新NISA、活用していますか。
つみたて投資枠で「とりあえずオルカン(全世界株式)を買っておけば安心」と思っている方も多いのではないでしょうか。
確かに、世界中の株式に分散投資できる「全世界株式(オール・カントリー)」は、投資の王道中の王道です。しかし、「手数料が一番安いからこれにした」というその判断、実はちょっと古い情報に基づいているかもしれません。
今回取り上げるのは、AERA Moneyが報じた衝撃的なニュースです。2025年の全世界株式インデックスファンドにおいて、「見た目の手数料(信託報酬)」ではなく、「実際にかかったコスト(実質コスト)」で比較したところ、順位に逆転劇が起きたというのです。

これまでは三菱UFJアセットマネジメントが運用する「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称「オルカン」が不動の王者でした。しかし、最新のデータではその座が揺らいでいます。
この記事では、投資初心者が意外と知らない「隠れコスト」の正体と、それを踏まえた上で「結局どのファンドを選べばいいのか」について、わかりやすく解説していきます。これから新NISAを始める方も、すで始めている方も必見の内容です。
パンフレットには載っていない?「隠れコスト」の正体とは
投資信託を選ぶとき、多くの方が真っ先にチェックするのが「信託報酬」だと思います。
信託報酬とは、投資信託を保有している間、運用会社などのプロに支払う「お礼」や「管理手数料」のことです。もちろん、これが低いことは非常に重要です。しかし、これだけで「コストが安い」と判断するのは、実は「家賃」だけでアパートを選んで、「共益費」や「水道光熱費」を確認していないのと同じくらい危険なのです。
見落としがちな「実質コスト」
投資信託には、信託報酬以外にも、運用していく上でどうしてもかかってしまう費用があります。これらは事前に「〇〇%です」と固定できないため、運用が終わった後の「運用報告書」で初めて明らかになります。これを投資家の間では通称「隠れコスト」と呼んでいます。
主な隠れコストには以下のようなものがあります。
- 売買委託手数料:運用会社が株を売ったり買ったりする時に、証券会社に支払う手数料です。
- 有価証券取引税:海外の株を買う時に、その国でかかる税金などです。
- 保管費用:世界中の株を安全に保管しておくための費用です。
- 監査費用:ファンドの計算が正しいかチェックしてもらう費用です。
これら「信託報酬」に「隠れコスト」を足し合わせたものが、あなたが支払う「実質コスト(トータルコスト)」です。
チリも積もれば山となる
「0.1%くらいの差でしょう? 気にしなくていいんじゃない?」と思うかもしれません。しかし、投資の世界ではこの0.1%が将来のリターンを大きく左右します。
例えば、年0.3%のコスト差があったとしましょう。30年間運用を続けた場合、複利効果も相まって、最終的な手取り額には数十万円以上の差が生まれることがあります。
だからこそ、私たちは表面的な「信託報酬」だけでなく、運用報告書に記載された「実質コスト」までチェックして、賢くファンドを選ぶ必要があるのです。
【徹底比較】2025年版・全世界株式の実質コストランキング
では、実際にニュースで報じられた最新データ(2025年度の運用報告書ベース)を見てみましょう。比較するのは、新NISAで特に人気の高い以下の3ファンドです。
- eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)/運用:三菱UFJアセットマネジメント
- はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー)/運用:野村アセットマネジメント
- 楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンド/運用:楽天投信投資顧問
これらはどれも、パンフレットに載っている「信託報酬」は年率0.05%台と横並びの激安水準です。しかし、蓋を開けてみると大きな差が出ました。
2025年 実質コスト(トータルコスト)比較結果
| 順位 | ファンド名 | 信託報酬(税込) | 実質コスト(税込) |
| 1位 | はじめてのNISA | 0.05775% | 0.080% |
| 2位 | eMAXIS Slim(オルカン) | 0.05755% | 0.09236% |
| 3位 | 楽天・プラス | 0.0561% | 0.118% |
なんと、信託報酬(表面上のコスト)ではほぼ横並び、もしくは楽天が最安に見えましたが、トータルコストで見ると「はじめてのNISA」が頭一つ抜けて安いという結果になりました。王者オルカンは2位となっています。
なぜ順位が入れ替わったのか?各社の事情を分析
なぜこのような結果になったのでしょうか。それぞれのファンドの背景にある事情を分析してみます。
なぜ「はじめてのNISA」が勝ったのか?
