前回までの記事で「投資の目標と期間設定」(第3回)、「生活防衛資金の確保」(第4回)という、投資を始める前の非常に重要な準備についてお話ししました。これで、いよいよ投資の世界へ踏み出す準備が整ってきた感じがしますね。
さて、今回は実際に投資を始めるにあたって避けては通れない「リスク」という言葉と、それに対するあなたの「許容度」について考えていきましょう。
投資と「リスク」はセット?まずはリスクを正しく理解しよう
「リスク」と聞くと、「損すること」「危険なこと」といったネガティブなイメージを持つ人が多いかもしれません。もちろん、投資には損をする可能性も含まれますが、投資の世界で使われる「リスク」は、少し意味合いが違うんです。
投資における「リスク」とは、主に「結果の不確実性」や「価格の変動の振れ幅」のことを指します。つまり、「どれくらい儲かるか、あるいは損するか分からない度合い」や「価格がどれくらい上がったり下がったりするか」ということです。
そして、一般的に、このリスクと「リターン(収益)」は表裏一体の関係にあると言われています。
- ハイリスク・ハイリターン: 大きなリターンが期待できる投資は、価格の変動幅(リスク)も大きい傾向がある。(例:株式投資など)
- ローリスク・ローリターン: 期待できるリターンは小さいけれど、価格の変動幅(リスク)も小さい傾向がある。(例:預貯金や債券投資など)
「絶対に損したくないけど、たくさん儲けたい!」というのは、残念ながら投資の世界では成り立ちにくいんですね。自分がどれくらいのリターンを目指したいのか、そして、そのためにはどれくらいの不確実性(リスク)を受け入れる覚悟があるのか。これを考えることが、投資戦略の第一歩になります。
まずは、「リスク=単なる危険」というイメージを少し横に置いて、「リスク=不確実性・値動きの幅」と捉え直してみてください。
「リスク許容度」ってなんだろう?なぜ知る必要があるの?
投資における「リスク」の意味が少し分かったところで、今回のメインテーマである「リスク許容度」について説明します。
リスク許容度とは、文字通り「あなたがどれくらいのリスク(価格の変動や損失の可能性)を受け入れることができるかの度合い」のことです。人によって、この度合いは大きく異なります。ジェットコースターが好きな人もいれば、苦手な人もいるのと同じようなものですね。
では、なぜ自分のリスク許容度を知ることがそんなに重要なのでしょうか?理由は大きく二つあります。
- 理由①:自分に合った投資戦略(アクセルの踏み具合)を決めるため リスク許容度を把握することで、自分にとって心地よい「リスクとリターンのバランス」が見えてきます。例えば、リスク許容度が高い人は、株式のような値動きの大きい資産の割合を高めて、積極的にリターンを狙う戦略(アクセルを強めに踏むイメージ)が取れるかもしれません。逆に、リスク許容度が低い人は、債券のような値動きの穏やかな資産の割合を多くして、安定性を重視した戦略(ブレーキを意識しつつ、ゆっくり進むイメージ)を選ぶことになります。自分の許容度を超えたリスクを取ってしまうと、後で大変なことになりかねません。
- 理由②:市場が変動しても冷静でいるため(長期投資を続けるため) 投資をしていると、市場が大きく変動することは必ずあります。株価が急落するような場面も訪れるでしょう。そんな時、自分のリスク許容度を理解していれば、「これくらいの変動は想定内だ」「長期で見れば回復するはずだ」と、冷静さを保ちやすくなります。逆に、自分の許容度を超えたリスクを取っていると、少しの価格変動でも不安でいっぱいになり、パニックになって売ってしまう(狼狽売り)可能性が高まります。それでは、長期的な資産形成はうまくいきません。
つまり、リスク許容度を知ることは、自分だけの「投資の運転スタイル」を見つけるための、そして、市場の嵐の中でも航海(投資)を続けられるようにするための、重要な自己分析なのです。
「自分は他の人よりリスクに強いのかな?弱いのかな?」それを知ることから始めてみましょう。
あなたのリスク許容度を決める「ものさし」とは?
