値動きをマイルドにし、市場の下落局面でも資産価値の減少を抑えやすいことです。これにより、精神的な負担が軽くなり、投資を続けやすくなります。
ただし、注意点としては、期待できるリターンは株式中心のポートフォリオに比べて低くなる傾向があることです。リスクを抑えるということは、その分、大きなリターンも得にくい、ということを理解しておく必要があります。
リスク許容度が低いからといって、投資ができないわけではありません。大切なのは、自分が安心して続けられる範囲で、できるだけリスクを抑えた運用方法を選ぶことです。
「中程度」や「変化」も考慮!自分だけの最適バランスを見つけよう
ここまでは、リスク許容度が「高め」「低め」という両極端なケースで見てきましたが、多くの人はその「中程度」に当てはまるかもしれません。
リスク許容度が中程度の場合は、株式と債券のバランスを取った資産配分を目指すのが一般的です。例えば、
- 株式 50% : 債券 50%
- 株式 60% : 債券 40%
といった配分です。これにより、ある程度のリターンを狙いつつ、リスクも過度に高くなりすぎない、バランスの取れた運用を目指すことができます。
また、もう一つ非常に重要なのが、リスク許容度や最適な資産配分は、年齢やライフステージと共に変化していくということです。
一般的に、若い頃はリスク許容度が高く、株式比率を高めにして積極的に資産形成を目指し、年齢を重ねて退職が近づくにつれて、徐々にリスク許容度が低下し、債券や現金の比率を高めて安定運用にシフトしていくのが合理的とされています。これを「ライフサイクル投資」と呼んだりします。
例えば、30代では「株式80%:債券20%」だった人が、50代になったら「株式50%:債券50%」に見直し、60代後半の退職時には「株式20%:債券80%」にするといったイメージです。(これはあくまで一例です。)
つまり、最初に決めた資産配分がずっと最適とは限らないのです。年に1回など、定期的に自分の状況(年齢、収入、資産、家族構成、投資目標までの期間など)を確認し、必要であれば資産配分を見直していく(リバランスする)ことが大切です。(リバランスについては、また今後の連載で詳しく触れます。)
ここまで、リスク許容度に応じた資産配分の考え方や例を見てきましたが、「絶対にこれが正解!」という万能なポートフォリオは存在しません。
紹介した例はあくまで一般的な目安であり、最終的には、あなた自身が「これなら納得できる」「このバランスなら、市場が変動しても安心して続けられそうだ」と思える、自分だけの最適なバランスを見つけることが最も重要です。
まとめ:自分だけの「投資の設計図」を描こう
第6回の今回は、前回把握した「リスク許容度」を、具体的な「資産配分(アセットアロケーション)」にどう活かしていくか、その考え方について解説しました。
- 資産配分とは? → 投資資金をどの資産クラス(株式、債券など)にどれくらいの割合で振り分けるか決めること。投資成果に大きな影響を与える。
- リスク許容度【高め】の場合 → 株式の比率を高め、長期的な成長リターンを狙う戦略が考えられる。ただし、短期的な価格変動は大きくなる覚悟が必要。
- リスク許容度【低め】の場合 → 債券の比率を高め、安定性を重視する戦略が考えられる。ただし、期待できるリターンは相対的に低くなる。
- リスク許容度【中程度】の場合 → 株式と債券のバランスを取った配分が基本。
- 見直しも重要! → リスク許容度や最適な資産配分は、年齢やライフステージによって変化するため、定期的な見直しが必要。
- 大切なこと → 「唯一の正解」はない。自分が納得し、長期的に続けられる「自分だけの最適バランス」を見つけること。
リスク許容度を知り、それに基づいた資産配分を考えることは、いわば「自分に合った投資の設計図」を作るようなものです。この設計図があれば、今後の投資の道のりを、より自信を持って、そして安心して進んでいくことができるでしょう。
さて、資産配分の重要性が分かったところで、次回はさらに一歩進んで、「投資の成否を左右する!アセットアロケーションが投資パフォーマンスの80%を決定する理由」について深掘りします。なぜ資産配分がそれほどまでに重要視されるのか、その根拠となる考え方について詳しく解説していきます。ぜひ、次回の記事もご覧ください!