【インデックス投資の教科書㉞】資産寿命を延ばす「4%ルール」とは?FIRE民も注目の出口戦略

インデックス投資の教科書

前回は、インデックス投資で築いた資産を「いつ、どのように使っていくか」という「出口戦略」の基本的な考え方について解説しました。計画的に資産を活用し、将来の不安を軽減するためにも、出口戦略は非常に重要でしたね。

さて、今回はその出口戦略の具体的な方法論の一つとして、特にFIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立と早期リタイア)を目指す方々の間でも大きな注目を集めている「4%ルール」という考え方について、詳しく掘り下げていきたいと思います。「4%ルール」とは一体どのようなもので、本当に私たちの資産寿命を延ばしてくれるのでしょうか?その仕組み、根拠、そしてメリットと注意点を見ていきましょう。

「4%ルール」とは具体的にどんなルール?基本を理解する

「4%ルール」とは、退職後(あるいは資産取り崩し開始後)の生活において、運用している資産をできるだけ長持ちさせながら、毎年一定の生活費を引き出していくための、一つの経験則(目安)です。

その基本的なルールは、以下のようになります。

  1. 最初の年に引き出す金額:資産取り崩しを開始する年の、運用資産総額の「4%」を、その年の生活費として引き出します。 (例:資産総額が5,000万円あれば、5,000万円 × 4% = 200万円を初年度に引き出す)
  2. 翌年以降に引き出す金額:2年目以降は、前年に引き出した金額に対して、その年のインフレ率(物価上昇率)を反映させて調整した金額を引き出します。 (例:初年度200万円引き出し、その年のインフレ率が2%だったら、2年目は200万円 × 1.02 = 204万円を引き出す)

ポイントは、毎年必ずしも「その時点の資産残高の4%」を引き出すわけではない、という点です。初年度の「資産総額の4%」が基準となり、その後は物価の変動に合わせて引き出し額を調整していくことで、実質的な購買力を維持しながら生活していくことを目指します。

米国の過去の市場データを用いた研究(後述するトリニティスタディなど)によれば、このルールに従って資産を取り崩していけば、非常に高い確率(90%以上など)で、30年以上にわたって資産が枯渇することなく生活できる、とされています。

なぜ「4%」という数字なのか?その根拠と背景にある考え方

では、なぜ「4%」という、この具体的な数字が出てきたのでしょうか?

この「4%」という数字は、主に1990年代後半に米国のトリニティ大学の教授グループが行った研究、通称「トリニティスタディ(Trinity Study)」などの、過去の市場データ分析に基づいています。

この研究では、過去数十年にわたる米国市場の株式と債券のリターン、そしてインフレ率のデータを用いて、様々な資産配分(株式と債券の比率)と、毎年どれくらいの割合で資産を取り崩していくか(取り崩し率)を組み合わせ、どのくらいの期間、資産が持続したか(成功率)をシミュレーションしました。

その結果、

  • 株式の比率をある程度高く保ち(例えば、ポートフォリオの50%~75%程度を株式とする)、
  • 毎年、初年度の資産総額の4%を、インフレ調整しながら取り崩していく

という条件であれば、過去のどの時期から始めても、非常に高い確率で30年以上資産が持続した、という結論が導き出されたのです。

この背景には、資産の一部(特に株式部分)は運用を継続することで成長し、その成長分が取り崩し額をある程度カバーしたり、あるいは資産全体の減少ペースを緩やかにしたりする、という考え方があります。つまり、「運用しながら取り崩す」ことで、資産寿命を延ばそうという戦略なのです。

ただし、これは非常に重要な点ですが、「4%ルール」はあくまで過去の、しかも主に米国の市場データに基づいた「経験則」です。将来の市場動向が過去と同じであるという保証はどこにもありませんし、万能の法則ではない、ということを理解しておく必要があります。

「4%ルール」を採用するメリットと期待できること

それでもなお、「4%ルール」が出口戦略の一つの指針として注目されるのには、いくつかのメリットがあるからです。

  1. 資産寿命の「目安」が得られる 「このペースで使っていくと、だいたい30年以上は大丈夫そうだ」という具体的な期間の目安が立つことで、老後資金計画に対する漠然とした不安を和らげ、安心感を得やすくなります。
  2. 「計画的」な取り崩しが可能になる 毎年の引き出し額の基準が明確になるため、無計画にお金を使いすぎてしまったり、逆に必要以上に節約しすぎてしまったりするのを防ぎ、計画的な資金活用がしやすくなります。
  3. 「インフレ」に対応しやすい 取り崩し額にインフレ率を反映させるため、将来、物価が上昇したとしても、実質的な生活水準を維持しやすくなることが期待できます。
  4. ルールが「シンプル」で分かりやすい 複雑な計算や頻繁な見直しが不要で、比較的簡単なルールなので、専門的な金融知識があまりない人でも実践しやすい、という点が挙げられます。

