「稲妻が瞬く瞬間」を逃さない!投資初心者が知るべき「敗者のゲーム」の鉄則

インデックス投資の心得

皆さんは「投資」と聞くと、どんなイメージを持ちますか?

「安い時に買って、高い時に売る」 「タイミングを見極めて、大きな利益を狙う」

そんな風に考えている方も多いかもしれません。確かに、それができれば理想的ですよね。でも、現実はどうでしょうか?

実は、投資の世界には「敗者のゲーム」という有名な考え方があります。これはチャールズ・エリス氏の名著で語られている概念で、簡単に言うと「プロではない一般の投資家が、市場のタイミングを読んで売買を繰り返し、市場平均を上回るリターンを継続的に得ることは非常に難しい」というものです。

テニスに例えるとわかりやすいかもしれません。プロのテニスは、強力なサーブや見事なショットでポイントを「勝ち取る」ゲーム(=勝者のゲーム)です。一方、アマチュアのテニスは、相手のミス(ネットにかける、アウトにするなど)によってポイントが決まることが多いですよね?つまり、いかに「ミスをしないか」が重要になるゲーム(=敗者のゲーム)なのです。

投資もこれと同じで、多くの個人投資家にとっては、市場を出し抜こうと積極的に売買を繰り返すよりも、大きなミスを避けることの方が、長期的に良い結果につながりやすい、とエリス氏は指摘しています。

そして、この「敗者のゲーム」において、個人投資家が犯しがちな大きなミスのひとつが、「稲妻が瞬く瞬間」に市場から離れてしまうことなのです。

ソウタ
ソウタ

ぼくは現在、国際分散インデックス投資を17年間実践しています。投資をはじめた直後にリーマンショックにも遭遇しましたが、市場から退場せずに投資を継続できています。今回はそんなぼくの経験を踏まえて、投資をはじめたばかりの投資初心者のかたに長期投資の大切さをデータを踏まえてお伝えします!

「稲妻が瞬く瞬間」とは何か?

「稲妻が瞬く瞬間」とは、市場全体が大きく上昇する短期間の予測不可能な急騰のことを指します。

この「稲妻」、どれほど重要なのでしょうか? いくつかの有名な市場データ分析が、その衝撃的な事実を明らかにしています。

例えば、米国の代表的な株価指数であるS&P500の過去数十年のデータを分析した調査は数多くありますが、その多くが示す共通の傾向があります。それは、「もし、最も株価が上昇したわずかな日数(例えばベスト10日や20日)を市場から離れていたら、長期的なリターンが大幅に減少する」という事実です。

具体的な数字は調査期間や対象指数によって異なりますが、「ベスト10日間を逃しただけで、得られたはずのリターンが半減する、あるいはそれ以上に減ってしまう」といった結果は、決して珍しくありません。日本のTOPIX(東証株価指数)など他の市場の分析でも、同様の傾向が見られます。

考えてみてください。投資期間が20年、30年とあったとしても、年間の営業日は約250日ですから、トータルでは5000日、7500日にもなります。その中のたった10日や20日、市場にいなかっただけで、将来の資産が大きく目減りしてしまう可能性があるのです。

しかも、この「稲妻」はいつ瞬くか、誰にも予測できません。市場が静かに見える時かもしれませんし、多くの人が悲観的になっている暴落の直後かもしれません。経済ニュースや専門家の予測をどれだけ熱心に追いかけても、「明日、稲妻が瞬く」と事前に知ることは不可能なのです。

まるで、ゲリラ豪雨のように突然やってきて、あっという間に去っていく。それが「稲妻が瞬く瞬間」であり、だからこそ、常に市場に身を置いておくことが重要になるのです。

なぜ「稲妻」を逃してしまうのか?