では、あなたのリスク許容度は、一体何によって決まるのでしょうか?いくつかの「ものさし」となる要因があります。主なものを5つ見ていきましょう。
- 年齢(投資できる期間): 一般的に、年齢が若いほど、投資できる期間は長くなります。もし投資で損失が出たとしても、その後の時間で回復を待ったり、追加投資したりするチャンスがあります。そのため、若い人ほどリスクを取りやすい(リスク許容度が高い)傾向があります。逆に、退職が近いなど、投資期間が短い場合は、大きな損失を出すと挽回が難しくなるため、リスクを抑える(リスク許容度が低い)傾向になります。
- 収入や資産の状況(経済的な余裕): 収入が高く安定的であったり、すでに十分な資産を持っていたりする場合は、もし投資で損失が出ても、生活への影響は比較的小さく済みます。そのため、経済的な余裕がある人ほど、リスクを取りやすいと言えます。逆に、収入が不安定だったり、資産に余裕がなかったりする場合は、損失が生活に与える影響が大きいため、リスク許容度は低くなります。(生活防衛資金がしっかり確保されていることは大前提ですよ!)
- 投資経験: 投資の経験が豊富な人は、過去に市場の変動を経験しているため、価格のアップダウンに対する心理的な耐性ができていることが多いです。そのため、初心者よりもリスクを取りやすい傾向があります。投資経験が全くない場合は、まずはリスクを抑えたところから始めるのが安心かもしれません。
- 投資目的と期間(再確認): 第3回で考えた「投資目標と期間」も、リスク許容度に影響します。「30年後の老後資金」のように目標までの期間が長い場合は、途中で価格が変動しても長期的な成長に期待できるため、リスクを取りやすくなります。一方、「5年後の住宅購入の頭金」のように期間が短い場合は、確実に目標額を達成する必要があるため、リスクは抑えめにする必要があります。
- 性格(心理的な側面): これは数値化しにくいですが、非常に重要な要素です。もともと心配性で、少しでも資産が減るのが怖いと感じる人は、リスク許容度は低いでしょう。逆に、楽観的で、多少のリスクは気にしないという人は、リスク許容度が高い可能性があります。どちらが良い悪いではありません。自分の性格に合った投資をすることが大切です。
これらの要素は、それぞれ独立しているわけではなく、互いに関連し合っています。例えば、若くても収入が不安定ならリスクは取りにくいかもしれませんし、年齢が高くても資産が十分にあればリスクを取れるかもしれません。
これらの「ものさし」を参考に、ご自身の状況を客観的に見つめ直してみてください。
自分のリスク許容度を測ってみよう!簡単セルフチェック
さて、リスク許容度に影響する要素が分かったところで、実際にあなたのリスク許容度がどの程度なのか、簡単なセルフチェックで考えてみましょう。
以下の5つの質問について、ご自身の状況や考えに最も近いものを選んでみてください。
Q1. 投資した資産の価値が、市場の変動によって一時的に20%下落したと想像してください。その場合、あなたは冷静さを保ち、長期的な視点で保有し続けることができますか?
(a) はい、長期的な回復を期待して持ち続けることができる。
(b) 少し不安になるが、おそらく持ち続けるだろう。
(c) 不安で夜も眠れないかもしれない。売却してしまう可能性が高い。
Q2. 将来的に、市場平均よりも大きなリターンを得る可能性があるなら、元本割れ(投資したお金が減ってしまう)の可能性を受け入れることができますか?
(a) はい、より高いリターンを目指すなら、ある程度のリスクは受け入れる。
(b) できれば避けたいが、少しであれば許容できるかもしれない。
(c) いいえ、元本割れの可能性は極力避けたい。安定性を重視する。
Q3. 投資や経済の仕組みについて、自ら本を読んだり、情報を集めたりして学ぶことに、どれくらい関心がありますか?
(a) 非常に興味があり、積極的に学びたい。
(b) 必要であれば学ぶが、それほど積極的ではない。
(c) 正直、あまり興味がなく、できれば避けたい。
Q4. あなたの現在の収入は安定的と言えますか?また、万が一の時に備える生活防衛資金とは別に、当面の生活に困らない程度の余裕資金はありますか?