また、FIRE(経済的自立と早期リタイア)を目指す人々にとっては、この4%ルールから逆算して、「年間生活費の25倍(100 ÷ 4 = 25)」を目標資産額として設定する、という考え方の具体的な根拠としても広く知られています。

「4%ルール」の限界と注意点:日本で適用する際の考慮事項

「4%ルール」は便利な目安ではありますが、これを鵜呑みにせず、利用する上での注意点や限界を理解しておくことが非常に重要です。特に、日本でこのルールを適用しようとする際には、いくつか考慮すべき点があります。

  1. 過去のデータは未来を保証しない 繰り返しになりますが、これは米国の過去の市場データに基づいた経験則です。今後の世界経済や市場環境が、過去数十年と同じように推移するとは限りません。
  2. インフレ率や市場リターンの大きな変動リスク もし、想定を超えるような高いインフレが長期間続いたり、逆に株式市場が長期的に低迷したりすれば、「4%ルール」が想定通りに機能しなくなる可能性があります。
  3. 税金や手数料が十分に考慮されていない 元の研究の多くでは、投資にかかる税金(売却益や配当金に対する課税)や、投資信託の運用コスト(信託報酬など)が十分に考慮されていません。日本では、NISA口座以外での運用益や、取り崩し方によっては税金がかかります。これらのコストを差し引いて考える必要があります。
  4. 適切な「資産配分」の維持が前提 「4%ルール」が機能する背景には、株式と債券を適切なバランスで保有し、取り崩し期間中も運用を継続することが前提となっています。どのような資産配分で運用を続けるか、リスク管理は引き続き重要です。
  5. 日本と米国の市場環境の違い 歴史的に見て、日本の株式市場の期待リターンは、米国市場に比べて低い傾向にありました。また、長らく低金利環境も続いています。このような日本の市場環境において、米国と同じ「4%」という取り崩し率がそのまま適用できるかについては、慎重な検討が必要です。より保守的に「3%ルール」などを目安にするという考え方もあります。
  6. 想定される「取り崩し期間」の長さ トリニティスタディなどの研究の多くは、30年程度の取り崩し期間を想定しています。しかし、平均寿命が延びている現代においては、30年よりもさらに長い期間にわたって資産が必要になる可能性も十分に考えられます。

これらの点を踏まえると、「4%ルール」は、あくまで出口戦略を考える上での「参考となる一つの目安」として捉えるのが賢明です。ご自身の資産状況、年間の生活費、リスク許容度、健康状態、そして日本の経済状況などを総合的に考慮し、必要であれば4%よりも低い割合で取り崩したり、他の取り崩し戦略と組み合わせたりするなど、柔軟に調整していくことが大切です。

まとめ:「4%ルール」は万能ではない!賢く参考にしよう

第34回の今回は、資産取り崩しの一つの目安として注目される「4%ルール」について、その基本的な内容、根拠、メリット、そして注意点を解説しました。

  • 「4%ルール」とは:初年度に資産総額の4%を取り崩し、翌年以降はインフレ調整した額を取り崩す方法。過去データでは30年以上資産が持つ可能性が高いとされる。
  • メリット:資産寿命の目安、計画性、インフレ対応、シンプルさ。
  • 注意点:過去データは未来を保証せず、税金・手数料未考慮、資産配分が重要、日米の市場環境の違い、取り崩し期間の想定など。

「4%ルール」は、将来の資産計画を立てる上で非常に参考になる考え方ですが、決して万能の法則ではありません。そのメリットと限界を正しく理解し、ご自身の状況に合わせて賢く活用していくことが、長期的な資産寿命の確保につながるでしょう。

さて、出口戦略を考える上で、資産の取り崩しだけでなく、「いつまで働くか」「公的年金をいつから受け取るか」といった要素も密接に関わってきます。次回は、少し視点を変えて、老後の収入源としての年金について触れてみたいと思います。

次回の第35回は、「公的年金の繰上げ・繰下げ受給は得か損か?判断ポイント」と題して、私たちの老後の生活を支える公的年金の受け取り方について、その選択肢と注意点を解説します。お楽しみに!

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