野村アセットマネジメントが運用する「はじめてのNISA」が最安コストを叩き出した理由は、主に「保管費用の安さ」と「売買コストの圧縮」にあります。
まず、海外株式を保管するコストを0.009%と、他社より圧倒的に低く抑えることに成功しました。さらに、安定して資金が入ってきたことで、効率よく株を買い付けることができ、無駄な売買手数料を減らすことができたようです。まさに「運用のプロ」としての野村證券グループの底力が発揮された形と言えるでしょう。
楽天・プラスとオルカンの事情
一方で、3位となった「楽天・プラス」。
信託報酬は一番安く設定されているのですが、実質コストが高くなってしまいました。これは、運用初期段階でETF(上場投資信託)を使っていたものを、現物の株式に切り替える作業などで一時的にコストがかさんだためと推測されています。ただし、前年度よりは大幅にコストダウンしており、今後の改善が期待されます。
そして、一番人気の「オルカン(eMAXIS Slim)」。
こちらは純資産総額が8兆円に迫る巨大ファンドです。「お金が集まりすぎて、株を買う回数や保管する手間が膨大になっている」という、いわば「人気者ゆえのコスト」がかかっているようです。保管費用が他社より少し高いのも、規模の大きさが影響している可能性があります。それでも0.09%台というのは驚異的な安さであり、十分に優秀なファンドであることに変わりはありません。
結論:投資初心者はどう動くべきか?
ここまで読んで、「えっ、今すぐオルカンを売って『はじめてのNISA』に乗り換えるべき?」と焦った方もいるかもしれません。
結論から言うと、すでにオルカンを積み立てている人は、無理に乗り換える必要はありません。
総合的な判断基準を持とう
今回のニュースは非常に興味深いものですが、ファンド選びで大切なのは「実質コスト」だけではありません。私がおすすめする判断基準は、以下の「3つの柱」を総合的に見ることです。
- 実質コスト(トータルコスト):今回見た通り、低ければ低いほど良いです。この点では「はじめてのNISA」が優秀です。
- 純資産総額:ファンドの規模です。これが小さいと、運用が途中で終わってしまう(繰上償還)リスクがあります。この点では、8兆円規模のオルカンが圧倒的な安心感を持っています。
- トラッキングエラー(乖離):目指している指数(インデックス)と実際の運用成績がどれくらいズレているかです。
今回のまとめ
今回のニュースから学べることは、「信託報酬という看板の数字だけで判断してはいけない」ということです。
- 2025年のコスト最安王者は、野村アセットの「はじめてのNISA」でした(実質コスト0.080%)。これから新NISAを始める人には有力な選択肢です。
- eMAXIS Slim(オルカン)は2位(0.09236%)でしたが、その圧倒的な資金量と運用の安定感は健在です。すでに保有しているなら、そのままで全く問題ない誤差の範囲と言えます。
- 楽天・プラスもコスト削減努力を続けており、楽天経済圏でポイントを重視する人には依然として魅力的です。
投資信託の世界は日々進化しており、運用会社同士が切磋琢磨してコストを下げてくれています。私たち投資家にとって、これはとてもありがたい環境です。大切なのは、こうした「隠れコスト」の存在を知った上で、「自分が納得してそのファンドを選んでいるか」です。
ぜひ一度、お持ちの投資信託の「運用報告書」を検索して、実質コストをチェックしてみてください。意外な発見があるかもしれませんよ。