(a) はい、収入は安定的で、余裕資金も十分にある。
(b) どちらかと言えば安定的だが、余裕資金はそれほど多くない。
(c) いいえ、収入は不安定で、余裕資金もほとんどない。
Q5. この投資で使う予定のお金は、いつ頃までに必要になる予定ですか?(投資期間)
(a) 10年以上先(例:老後資金、幼い子供の教育資金など)
(b) 5年~10年くらい先(例:子供の中学・高校進学、車の買い替えなど)
(c) 5年未満(例:近々予定している住宅購入の頭金、結婚資金など)
【診断のヒント】
- (a)の回答が多い人: リスク許容度は比較的高い可能性があります。株式などのリスク資産の割合を高めた運用も検討できるかもしれません。
- (c)の回答が多い人: リスク許容度は比較的低い可能性があります。債券の割合を高めたり、元本保証に近い金融商品を選んだりするなど、安定性を重視した運用が向いているかもしれません。
- (b)の回答が多い人や、(a)と(c)が混在している人: リスク許容度は中程度と考えられます。株式と債券をバランスよく組み合わせた運用などが考えられます。
これはあくまで簡易的なチェックであり、あなたのリスク許容度を正確に断定するものではありません。しかし、これらの質問について考えること自体が、自分自身のリスクに対する考え方を知る良いきっかけになるはずです。
自己診断はゴールじゃない!「自分だけの投資スタイル」を見つけるために
今回のセルフチェックで、「自分はリスク許容度が高そうだ」「意外と低いかもしれない」といった、大まかな傾向が見えてきたでしょうか?
ここで大切なのは、この診断結果は、あなたをタイプ分けするためのものではないということです。「リスク許容度が高いから偉い」とか、「低いからダメだ」ということは全くありません。
この自己診断は、あくまで自分自身の特徴を知るための「手がかり」にすぎません。ゴールは、診断結果を知ることではなく、その結果を踏まえて、「じゃあ、自分はどんな投資のやり方が合っているんだろう?」と考えていくことです。
- リスク許容度が高いと判断した人は、「具体的にどれくらいの割合までリスク資産(株式など)を持っても、夜安心して眠れるだろうか?」
- リスク許容度が低いと判断した人は、「リスクを抑えつつも、目標達成のためには、どれくらいの期待リターンが必要だろうか?そのためにはどんな資産配分が良いだろうか?」
このように、把握したリスク許容度を、具体的な投資戦略(どんな種類の資産に、どれくらいの割合で投資するか=アセットアロケーション)に落とし込んでいくことが、次のステップになります。(アセットアロケーションについては、今後の連載で詳しく解説しますね!)
また、忘れてはいけないのは、リスク許容度は一生固定されるものではないということです。
年齢を重ねたり、家族構成が変わったり、収入や資産が増減したり、投資経験を積んだりすることで、リスクに対する考え方は変化していく可能性があります。
ですから、一度診断したら終わりではなく、年に1回など、定期的に自分のリスク許容度を見直すことも大切です。ライフステージの変化に合わせて、投資戦略も柔軟に調整していく必要があるんですね。
まずは、今の自分のリスク許容度をしっかりと把握すること。それが、無理なく、長く投資を続けていくための、そして、あなただけの「心地よい投資スタイル」を見つけるための、重要な一歩となるはずです。
まとめ:自分の「リスクの器」を知ろう
第5回の今回は、投資と向き合う上で非常に重要な「リスク許容度」について、その意味や知る必要性、そして簡単な自己診断の方法についてお話ししました。
- 投資のリスクとは? → 「危険」という意味だけでなく、「不確実性」や「値動きの幅」のこと。リスクとリターンは表裏一体。
- リスク許容度とは? → あなたがどれくらいのリスクを受け入れられるかの度合い。人それぞれ異なる。
- なぜ知る必要がある? → 自分に合った投資戦略を立て、市場変動時にも冷静に長期投資を続けるため。
- 何で決まる? → 年齢、収入・資産、投資経験、投資目的・期間、性格など、様々な要因が影響する。
- 自己診断のポイント → 簡単な質問を通じて、自分のリスクに対する考え方の傾向(高いか低いか)を把握することが目的。
- 診断後は? → 結果を参考に、具体的な投資戦略(資産配分)を考え、定期的に見直していくことが大切。
投資を始める前に、自分の「リスクに対する構え」を知っておくことは、武器も持たずに戦場に出るような無謀な行動を避けるために不可欠です。今回の自己診断が、あなたが自分に合った投資スタイルを見つけるための一助となれば幸いです。
さて、自分のリスク許容度の大まかな傾向が見えてきたところで、次はいよいよ、それを具体的な投資戦略にどう落とし込んでいくか、という話に進みます。
次回の第6回は、「リスク許容度の範囲内で投資するとは?具体的な考え方」です。リスク許容度が高い人、低い人、それぞれどのような資産配分(ポートフォリオ)を考えれば良いのか、具体的な例も交えながら解説していきます。お楽しみに!