では、なぜ多くの投資家は、これほど重要な「稲妻が瞬く瞬間」を逃してしまうのでしょうか? それは、人間の感情や心理的なバイアスが大きく影響しているからです。主な理由は、やはり市場のタイミングを計ろうとすることにあります。

具体例1:暴落時の「恐怖」による売却(狼狽売り)

  • シナリオ: 2020年初頭のコロナショックを思い出してください。世界的なパンデミックへの懸念から、株価は連日のように急落しました。ニュースは「経済危機」「未曽有の事態」と報じ、SNSでは悲観的な意見が飛び交います。自分の投資口座を見ると、評価額がみるみる減っていく…。
  • 心理: 「このままでは、もっと損をしてしまうかもしれない」「一度現金化して、状況が落ち着いてから買い直そう」という強い恐怖心(損失回避性)に駆られます。周りの友人や同僚が「売った」と聞くと、自分だけが取り残されるような同調圧力も感じます。
  • 行動: 耐えきれず、保有している株式や投資信託を市場の底値に近いところで売却してしまいます(狼狽売り)。
  • 結果: しかし、その後、各国の大規模な金融緩和策などを受けて、市場は予想外の速さで急反発します。売却した人は、「まだ下がるかもしれない」「二番底が来るはずだ」と疑心暗鬼になっているうちに、反発の初動、つまり「稲妻が瞬く瞬間」を逃してしまうのです。回復を確認してから市場に戻ろうとしても、すでに株価はかなり上昇してしまっています。

具体例2:上昇時の「欲」と「不安」による早期売却(利小損大)

  • シナリオ: 長期投資のつもりで買った投資信託が、順調に値上がりして20%の利益が出たとします。
  • 心理: 「せっかく出た利益を失いたくない」「そろそろ調整で下がるかもしれないから、今のうちに利益を確定しておこう」という欲と不安が入り混じった感情が湧いてきます。あるいは、「もっと良い投資先があるかもしれない」と考えてしまうこともあります(機会損失の恐れ)。
  • 行動: 「もっと上がるかもしれない」と思いつつも、目先の利益確保を優先して売却してしまいます。
  • 結果: その後、その投資信託はさらに力強く上昇し、+50%, +80%といった大きなリターンを生み出しました。早期に売却したことで、その後の大きな「稲妻」を取り逃がしてしまったのです。一方で、損が出ている投資商品は「いつか戻るはずだ」と塩漬けにしてしまう(損切りできない)。これは「利益は小さく確定し、損失は大きく膨らませてしまう(利小損大)」という、典型的な失敗パターンです。

具体例3:「賢く」タイミングを計ろうとする罠

  • シナリオ: 経済ニュースを読み込み、専門家のレポートを分析し、「来月は市場が調整するはずだ。一旦売って、下がったところで買い戻そう」と計画します。
  • 心理: 自分は他の人よりも市場を読めている、という自信過剰バイアス。
  • 行動: 計画通りに売却します。しかし、予想に反して市場は上昇を続けたり、あるいは少し下がったものの、自分が想定したほどは下がらず、反発してしまいます。
  • 結果: 「買い戻し」のタイミングを逸してしまい、結局、売却した価格よりも高い価格で買い戻す羽目になったり、市場に戻れず、その後の上昇局面(稲妻)を丸ごと逃したりします。市場の短期的な動きを正確に予測することは、プロでも極めて困難であり、「賢く立ち回ろう」とすることが、かえってリターンを悪化させる原因になるのです。

これらの例のように、恐怖、欲、不安、自信過剰といった人間の自然な感情や心理的な偏りが、合理的な判断を妨げ、「稲妻」を逃す行動へと私たちを駆り立ててしまうのです。

「稲妻」を逃さないための具体的な方法

では、どうすれば感情やバイアスに打ち勝ち、「稲妻が瞬く瞬間」を逃さずに、長期的な資産形成を成功させることができるのでしょうか? 「敗者のゲーム」の考え方に基づいた、具体的な戦略を見ていきましょう。

それは、繰り返しになりますが、「市場に居続けること」です。そして、特に重要なのが「暴落時にも市場に居続け、投資を継続すること」です。

なぜなら、歴史的なデータが示す通り、市場の大きなリターン(稲妻)は、しばしば暴落の直後にやってくるからです。

  • 過去の暴落からの回復: リーマンショック(2008年)、ドットコムバブル崩壊(2000年)、ブラックマンデー(1987年)など、過去の大きな市場の混乱を振り返ると、市場が底を打った後、比較的短期間で力強い回復(大きな上昇)を見せているケースが多くあります。例えば、リーマンショックでS&P500指数が底を打った2009年3月から1年間のリターンは、約+70%にも達しました。もし、この回復局面で市場の外にいたら、この大きなリターン(まさに稲妻!)を得ることはできませんでした。
  • 「恐怖のピーク」が「買い場」?: 市場が最も悲観に包まれ、誰もが「もうダメだ」と感じている時こそ、実は長期的に見れば絶好の買い場だった、ということは歴史が証明しています。しかし、そのタイミングで「買う」という行動をとるのは、心理的に非常に難しいことです。

だからこそ、以下の戦略が重要になります。これらは、感情的な判断を排し、規律を持って市場に居続けるための仕組みです。

1. 長期投資を心掛ける(バイ・アンド・ホールド)

  • (前述の内容に加え)暴落は必ず起こるもの、市場のサイクルの一部であると理解し、10年、20年といった時間軸で投資を捉えましょう。短期的な下落でうろたえず、長期的な成長を信じて持ち続けることが、「稲妻」を捉える前提となります。

2. 分散投資を徹底する

  • (前述の内容に加え)分散はリスクを低減するだけでなく、回復局面での恩恵を受ける機会を広げます。すべての資産が同時に、同じように回復するわけではありません。広く分散しておくことで、どこかで起こる「稲妻」を捉える確率を高めることができます。インデックスファンドを活用すれば、低コストで簡単に、グローバルな分散投資が実現できます。

3. 積立投資を継続する(ドル・コスト平均法) – 暴落時こそ真価を発揮!

  • (前述の内容に加え)ドル・コスト平均法の真価が最も発揮されるのは、実は市場が下落している時です。価格が下がっている時に、同じ金額でより多くの口数を買うことができるため、平均購入単価を着実に引き下げることができます。
  • 暴落時に積立投資をやめてしまうと、この「安くたくさん買う」という最大のメリットを放棄することになります。逆に、恐怖に打ち勝って積立を継続できれば、その後の市場回復局面(稲妻)で、より大きなリターンを得ることが期待できます。
  • つみたてNISAやiDeCoといった制度は、長期の積立投資を前提とした税制優遇制度です。これらの制度を活用し、一度設定したらあとは「ほったらかし」にするくらいの気持ちで、淡々と続けることが、感情に左右されずに投資を継続するコツです。

まとめ

「敗者のゲーム」で語られる教訓と、「稲妻が瞬く瞬間」の重要性、そして暴落からの回復データ。これらを理解すれば、私たち個人投資家が取るべき戦略は明確です。

  1. 長期的な視点を持つ(暴落は乗り越えるものと心得る)
  2. 世界中の様々な資産に低コストで分散投資する(インデックスファンドなどを活用)
  3. 感情に左右されず、定期的に積立投資を続ける(暴落時こそ、やめない!続ける!)
  4. そして、何より常に「市場に居続ける」

市場のタイミングを読んで短期的な利益を狙う「勝者のゲーム」ではなく、規規律を守り、大きなミスを避けて着実に資産を育てていく「敗者のゲーム」に徹すること。恐怖や欲といった感情に打ち克つための「仕組み」を作ること。これが、未来の自分のために、私たちができる、最も賢明で、かつ現実的な選択なのです。

投資にはリスクが伴いますが、正しい知識と戦略、そして何より続ける規律があれば、過度に恐れる必要はありません。むしろ、市場の変動さえも、長期的な資産形成の味方につけることができるのです。

「稲妻が瞬く瞬間」は、予測不能だからこそ、備えが必要です。その備えとは、常に市場に参加し続けるという、シンプルで力強い行動なのです!

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